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逆噴射小説大賞2022 振り返り(その一) ライナーノーツ、アンドソーオン

毎回毎回コレ書きたいがために参加してるフシがある。「その一」って書いてるのは結果発表の後に「その二(反省会)」をする予定だからです。

「水底の教室」

前回の全落ち以来、ストックし始めたネタの一つにあったのが「白いセーラー服の少女がため池に浮かんで溺死している」というもの。純白の綺麗なものが緑色の汚いものに穢されているのええやん、的な動機だけが先走ってそれ以外は設定も何もなかったですね。
でも最初に書き上げたのは、投稿作と大きく異なりました。

 真っ白なセーラー服を着た後ろ姿が、深い緑色に濁ったドブの水面に浮かんでいる。滞った水の発する不快な臭いと油蝉の合唱に包まれながら、その光景をただ眺めることしかできなかった。
 午前8時25分、白石真由美は生前と全く同じ時間に登校する。ちょうどクラスの真ん中の席。一輪挿しの花瓶と、彼女の遺影が飾られた席に、あの池と同じ緑色の汚水を撒き散らしながら着席した。
 だが、その姿も。水気を含んだ足音も。吐き気を催す腐臭も。この教室でただ一人、俺/僕しか気付いていないのだ。彼女は探しているのだ、自分を殺した俺を。/彼女は探しているのだ、自分を見捨てた僕を。
 緑のまだら模様が浮かんだ白いセーラー服に身を包む、顔がちょうど半分崩れた彼女。俺の席からは、生前とさほど変わらぬ整った顔が見える。俺に殺されたとも知らず、健気なことだ。/僕の席からは、生前と似ても似つかないどろどろに崩れた顔が見える。僕が彼女を見捨てたことを知っていて、責めているのだろう。
 あれからちょうど一カ月。俺/僕だけがその異常を知りながらも、それ以外は何も変わらない日々。
 だけど、その日だけは違った。
 うっ、お、と短い嗚咽が聞こえる。誰も反応をしていないところを見るに、声は彼女のものだ。何事か、と目を向けたその瞬間だった。
 おぼぼろごえっ
 彼女の口から汚水が逆流し、机と床にぶち撒けられる。ただでさえ酷いあの池の悪臭に腐敗した彼女の体液が混ざり、教室は耐え難い臭いで満たされた。
うわっ
ひっ
 思わず声が漏れた口を押える。彼女は派手に嘔吐したが、それ以外に異常はない。あるとすれば、俺と/僕と同じタイミングで声を上げた誰かがこの教室にいるということだ。いるのだ、この教室に。彼女が見えているもう一人が。彼女の死に関わった者が。

当初、白石真由美は完全なる被害者でした。その水死体が毎朝教室に登校しているが、殺した者/助けられなかった者、の二人しか見えない。二人は白石の嘔吐をきっかけにお互いの存在に気付き――という内容。だが視点の入り混じりは800字を一読しただけで読みにくいな……と「助けられなかった者」の視点のみに絞ったのが次のバージョン。

白石真由美の水死体は、生真面目だった生前の正確に相応しく今日もきっちり午前8時に教室へと姿を現した。
先日、彼女は貯水池で溺死しているところを発見された。世間では彼女の死が未だ事件か事故かも判明していないというが、事件でなければ死体となってまで毎朝登校などするものか。
教室に現れた醜く青白い肉塊は、耐え難い腐乱臭を放ちながら教室を睥睨する。その仕草が自らの死に関わった者を探しているようにしか思えず、僕は目を合わせないように顔を背けた。朝の教室の喧騒は彼女の現れる前後で何も変わらない。これは僕にしか見えていないのだ。
誓って言うが、彼女を殺したのは僕じゃない。だが彼女を助けられたかもしれないという疑念がどうしても捨てられなかった。
彼女が死んだ6月のあの日。一人で帰宅する彼女をいつものように尾行した僕は、通学路を外れた彼女を見失ってしまった。邪な想いだったとしても諦めずに彼女を探していれば、こんな事になっていなかったのではないか。
罪悪感とともに、僕はいつものように息を潜めて一日を終える――はずだった。
うっ、お、おぶっ
短い嗚咽が聞こえる。何事かと顔を上げた瞬間、隣席のそれはびちゃびちゃと汚らしい音とともに口から汚水を吐き出した。
ただでさえ酷い悪臭に腐敗した水死体の体液が混ざり、教室はいつも以上に耐え難い臭いで満たされる。胃からせり上がってきた吐き気を抑え込むように口に手を当てた時。
ひっ
ひきつった声が確かに聞こえたのだ、教室の数カ所から。僕と同じ、想定外の行動を起こしたあれに怯えるような声。
僕の腕を水に塗れた腕が掴む。嘔吐を終えて顔を上げた水死体と目が合い、僕はようやく理解した。
今声を上げた者の中に、彼女を殺した者がいる。
そう訴える彼女の瞳が湛えているのは生前と何ら変わらない光で、僕はそれに初めて気が付きどうしようもなく悲しくなった。
僕は、彼女のストーカーだった。

