感情

彼女は人が沢山歩いてる道を歩きたくなる
毎日通い慣れてる道とは違う道を歩きたくなる
少し遠回りして帰りたくなる
疲れて一刻も早く睡眠をとりたいはずなのに

彼女をそうさせる気持ちはなんなのか
彼女自身も分からなかった
ただひたすら遠回りして帰りたかった

様々な人が交差する道
初めて会う通りすがりの人たち
もしかしたら過去にどこかの道で
すれ違ったかもしれない人達

音楽をイヤホンに流して聴きながら
ゆっくり歩く夜道が彼女には心地よかった

ふと我にかえると寂しさが込み上げてくるから
この建物の沢山眩く光の中に
今、この瞬間
人生で最高に幸せな時を過ごしている人が
彼女の歩く街で起きていることが
嬉しくも、羨ましくも、嫉ましくも思った

彼女は街を歩く人々の目に
どう映っているのだろうか
彼女からは見えない道路に走る車の中からも
視線を向けられているのだろうか
その人の考える"彼女の物語"は
どんな風に思い浮かべられているのだろうか
そんな事を考えながら一人で歩く夜道は
寂しくもあり楽しくもあった

何も考えずに家までの道を遠回りする
歩きながら肩につくゴミには
気づく時間もなかった

雑音は全てイヤホンから流れる愉快な
音楽がシャットダウンしてくれた

いつもなら早歩きで通る道も
待つのが嫌で小走りして渡る横断歩道も
今日はゆっくり待ちたかった

青に変わった横断歩道、ゆっくり進みながら
彼女は目を瞑ってみた
程よく髪が揺れるくらいの風が心地よかった
宙に浮いてふわふわしてる気分になった

周りの目なんてもう考える時間は無かった

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