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つづれおり・後日談「ある小春日和の日に」

「ゆっき、チョコもらった? オレ3個」

部屋に来てまで自慢しやがってバーカ、小学生のガキがどうせ義理だろ?
甘やかされて甘い物大好きな弟なんて、チョコ食べ過ぎて虫歯になっちまえ。

と、弟からぶんどったチョコを頬張りながらチェックしているマイピクチャーは、オレ様専用プライベート画像。
まだいたのか、お前は見るな。あっち行け。

父はオレが生まれた頃の写真を実はデータに残していた。悠久に佇む自然を背景にして、赤ん坊のオレは画面の向こう側に確かに生きていた。

父は警察官だ。度々当直があるのをいいことに、あろうことか既婚とも明かさず二重生活をしていたらしい。酷い話だ。家というプレッシャーから逃げたかったのだろうか。弱い人だったんだ。

祖母はやたらオレを跡継ぎだとちやほや可愛がっていたのを覚えている。
思えば不妊に悩む母はプレッシャーもさる事ながら、跡継ぎをなかなか授からないことに相当肩身の狭い思いをしていただろう。祖母が亡くなった途端アッサリ弟を妊娠した。

弟が生まれてからというもの、特別扱いしてくれた祖母もこの世におらず、オレは母から度々キツク叱られた。理不尽に殴られて鼻血が出たこともあるし、今ここで明かせない程の罵詈雑言を浴びたこともある。でも情はある人だったから、虐待というのは言い過ぎだ。

そんな神保の家は弟が跡を継げばいいと思ってはいるが、両親はいつかオレが決めればいいと言う。

木室さんとは互いの連絡先は交換したものの、以来会っていない。

きっとあの人と静かに暮らしているだろう。木室さん、苗字が変わっても、家族が増えてもいいんだよ。オレに気兼ねしないで。

「ユッキー、遅い! 電車行っちゃうよ!」

そうだ。今日はさよみちゃんと一緒に赤石沢のばあちゃんが仕込んだ味噌を貰いに行く約束だ。

ここらで懐かしの画像はクローズ。オトナのイケメンユッキーをセットアップするべく頬をペチペチ叩く。

オレたちは大学生になった。
さよみちゃんは益々仕切り屋の本領を発揮して元気いっぱいだ。

だけど、いざアレする場面になると相変わらず顔を赤らめてモジモジする、可愛いオレの彼女だよ。





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