「僕」の視点だけに絞り、ストーカーだったという設定を追加。一度はこれで投稿しようかとも思ったんですが、10月8日に開始のゴングが鳴って以降、他参加者の投稿したパルプ作品を読むにつれ「インパクトが足りないのでは?」「そもそもエンタメしてるか?」「800字とはいえ水死体が登校する風景を延々読まされるのはキツいし多分書いてるヤツしか楽しくない。そもそも水死体がゲロ吐く小説読みたいか?」と思い直し設定をイチから見直し。そして白石真由美はあんなんになりました。今思うと名前が地味なんだけど、そこで凝った名前にして余計なフックを話に作りたくなかった。でももうちょっと凝ってもよくない?

俺には「調子に乗ったヤツが痛い目に合う様子はエンタメである」という強い信念があり、白石は悲劇のヒロインではなく死んで当然の奴、そして復讐者という二面性が生まれました。もし続きを書くならクラス全員ではなく一部のグループが共謀したように設定を変えると思います。28人のキャラ作るの絶対しんどい。

本文にはないボツ設定ですが、クラスの標語は「ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」です。空気を読めない担任が一人で決めました。
みんなはみんなのためにひとりを殺しました。

「童戯の不始末」

「水底の~」はまだ「理」で組み立てた余地もありますがこちらはかなり勢い。2日でやった。ただ勢いだけでなく「残された時間で自分が書けるだけの材料は何か?」をよくよく吟味して組み立てたつもり。

ネタ帳に「肝試しに来た廃寺で仏像を見つけたら割れて中身が見えたけど、即身仏を芯にした仏像の筈が肉体は瑞々しさを保っていた」というものがあったので、そこから書き始めたがまぁ~~~手が進まないんだわコレが。予定では最初肉体を食らったことによる和ゾンビパニックの始まりを予感させるものだったが、パルプ四聖獣たるゾンビを出すと相当話を面白く盛らないと埋もれるな、と感じたためリテイク。

次は「無理矢理即身仏にされた少女が復讐を果たすため、自分の肉体をたまたま出会った盗賊に喰わせて力を与え、共謀して自分を即身仏にした妹・弟たちに立ち向かわせる」というあらすじでなんとかならないかと考えた。でも能力バトル自体がありきたりなものにしか広がらずボツ。「高圧的な少女に自分の肉体を食べるよう強要される」というシーンは書いていて楽しかったけれど、それ以外は何のパンチもない。

この辺りで〆切り二日前の朝。時間がないので自分の手札を一度吟味し、即身仏から「人柱」的な要素だけを抜き出し、自分の(まだ)得意なジャンルである「妖怪」を合わせたところ話がとんとん拍子に組み上がった。「不始末」は一体誰が何をしくじったのか、というのを骨子に据えてます。
細かい見直しは〆切りの3分前まで続けてた。なので〆切ギリギリの投稿になったのは仕方ないことであり、別に狙ってやったことではないんです。いやマジで。信じて。
最後の一文は何を入れるか迷った記憶がある。ナシですらいいかなと思ったけれど、「私」のバックボーンを匂わせつつ話のボールを後段に投げるようなものを書いた。意図した成果が得られたのかは分からん、結果発表を待ちましょう。

なお上記二作のヘッダー画像はお絵描きばりぐっどくんのケツを叩きまくって描かせたものです。どちらも厭な気持ち悪さがあってよくできている。

モノ書くなんて一番の自分語りじゃん

承前。

前回、俺はキレた。
通らなかったことではなく、パルプをナメた自分にキレた。だから今回はナメなかった。
そして考えた。パルプとは何なのか? サイバーパンクならパルプなのか? 銃を撃てばパルプなのか? ファンタジーならパルプなのか? 恐らくどれも間違っている。パルプに作法などない。読んでるヤツの興味を引いて、次のページをめくらせ、誰の人生に刺さらなくとも読んでいる間だけはその指を止めさえしなければパルプなのだ。少なくともそう思った。そう思うまでに3年かかった。
だから、精一杯そうなるように書いたつもりだ。賞が取れたら嬉しいが、取れなくてもまぁソーイチロー氏の趣味じゃなかっただけだろうと受け取っておく。読んでくれた人達には感謝しかない。

なおこの2本とも続きを書く予定はありません。
数年前から書いてはいたが、いろいろあって忌み子のようになり放置してしまった、俺が書く以外は日の目を見ることのない物語があるからです。そっちにケリをつけるまでは寄り道はあまりしたくない。でも気が向いたらする。

それではご拝読いただきありがとうございます。結果発表楽しみですね。

甲冑積立金にします。