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祖母が泣いた日

祖母は元々気の強い女だ。自分のことも周りの人の事も全部把握してやってやらないと気が済まないようなしっかり者。そんな祖母が認知症になりだしたのは10年近く前だろうか。その頃の話だ。

私は、祖母にとても可愛がって貰った。孫の中でも内孫(同居の孫)で長女で跡取りという感じだったからかもしれない。私が思春期で部屋に篭ると入り口にやってきては正座で座って「かのちゃんや〜なにしとんのん?」と毎日毎日やってきた。どんだけ好きやねんってくらい愛されてたと思う。

思春期だった私も成長して家を出た。実は一緒に住んでる頃から「あれ?なんでそんなんもわからんの?」みたいなことはあった。でも家を出てから少し経って家に帰ると母が「おばあちゃん大変やねん」という認知症エピソードを聞くようになった。
家族からもなんとなく距離をおかれた祖母が気になって帰った時に話をした。まだその頃は「かのちゃん」のことはわかっててくれて…

「かのは毎日ちゃんと食べてるの?」
「食べてるよ。作ったりもするし。おばあちゃんは元気?」
「うん、大丈夫よ。かのちゃんはちゃんと食べてる?」
「うん。ちゃんと食べてるよ。」
と何度も同じ話を繰り返してしまう。そのうち、私の顔が言葉から同じ話をしてると言うことがおばあちゃんに伝わったんだと思う。

「おばあちゃんな。おかしいねん。アホなっとんねん。わからんくなってまうねん。これまで出来たことができないねん。情けない…」
とポロポロと涙が出てきた。
あのしっかり者のおばあちゃんが出来ないことがわからないことが増えていく。どれだけ悔しかったのだろうか。

西陽が差した夕方だった。あのおばあちゃんだけは忘れられない。

今はもう、私のことは忘れている。母と父は介護に大変な日々だ。でも息子と会うと「まー。かわいい子。どこからきたのー」と喜んでくれる。
おばあちゃんの顔を見ると元気が出る。

大好きなおばあちゃん。
少しでも長く長くここにいてね。

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