【青森県五戸町】青森の古民家でメキシコの家庭料理を食べてきた「VIVA LA VIDA」
昨年青森県新郷 (しんごう)村で行われた月刊ムー主催のミステリーキャンプ。
こちらを体験した際の中で「VIVA LA VIDA」というメキシコ料理の屋台が非常に美味しかったという話を以前に紹介した。
あれから3ヶ月、ついに先日このお店にお邪魔する機会があった。
屋台が美味しいのだから店舗も当然、いや屋台で上がったハードルを楽々飛び越すほどに美味しかったので紹介したい。
VIVA LA VIDAの店舗があるのは青森県の五戸 (ごのへ)町。
近隣の市町村でも青森県三大都市の1つである八戸市、上北地方の中核都市の十和田市、町自体の規模は小さいながらも米軍基地を有し異国情緒に溢れている三沢市などと比べ、五戸町は昔ながらの街並みが広がっている印象が強い。
VIVA LA VIDAからは若干離れているが、先日紹介したごのへ郷土館を見れば大体の雰囲気がわかると思う。
地図によるとVIVA LA VIDAは「アピル五戸」という宴会場の隣にあるという。
地図アプリに導かれるまま五戸町の中心部に程近いエリアを走っていると、アピル五戸の看板を見つけた。
少し分かりにくいが、やや細い坂を下った先にあるようだ。
坂を降りるとすぐにアピル五戸と思わしき建物を見つけた。
しかし、レストランのようなものは見受けられない。
もしかして閉店してしまったのか、と不安がよぎるが確かに店のInstagramでは営業するとの文面がある。
また、アピル五戸の駐車場の一部を借り受けているという説明の通りに道路から見て手前右端の駐車場にはVIVA LA VIDAの字がある。
となると、この民家があのメキシコ料理屋台の店舗なのだろうか。
あの味や屋台の雰囲気と周辺の様子がどうしても噛み合わず不安しかない。
正面に回り込んでよく見る。
玄関の脇にメキシコらしい鮮やかな色彩の動物の置物 (アレブリヘスというらしい)と、VIVA LA VIDAの名が掲げられたボードがあった。
確かにここがあの店らしい。
扉を開けて見ると、そこには……
実は駐車場に数台の車が停まっていた時点で分かっていたのだが、ピークの時間を過ぎているであろう時刻だったにも関わらず店内には多数の先客がいた。
田舎町の分かりにくい場所にある店舗ながら、客層が若者ばかりだったのも印象的だった。
訪れた際はランチタイムであり、主なメニューは以下の通り。写真を撮り忘れてしまったが、他にもデザートメニューもあった。
タコス以外にもさまざまなメキシコ料理が並んでいるが、今回はタコススペシャルセットを注文。
注文を受けてからマサ (タコス生地を作る際に使う粉。とうもろこしが原料だがいわゆるコーンフラワーと違ってニシュタマリゼーションという処理を行っており、香りがよく粒子が細かく、柔らかい生地を作ることができる)で作った生地を1枚1枚焼いているらしく、スタッフも自分が行った際には2名程と少人数。気長に待とう。
1目見てまず驚いたのは、手のこみようだ。
右側から白身魚のフライのタコス、エビのタコス、牛ステーキのタコス。奥には揚げたてのトルティーヤチップスとワカモレ (潰したアボカドをレモンや塩、唐辛子などで調味したもの)とフリホレス (インゲン豆を煮たもの。見た目は餡子に似ているが味は優しい塩味) 、その後ろにハラペーニョの酢漬け、そしてサラダが鎮座している。
ランチプレートの中でもかなりの品数だろう。これを少人数で作っているのが驚きだ。
そしてボリュームもなかなかだ。写真では分かりにくいが、このタコス1つ1つが手のひらより1回りほど小さい程度の大きさである。
デザートに頼みたかったとうもろこし粉のケーキが売り切れとのことだったので今回は頼めなかったが、間違いなく頼まなくて正解だっただろう。
まずは白身魚のフライのタコスからいただく。
手に取った瞬間に、見るからに固そうなトルティーヤがあまりにも柔らかくて笑ってしまいそうになる。薄いパンケーキのような柔らかさだ。
焼きたてのトルティーヤって、とうもろこしから作ったやつもこんなに柔らかいのか。
具材が溢れそうになるのをなんとか堪えながらかぶりつくと、心地よい混沌としか表現しえないものがそこにあった。
まず感じるのは、トマトとパクチーの力強い風味。カリカリの衣と中からジューシーな肉汁が滴り落ちる揚げたて白身魚のフライ。そしてトルティーヤの柔らかくもホロホロとした食感と、香ばしいとうもろこしの香り。味、香り、食感…食べた際に感じる情報量がとんでもない。
正直に白状すると、普段食事をする際にはまず相対しないであろう情報の洪水を前に「美味しい」と感じる前にまず圧倒されてしまった。
しかし体は半ば無意識のままに2口目を頬張る。トマトやフライから滴る中でもトルティーヤが吸いきれなかったエキスが手を汚すのにお構いなしに。
そしてそれを飲み込んだ程のタイミングでやっと「ものすごく美味しいものを食べている」ことを理解した。
タコスってこんな食い物だったのか。
続けてエビのタコスを口に運ぶ。
トマトソースと思わしきもので煮込んだエビに、彩り程度に刻み玉ねぎとコリアンダーが乗っている。他2つのタコスは「溢れんばかり」どころか「相当工夫しないと本当に食べている途中で溢れる」ほどの具材が盛られている一方でこちらは少なめというか、常識的な範囲の盛り方だ。しかし1口食べればこれがこれは間違いなく味のバランスを考慮した上のものだとわかるだろう。
