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雑記(20240808。おれが好きなホラーはこんなの、という語り)

 先日ライオンマスク氏、a.k.a.獅子吼れお先生主催の逆噴射パルプスリンガーオフ会があったのでお邪魔してきました。

デスゲーム小説王者のサイン

 また『領怪神犯』作者の木古おうみ先生も同席されていたのでサインを頂戴しました。

「くわすの神」に因んで我が家のお蚕様と
サインは「きさらぎ駅パスケース」に入れて保管します

閑話休題

 最近ずっと志の低い心霊ドキュメンタリーにツイッターでキレ散らかしているせいか(風評被害だ)ホラー小説について意見を求められる機会を得ました。ただ私は生来の口下手コミュ障マンなのでその場ではうまく言語化できなかったため、改めて整理し書き残そうと思います。
 なお以下はあくまで「俺はこんなホラー小説が読みたいんや」というだけの意見で、こうすればホラー小説は怖くなるみたいなものではありません。ホラーを燻して出た煙を年がら年中鼻からキメている異常者の言うことなので、あまり深く気にしないで下さい。1日3食ラーメン食ってる奴がオススメするラーメンが一般人の口に合うかどうかは別なのと同じです。

「怖い」と「感動した」はベクトルが違うだけで同じ「心の動き」

 ホラー小説を好き好んで読む人間って基本的に異常者なんですよ。怖いものに触れたい、怖いと感じたいクセに「並大抵のものでは怖がってやらないぞ」という矛盾を抱えている。本人はそういう自覚がなくとも、ホラーに触れ過ぎたせいで「家に帰ったら暗い部屋に幽霊がいました。わたしビックリ」程度の展開は舌打ちする不感症です。
 ヘヴィファイトに例えると大きな盾をガッチリ構えて、ウィークポイントをガチガチにガードしている剣盾使いのファイターです。この例え必要? まぁメインコンテンツがヘヴィファイトの活動報告なnoteなんで見逃して下さい……。
 そういう輩を倒すにはどうすればいいか? まず有用なのはフェイント(揺さぶり)ですね。頭部を狙って攻撃すると見せかければ、相手は頭部を守るように盾の位置を高く保持します。そうすると足の防御が疎かになるので、そこを殴りましょう。
 またはラップショット。「盾でガードを固めている人間の後頭部を狙う」という攻撃方法があるのですが(説明が面倒なので省きます。詳しくはヘヴィファイトを体験しよう。お前も甲冑を着てみないか)凡そ他の武術・武道ではあまり見ない技です。なぜなら盾を使うスポーツがあまりないから。小盾があるスポーツチャンバラでも見たことねぇ。なので盾を持った初心者はまずこのラップショットのような見慣れぬ「奇手」に翻弄されます。
 ホラーでよくある「本当に怖いのは幽霊ではなく人間だった」というオチって、こういう攻撃と同じだと思うんです。つまり「幽霊にまつわる怪談と身構えて読む」(盾でガードを固めている)に、「幽霊にまつわる怪談だと思わせ」(フェイント)ておいて「ヒトコワで〆る」(本命の打撃)。
 またラップショットのような「奇手」に換言できるホラーのオチといえば、洒落怖の名作「リアル」にも見られる「読んだお前も呪われました」系のオチではないでしょうか。「リアル」は「この話を体験した人が書き込んでいる(=生きている)」という安心感を裏切った上で、本来はただの読者である我々も怪異に巻き込んで〆ています。ただ残念ながらこの手法にも問題があり、読んでから20年近く経つのに未だ呪われた実感がありません。オイずっと待ってんだぞこっちは。

「怖い」という言葉にはさまざまな意味がこめられている

 日常で「怖い」という言葉を使う時、「何が」「どう」怖いのかを省略してはいないでしょうか。
 例えば帰宅途中、夜道を前から全裸中年男性が歩いてきた。危険を感じて振り向けば後ろからはチェーンソーをブンブン噴かせるピエロがスキップしながら近寄ってくる。この場合どちらも「怖い」と表現できますが、こめられた意味、あるいは割合が多少異なるのではないでしょうか?
 前者は「意味が分からなくて」怖い、後者は「命の危機を感じて」怖い、と表現できると思います。この複数の「怖い」を使いこなすのも、いいホラーを書くうえで重要なテクニックではないでしょうか。
 皆さんは映画「仄暗い水の底から」の原作、鈴木光司先生の短編「浮遊する水」を読んだことはあるでしょうか? 私が同書を読んだのは20年近く前ですが(20年? 20年!? 嘘でしょ、俺はこの20年間で一体何を……)未だに忘れられない描写があります。それは主人公の淑美が娘の郁子とともにエレベーターに乗った際、階数を示すボタンが一つ残らずタバコの火を押し付けたように焼け爛れていた――という描写です。

 指の先に階数ボタンのザラついた感触が残り、淑美は無意識のうちに麻のスカートでその手を拭いていた。エレベーターに乗るたび、黒く焼けただれた階数ボタンに暗澹たる気分にさせられる。階数を表示した1から7までのボタンの表面が、タバコの火を押しつけられて焦がされているのだ。

