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「天気の子」の感想

新宿の東宝シネマズで天気の子を観た。
僕は彼の作品は全体的に大好きで、処女作の「彼女と彼女の猫」は15回くらい見たし、「秒速5センチメートル」を見て、新宿という街がこんなに美しく見える場所なんだ…と大きな気付きを得るきっかけとなった。
「君の名は」は観ていないけれど、その他の代表的な作品は全て見た。そんな僕ですが、天気の子の感想を書きたいと思う。


※ネタバレも多少含みますのでこれから観ようと思っている方は読まないほうがいいと思います。

巨匠となった監督が作る作品は作る度に注目され、その都度賛否両論にさらされる。称賛も批判もどちらのベクトルに対しても強いエネルギーが生まれ衝突し合うが結論が出ることはない。永久に結論が出ない「問題作」を生み出すのが本物の映画監督ではないだろうか。

天気の子は問題作だと思った。
問題作というのは良い点も悪い点もたくさんあり、評価し難いがインパクトの大きい作品のことだと僕は解釈しているので、それに沿って書いていきたいと思う。

良い点
・しつこいほどに「NTTドコモ代々木ビル」を描いていた
秒速5センチメートルくらいから毎度のように登場しているビル。これは新海誠にとってある種の「杭」のようなものだと思う。「俺はこのビルが見える範囲からこんなにも色んな作品を作れるぜ!」という、間接的な自信の表れのように僕は感じる。描き方もアングルもカメラワークもすべての作品で異なっているので、これはもはや彼のライフワークなのではないだろうか?
登場しただけで僕としては嬉しい。

・現代の新宿に超常現象を持ち込んだ
本作の舞台は現代の東京で、そこで超常現象的なイベントが発生する。つまりファンタジー作品ではないかと僕は思う。ファンタジーを現代の新宿で堂々と描いたこと自体が評価に値すると思う。
ファンタジーのかけらも夢もない殺伐とした現代の新宿に、超常現象を持ち込み、強引に展開していくことで観客に「問い」を投げかけていると感じた。「新宿とファンタジー」という組み合わせによって冷める観客は冷めるし、没入できる観客もいるだろう。それを新海誠は問うているのだと思う。架空の、都合のいいことばかり起こるような世界で、都合のいいシナリオが起きるよりも、自分たちが今まさに生きている世界で都合のいい展開が起きる物語を見た方が、物語と観客の間にどのくらい温度差があるのか正確につかめると思うからだ。

架空ならこれは架空のものと割り切れるが、天気の子は舞台が現代で写実的な新宿の描写が多く、どうしても超常現象とはちぐはぐな関係になってしまう。それを分かった上で、あえて超常現象的展開を扱い、その違和感で持って観客に、現代の新宿にどれだけファンタジーの入り込む余地、つまり「夢」が残されているのかを試したかったのだと思った。

・東京という都市が、一人の少年の未熟で熱くひたむきな思いに翻弄されるというシナリオ
少年の感情や行動がきっかけで東京全体が翻弄される様子は見ていて気持ちがよかった。「そんなわけないやん」とツッコみを入れたくなるような展開の連続だった。でも、これに大真面目にツッコんでいては新海誠の思うツボだと思う。

悪い点
・先にあげた良い点が全て悪い点になってしまう可能性があるなのに、それを強行した点。
良い点を挙げたが、どうしても「良さのディテール」が荒いように感じてしまったのが正直なところだった。今まで見て来た作品よりも、カットのアングルや場所のバリエーションが多く、散漫になってしまい、印象に残るカットが少ないのが残念だった。当然、いつも通り一つひとつのカットは素晴らしいクオリティなのだが、グッとくるものがなかった。

作品全体が作品の持つ世界観というより、未熟な主人公が持つ時間に作品が支配されていて、時間の流れ方に重みがないように感じた。十代のテンポであるのは構わないが、それが作品全体の雰囲気になってしまうのは、新宿と少年のちぐはぐさを補う要素が不足している証拠かもしれない。


僕としては新海誠が新作を発表してくれるだけですでに嬉しいし、現代の東京が描かれているだけで、僕がこの世界に今生きているということを実感できて、それ自体が大きな癒しになっている。どういう意図なのかは結局は全て僕の想像でしかないので、何を書いたところで僕の方こそ説得力に欠けるのだが、こうして彼の新作の感想を書けること自体が嬉しいし、今後も新作を作っていって欲しいと思った。


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