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400字で分かる落語「稲荷俥」

「い」の75:稲荷俥(いなりぐるま)
【粗筋】 無尽に当たって思わぬ大金が入り、上野から王子まで人力に乗った。車夫が憶病なのを見抜いて悪戯心を起こし、「自分は王子稲荷の使いである」と言って狐の真似をして、料金を払わずに下りてしまう。車夫が恐る恐る見ると、客席に風呂敷包みがあり、大金が入っている。お稲荷様がお授けになったと、家に帰ると長屋の連中を呼んで大宴会。そこへ金を忘れた客が尋ねて来た。大喜びで「福の神の御入来」と迎え入れると、「そういわれると、穴へでも入りとうございます」
「何をもったいないことを。お宮を建ててお祀りします」
【成立】 「稲荷の俥」「偽稲荷」とも。寛政10(1798)年『無事志有意』の『玉』が似ているが、筋は「紋三郎稲荷」の原作というべき、狐が様子を見て「素人は油断がならぬ」という落ちになる。上方噺だが、桂小文治が東京に移植し、林家彦六(正蔵・8)が演じた。上方では桂米朝を聞いたが。天王寺にある産湯稲荷で演じて「産湯狐」という題もあるそうだ。
【蘊蓄】 稲荷は京都市伏見区深草町の稲荷山にまつられた神。これが全国に勧請された。東京には「伊勢屋、稲荷に犬の糞」という言葉があるが、「伊勢屋」は質屋のこと。犬は「生類哀れみの令」により増えたもの。そして、稲荷は本当にどこにでもあったのだというが、関東大震災と第二次大戦の空襲でほとんどが消失してしまった。

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