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【物語の現場025】御成書院の床の間を飾っていた狩野安信の三幅対(絵画紹介)

「狩野岑信」の第十三章で浜屋敷の御成書院の設えについて書きました。その際、床の間に掛けられていた作品のモデルがこちら。

 狩野安信筆「観音・梅雀・柳燕図」

 絹本・水墨淡彩の三幅対。この作品を入手したのは狩野派に興味を持ち始めて比較的早い時期でした。その頃、当たり前のように探幽と尚信という二人の兄の方にしか目が行っていませんでした。

 安信は晩年、「学画は質画に優る(凡人の努力は天才に勝つ)」という言葉を遺しています。それ、わざわざ言うか、という感じ。
 彼は、前半生は兄に頭を押さえられ、晩年は甥の常信への世代交代を迫られます。そんなこんなで、「才能」というものに強いコンプレックスを持った僻みっぽい人物だと思っていました。

 しかし、狩野派の歴史を学ぶにつれ、安信に対する評価は少しずつ変わっていきました。

 現代においては「芸術=個性の発露」です。その視点からは、粉本主義の権化のような安信の評価は低いものにならざるを得ない。しかし、職業絵師集団のリーダー、経営者、管理者、そして何より教育者として見ると、相当優れた人物ではなかったか、と。

 安信は、主人公・吉之助(後の狩野岑信)にとって大叔父であると同時に、母方の祖父に当たります。
 作中、吉之助は父・常信よりも祖父である安信に親しみを感じているという設定にしていますが、これは、三者の作品と画業全般を見て行く中で得た私なりの感想によるものです。

 ちなみに、この三幅対の落款に「法眼」とは入っていません。そこは創作です。ご了承ください。

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