鈴木光司『仄暗い水の底から』より、「浮遊する水」

 「浮遊する水」の主軸はマンション内で命を落とした少女の幽霊に狙われる郁子と、それを守ろうとする淑美です。焼けただれたボタンも、それを焼いた人物も本作の主軸とは無関係。でもそういう人間が近くにいるかもしれないという淑美の、なぜそんなことをするか「意味が分からなくて怖い」、あるいは「誰にも相談できずに不安」といった別軸にある恐怖が、物語に彩りを添えていると私は思います。

不気味なことがあったことを「不気味なことがあった」だけで表現で終わらせるのはもったいない

 オフ会の場で下読みさせていただいたホラー小説で「入居日に不気味なことがあった」という旨の(すみませんうろ覚えです)書かれていたのを、私は「勿体ない」と指摘しました。これは「不気味なことがあった」と書いてしまうと読者の受け取り方を限定してしまうで野暮に感じたのと、わざわざ書かなくとも「何かあったんだな……」と匂わせるだけで読者は勝手に期待を膨らませてくれるからです。
 じゃあお前ならどんな展開を書くんじゃコラ、と問われたら、例えば

ぐずる娘を連れて母親はアパートを出る

共用の廊下を、前から同じ階に住む老婆が歩いてくる

「○○ちゃん、おはよう! 今日も元気ねぇ」という老婆の挨拶に、娘も「おはようございます!」と朗らかに返す

しかし母親は老婆を無視するどころか、直視するのも厭うかのように、挨拶する娘の手を「ほら、行くわよ!」と無理やり引っ張ってエレベーターに乗り込む

エレベーターの扉が閉まるも、ガラス窓から老婆の姿が見える。「にこやかな表情は、初日に会った老婆と同一人物だとはまるで信じられなかった」みたいな感じで〆る

 こんな感じに書くと、どうすか。これだと「あぁ初日に何かあったんだな」と期待できる上で、「不気味なことがあった」で終わらせるより一翻乗った感じ、しませんか。字数も稼げるし(そこかよ)。

恐怖を描くには適切な順番がある

 小説が一つの世界であるとすれば、作者は世界を統べる神です。読者は作者の書く文字を通すことでしか世界を観測することができません。そして読者は、時には登場人物に憑依することで登場人物になりきり(感情移入ってこういうことだと思うんですけど合ってます?)、物語という先の読めない航海へ旅立ちます。
 しかし登場人物と、それに入れ込んでいる読者の心が離れてしまうことがあります。それは「登場人物のリアクションが事象より先に出てしまう」ことです。
 例えば冒頭の例に出した「家に帰ったら暗い部屋に幽霊がいました。わたしビックリ」を、物語の時系列順に並べ替えると
⓪家に幽霊が出現
①あたし、帰宅
②あたし、幽霊を視認
③ビックリ
 となります。これを
「家に帰ったら、わたしビックリ。なんと幽霊がいました」という順番で書いた場合、「わたしビックリ」の時点で読者は「オッ、何かビックリするようなことがこれからあるんやな」と身構えてしまいます。先ほど例で出したフェイントの逆で、「今からお前の頭部を殴るぞ」と宣言した後で頭部を正直に殴るということですね。これではいくら出現した幽霊がどんなに恐ろしい描写だとしても「フーンなるほどね。まぁ俺は分かってたけど?」と読者の恐怖がスポイルされます。
 これを「家に帰ったら幽霊がいました。わたしビックリ」という順番に入れ替えれば、それだけで「わたし」に憑依している読者の横っ面を、「わたし」と同時に引っ叩くことができます。いやさっきのもそうだけれど、書く時は当然もっと情緒ある風に書きますよ、書きますってば。信じて下さいよ。
 下読みさせていただいた作品では「職場の工場に血の付いた頭皮が落ちていたのを見て、主人公は恐怖を覚えた」という描写を、頭皮よりも先に「恐怖を覚えた主人公」を先に出していることで読者の恐怖が薄れているように感じました。主人公が恐怖を抱いてから読者が恐怖を抱くまでにタイムラグがあるからですね。なので「主人公が何かを踏んで足を滑らせた。バナナの皮でも落ちていたかな?と思いながら靴の裏を見たら、血の付いた頭皮がへばり付いていた」みたいな表現の方がゴア分も足せてお得じゃない?みたいな提案をしたかと思います。
 「物語を読んでいる自分」を読者に観測させ、現実に帰るスキを与えてはいけません。「お前は読者ではなく、俺が書く世界の登場人物の一人に過ぎない」ということを自覚させましょう。

未来へ……

 長々と駄文を書き連ねましたが、上記はあくまでも「俺ならこんなホラーが読みたいな!」というだけのものであります。当然この通りに書けば角川ホラー文庫に語り継がれる名作が誰でも書けてビッグサクセス!という訳ではないし、上記に全く当てはまらんくても傑作のホラーはいくらでもあります。そもそもマトモに書いてねぇやつの創作論なぞ信用するな。
 ただ「お前の創作論などカス! 俺が書いたホラーで二度と便所に行けなくしてやる……」という心で書かれたあなたのホラーで、私が脊髄ブチ抜かれるくらいにビビらせてくれたら、それに勝る喜びはないでしょう。

May chaos take the world!

「ELDEN RING」より、シャブリリ

甲冑積立金にします。