エビ味噌が入っているのだろうか、エビの風味のついたトマトソースがとにかく濃厚だ。この量でも十分な味の強さである。これ以上の量ではトルティーヤの香りが飛んでしまうだろう。そして、エビのプリンとした食感とほろほろのトルティーヤの食感のコントラストがまた面白い。
わずかに乗った玉ねぎやコリアンダーの香りも仕事をしている。白身魚のフライのタコスのような情報の洪水とまではいかないが、こちらもエビ、トマトソース、トルティーヤ、そして玉ねぎとコリアンダーが1口ごとに多彩な食感と味わいと香りを口の中で弾けさせる。
トルティーヤチップスすら美味い。
揚げたてのトルティーヤチップスはスナック菓子のようだがそれより柔らかく、香ばしさが市販品の段違いだ。ワカモレは辛さが控えめでフリホレス共々優しい味わいだ。これにレモンを絞ったりタバスコを振ったりハラペーニョを乗せたりしつつ味を調整しつついただく形式のようだ。
他の料理の情報の洪水の中、箸休め的な役割を果たすサラダ。全体的に重めの料理の中で清涼剤的な役割をしっかりと果たしているが、それですらもう「なんかもうわからないけれどもよく分からないドレッシングがめちゃくちゃ美味い」としか認識出来ない。
そして牛肉のタコス。比較的一般的に想像されるタコスのイメージに1番近いと思われる、1口サイズに切られたたっぷりのステーキ肉とトマト中心に玉ねぎとコリアンダー、そしてハラペーニョが乗ったものだ。
これが1番とんでもなかった。
これまで牛肉の「臭み」だと思っていたものが「香り」としてそこにあった。
この牛肉自体は牛自体の香りというか、「草食べて育ってます感」がしっかりとしている。漠然とした「美味い肉のイデアそのもの」といったものが多い (と思っている)和牛とはまた別種の、牛らしさが強い肉だ。
そしてこの牛肉、恐らく下味は塩を振った程度だろう。トマトやコリアンダーなどの他の具材も確かに香りが特徴的だが、醤油や酒などのように臭いをマスキングしたり成分を除去したりするようなものではないと思う。素人の感覚ではあるのだが、そういった臭いを消すのではなく、他の香りとの組み合わせでその香りが心地よいものになるよう感じるようなアプローチを感じた。肉食文化の違いを叩きつけられた気分だ。
そしてトルティーヤの上に牛肉、トマト、玉ねぎと順番に重ねられていることも功を奏しているかもしれない。最初はほぼトマトと玉ねぎ、そこに牛肉の肉汁程度だったものから、1口食べるごとに肉の割合が増えていく。そのために牛肉の個性的な香りに少しずつ慣らされているのかもしれないと思った。
長々と書いたが要約すると、とにかくめちゃくちゃ美味しかった。
そして後からついてきたのがカップに入ったスープ。
確かにスパイスが僅かに効いていて旨味もしっかりと感じるが、貝割れ大根の香りがしっかりと主張するほどに全体的に優しい味わいだ。どうやら牛肉のスープのようだが (確認し損ねたがメニューにもあるメヌードかもしれない)、どことなくお吸い物を思わせる。
具は浮いている貝割れ大根と、そこに僅かに肉が沈んでいる程度なのだがタコスで十分過ぎるほどに満たされた胃袋にはそれがありがたい。情報の渦に呑まれた舌を優しく包み込む。
きょうび「初めて食べるタイプの美味しさ」を開拓できる機会など、それこそ海外に行くなどしなければ中々ないと思っていた。
しかし青森の田舎町の古民家でそれに接することができるなど、にわかには信じられない。なんだかとてもいい夢でも見てるんじゃないかと思ってしまう。
しかし確実に夢ではない、その証拠がある。
VIVA LA VIDAのレジ横では、手作りの焼き菓子も販売されている。時期によって違うらしく、私が訪れた際はビスケットとポルボローネスが販売されていた。
家に持ち帰り、こちらについても味見してみた。
ビスケットは実際のところ味や食感はかなりスコーンに近い。バターの風味が強くホロホロとした食感だ。マサのトルティーヤもそうだが、メキシコ料理はホロホロ食感にこだわりがあるのだろうか。
購入の際に言われた通りに温めると、バターの香りが際立つ。味付けは素朴で優しく、ジャムなどをつけて食べてもいいだろう。
そしてポルボローネス。五島軒や成城石井のものが有名だがこちらの店舗のものも負けていない、というか好みでいうならこの店のものが1番好きだ。
まずくるみの香ばしさが強い。日持ちしない手作り菓子だからこそ、香りのいいタイミングで食べられるのだろうか。そしてビスケット同様にバターの香りとほろほろ食感が素晴らしい。そして今更ながら思ったのだが、少なくともこの2種類のお菓子に関しては「甘過ぎる」ことのないちょうどいい塩梅だ。
訪れた際に売っていたら、是非買って帰ろう。
北東北の美味しいお店として紹介されるのは、海鮮や農畜産物のような食材の良さがメインとなるお店が多い印象がある。
確かに北東北には素晴らしい食材や、それを活かした伝統料理も沢山ある。しかしこういった、ガイドブックには紹介されにくいかもしれないが地元の人だからこそ行く美味しい店も沢山あるのだ。
今年の当noteでは、こういった「北東北に住んでいるから行く」美味しいお店も紹介したいと思う。
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