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07.02 自ら築いた壁

この前、昔の自分を思い出させる若い女性とすれ違ったので、今日はそのことについて書こうと思う。

僕は大学生くらいの頃、誰よりも暗い内面を持つことが最高にカッコいいと思っていた。

「暗い内面」とは、いつも物憂げで、口数が少なく、ミステリアスで、話しかけにくい奴であることを美徳とする精神のことである。

塾の自習室で人間失格を読んだり、ウォークマンのイコライザの低音部分だけをマックスにしたり、モスバーガーのカウンター席で頬杖をつきながら、窓の向こうの駐車場を全力で睨むような奴。

文章を書くと急にテンションが高くて、心を許せる友達といるときは本気で笑うように意図していて、自分の中でギャップが生まれるような設定を用意し、それを使い分けることを喜びとしていた。

自己陶酔であり、防衛だったと思う。ミスチルの歌詞によく出てくる「自ら築いた壁」である。

当時は今よりも、悩む要素が多かったし、悩み続けるには悩むこと自体に酔うのが一番なので、防衛手段として僕は暗さをキープしていた。電車の中でも、バイト先でも、鏡の前でも。

そういう時期はいつのまにか終わっていたのだと最近気づいた。

気づいたのは、平日の朝に短いスカートのムスッとした20代前半くらいの女の子とすれ違ったときだった。
彼女の足は細長く、腰もくびれていて、髪も長くて、リボンまでつけていて「あぁ、かわいいな」と普通に思った。
でも、そのムスッと感は僕の眼差しだけでなく、全ての他者の視線を拒んでいた。

この瞬間に、脳内に散らばっていたパズルのピースが連結した。

――これは”昔”の自分か。

彼女は自分を魅力的に見せる格好をしておきながら、他者を徹底的に拒むことで、自分を意図的に孤立させているのだと思った。孤立は孤独を生み、孤独は自己愛を増長させる。誰からも愛されない状況を作り、陶酔している。

東京では、意識高めのどこで買ってきたの?雑誌の中の人?(何故か二人組が多い)みたいな人を時々見かけるけれど、彼らは自分の世界を構築し、俺たちは最先端、みたいな壁を作ることで自分を肯定している。それは悪いとは思わない。僕もそんなことをやっていたし、彼らが何歳になってもそういう方法で自分を愛したいのならやればいいと思う。

が、この前すれ違った子はなんというか、
「病みたいの?」って聞きたくなるようなムスッと感だった。
病むことをブランディングとする方向に振り切れていない感じがした。
簡単に言うと、気取り切れていない。

彼女は今きっと悩みの多い時期なのだと思う。大丈夫かわいいよって言ってあげたいけど、それはやらない。拒むからには徹底的に拒み、そのリスクも背負わないといけないからだ。

でも、どこにも振り切れていない人を後押しするような小説は書きたいなと思った。迷いこそが一番人間らしい状況だし、迷うことは真剣である証だと思うので、ムスッとした人は基本的に全員好きです。


おわり

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