【第2章・浜町狩野屋敷】融女寛好 腹切り融川の後始末(歴史小説)
第二章 浜町狩野屋敷
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血まみれで生死も判らぬ「殿」を乗せた駕籠が、屋敷の中に吸い込まれて行った。この屋敷は、奥絵師四家のひとつ、浜町狩野家の屋敷である。
江戸時代、画壇を制覇していたのは、いわゆる狩野派である。江戸狩野とも呼ばれる。徳川家康・秀忠親子が関ヶ原の戦いに勝利し、江戸に幕府を開いたのが慶長八年(一六〇三年)。その二年後に、当時京都を中心に活動していた絵師集団・狩野派を率いていた狩野光信に対して、幕府から江戸への移転命令が下