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雑記(20231026) 推薦文 映画「アニアーラ」について

悪いね、急に呼び出して。何か飲む? おしること甘酒どっちがいい? どっちもいらない? そう……。

いや今日は見てほしい映画があってさ。知ってるかな? ヒラコーが呟いてたから知ってるかもしれん。「アニアーラ」っていうの。

ジャンル? ……まぁ難しいな。SFなのは間違いない。

でも「SF」ってさ、色々あるじゃん。例えば「エイリアン」のジャンルはSFでいいと思う。でもゲオ行けば「SPACE BATTLESHIP ヤマト」も「鉄人28号(実写/2005年版)」もSFの棚に並んでる訳じゃん? その三つって同じ「SF」かというとそうではなくて、SFの後に「SF/ホラー」とか「SF/アクション」とか付いて差別化されてるでしょ。じゃあ「アニアーラ」は?って訊かれると…「SF」としか言いようがない。

あらすじはアマプラのリンク先を見てもらえれば分かる。説明しろって? 面倒くさがりだな。

舞台は近未来、もう地球は海が全部下水処理場の入り口みたいな色してんの。詳しくは説明されないけど放射性汚染も酷くて、顔面をケロイドで覆われた人とかもさらっと出てくる。そんな人間が生きていける環境ではなくなった地球を捨てて、8000人が宇宙船「アニアーラ」で火星を目指すっていうのがプロローグ。

なんだけど開始10分で……あ、こっからネタバレしていい? するね? 開始10分でスペースデブリがアニアーラ号に衝突。延焼を防ぐためメインエンジンの燃料を全部捨てちゃう訳。火星を目指す軌道を外れて、戻ることもできず永遠の暗黒を進み続ける8000人の運命は? そんな感じ。

船長の髭モジャは8000人の乗員に「スイングバイ(惑星の重力を利用した軌道修正)すれば火星を目指せる」って説明すんのね。でも一応の主人公であるミーマローベ……これは名前じゃなくて「MIMA(ミーマ)」っていう機械のオペレーター? 管理人? としての役職でしか呼ばれないんだけど。そのミーマローベはルームメイトである航海士から「そんな惑星どこにもねぇよ」っていう機密情報を聞かされるんだわ。

アニアーラ号、荒廃した地球が頑張って作ったわりには内部がもう完全に郊外のイオンモール。マスコットキャラの着ぐるみとかもいる。SF映画にしてはロケが楽そうだな。寝室もビジホみたいな内装。火星に行くまでの3週間、ストレスを感じさせないための設備は揃ってんの。食事は切り詰めたり、水をろ過する用の藻を加工したベトっとしたペーストとかであれば8000人を食わせることはできる。この時点で俺とすれば地獄と大差ないよ。
フードコートやボーリング場もある。メインエンジンはなくても人口重力は発生させられるんだろうな、船体に重力ブロックらしいものは見当たらんが。

んでさっき出てきたMIMAなんだけど、何かっていうと「閉鎖環境に置かれた人のストレスを軽減するため、その人の夢に地球の豊かな環境映像を投影する機械」なんだよね。最初は3週間しかない旅だからそんな施設使わねぇよって感じで全然人気ないんだけど、みんな薄々この漂流が永遠に終わらないと気付いて次第に殺到するようになる。そして人々のストレスのはけ口にされたMIMAが次第に異常を来すようになって…っていうのが山場の一つ。
この映画、いくつか山場があるのよ。「カルト宗教」とか「槍(詳しくは説明できないので、こう言うしかない)」とか、「投影スクリーン」だとか。根本的な解決はできないけれど、今を生きるために目の前の希望にすがり……っていうイベントが定期的にやってくる。

俺、最初に「SFとしか言いようがない」って言ったじゃん。どんな映画かジャンル分けが難しいんだけど、映画以外で一番近いのは「シムシティ」だと思う。
ああいうゲームってさ、誰しも常にマジメに遊ぶ訳じゃないでしょ? いや俺も大昔に体験版しかやったことないんだけど。最初に予算も考えず観光施設、スフィンクスとかエッフェル塔とかバカスカ建てて、予算が尽きたら「あぁ面白かった」ってセーブもせず終了するような無茶苦茶な遊び、したことあるよね。ない?
もしくはガキの頃、遊びでアリの巣にホースで水を注ぎこんで遊んで、飽きたら放置して家に帰ったりとかさ。

この映画って、そういう滅茶苦茶になった街やアリの巣がその後どうなるかを最期まで淡々と描いた作品だと思う。ミーマローベは一応主人公っぽいポジションだけど、主人公というより「ただ画面の中心に居続ける人」って感じで、何かを劇的に変える力もない。
みんな大好き「ミスト」に近い虚無感はあるんだけど、あれほど感情移入させるような作りになってないと思うんだよね。BGMもないし、そういう情動に訴えかけるような作り方はされてない。評価が☆1から5まで割れてるの、そういうところにも理由があるんじゃねぇかな。刺さらない人には「だから何?」で終わってしまう。俺が五段階で付けるなら3.5かな。いい所ばかりの映画じゃないけれど、だからといって「ただの鬱SF」と掃いて捨てるには惜しい。

少なくともお前には刺さるところがある映画だよ。何でそう思うかって? だって、刺さるところがないとこんな訳の分からん映画の紹介をここまで読まないでしょ(笑)
少なくとも俺には刺さる…ってほどじゃなくとも、トゲみたいな映画。折に触れて思い出すし、色んな人の感想を聞いてみたい映画として残ったよ。

俺の感想? 言わなきゃダメ? …わかったよ、言うよ。でもこの先はお前も見てから読めよな。
あ、その前に一つだけ忘れてた。途中バッキバキにボッキディウムしたチンチンナブリフェルム(ツノゼミの学名)が無修正で出てくるから、横に御家族がいる時だけは注意してね。

アニアーラ号ってさ、もう何しても「詰んでる」訳じゃん。それに引き換え俺はなんて恵まれてるんだろう、水も空気もいくらでも自由に使えるし、飯もなんか変な藻のペーストじゃなくて自由に選べる。娯楽もある、カルト宗教に頼るほど行き詰ってもいない。でも、「詰み」はもう見えてるんだよ。
まぁここからは俺が勝手に抱えてる厭世思想だからマジに受け取ってくれるなよ。
合計特殊出生率はガンガン下がってるし、俺も結婚はしてるけど子供を作る気はない。「異次元の少子化対策」って何なんだよ、ウチみたいな結婚して働き盛りで経済的にも裕福な夫婦が「よっしゃ子供作るぞ」なんて微塵も思えない少子化対策なんてどこが異次元なんだろう。
たまに思うんだよ。俺は嫁さんを看取ってやれるんだろうか、もしくは俺が先立った後に嫁さんは一人でやっていけるんだろうか。

そう考えると、確実に詰んでるとはいえ人類最初のファーストコンタクトを経験できたり、35億年前に発生した生命をこと座近くのハビタブルゾーンまで届けることができたアニアーラ号。果たして「生」に意味があるのは、どっちなんだろうな?

そんな風に俺が置かれている現実を考えると、ちょっと背筋がヒヤっとしちゃうんだよね。ジャンル分けに悩むって話したけど、俺としては「SF/ホラー」だよ。

甲冑積立金にします。