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400字で分かる落語「居残り佐平治」3

89:居残り佐平次(いのこりさへいじ):その3
【成立】の続き
 榎本滋民氏は、「起伏と緩急に富む快い運びで、よほどの力量がなくては、とてもこなしきれない大作である」と述べる一方で、「落ちだけが木で鼻をくくったようだ」としている。
 「おこわをかける」は「ペテンにかける」の意味だが、江戸時代に「美人局(つつもたせ)」から出た言葉で、遊廓では馴染みの深い言葉である。なお、室町時代に醜女を恐ろしいの意味で「お、こわ」と呼んだのが「おこわ」の語源らしい。私個人はそうした言葉の歴史からもこれで良いと思うが、現代では分からなくなったのは事実である。枕で説明するのがいいのだろうが、落ちを変える演者も多くなっている。
 立川談志は、「あんな奴裏から帰したらどうなんです」「あんな奴に裏を返されたら後が怖い」……「裏を返す」も廓用語で、知識に寄り掛かっているかな。山口敏範というファンの人から教わった落ちだという。談志は佐平治が病だというのは省き、「行き当たりばったりの人生」に意味を見出していた。
 柳家小三治は「あんな奴に三度も来られてたまるか」「でも旦那が仏と呼ばれておりますから」……「仏の顔も三度」に引っ掛けた。
 春風亭柳好(3)は、佐平治の本業が一膳飯屋で「道理で一杯食わせやがった」。
 桂文治(9)は、佐平治の本業が義太夫語りで、「道理でうまく語りやがった」……「転宅」と同じ。
 古今亭志ん生(5)は佐平治が初めて客の席へ出て大騒ぎをし、客が居残りと知って驚く山場で切っていた。盛り上げてぱっと切る力量はすごい。志ん朝も寄席ではこれが多かったが、独演会などでは本来の落ちまで演じた。

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