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#071 カフェバッハ

南千住という駅に降り立つのはこれが初めてだ

なんとなしに出た地下鉄の下り口が目的地と反対だったせいで 駅周辺の複雑な地形を理解するのに少し時間がかかった
常磐線やつくばエクスプレスの入り口が見えるところからぐるりと回るようにして歩き 反対側の地下鉄改札を目指す 目的の店は駅からさほど遠くはなさそうだ 

その店に行ってみようと思ったのは およそ2週間前のこと
地元で気になっていたカフェに足を運んだ日だ
海に程近い街の住宅街でおそらく自宅の一階で営まれているカフェ

扉を開けると店主が柔らかな表情で出迎えつつも 小さな子供を連れていたわたしたちに 小学生未満は一応遠慮してもらっている と申し訳なさそうにいった

娘は日本で言えばすでに1年生の年だが、9月始まりの台湾になぞるとこの時正確には未就学児である

しかし咄嗟に 一応1年生なんですけど と遠慮がちに言ってみると それでしたらどうぞおかけくださいと言って席に案内してくれた

わたしと夫はカフェが好きで 我が家では お茶をする という習慣がある 赤ちゃんの頃からカフェ慣れしている娘にとっては カフェに入ることは何ら特別なことでもない 比較的「いいこ」で座っていられるのでお店の方を困らせることはないとは思う

話がそれた
この地元のカフェで手にした一冊のカフェ本にこの店の店主が載っていて 店を開いた経緯が記されていた そこには南千住の一軒のカフェの一杯のコーヒーに感化されて脱サラして店を開いたということが書かれていた

店主の人生を変えた一杯のコーヒー
それが気になって早速地図アプリを立ち上げ南千住のカフェをチェックした
東京で時間が取れたらいってみよう

ちなみにこの店のコーヒーはもちろん美味しかったのだが それ以上に感動したのは店主の奥様が手作りしているというザッハトルテである 本場のようにしっかりアプリコットジャムが入っており クリームを添えていただくスタイルまで完璧であった これを目当てで通ってもいいほどだ

次回の帰国時にも訪れようと決めて 店を後にしたのが2週間前のことである


南千住の駅から車輌区に繋がる複数の線路を越えるための歩道橋を渡る 降り立ったらそのまま真っ直ぐ5分ほど歩く スカイツリーが見える道沿いにその店はあった

ガラス張りで前の通りからも中の様子が見えたのは 地元のカフェとは違ったが 奥に見えるカウンター周辺の作りはここのレイアウトを参考にしていたのだなとわかった

1人だったのでカウンターに通され ハンドドリップしてくれるところを目の前で見られた 店主の後ろの棚には各種コーヒー豆がガラス瓶に入って並んでいた 地元のあのカフェと同じ光景であった

カウンターを挟んで客席の奥にはこだわりの焙煎機が設置されている

一通りメニューを見たあと ブレンドコーヒーとチョコレートケーキを注文した

店主が丁寧に落としてくれる様をじっくりと見ていたい気持ちはあったが あまりまじまじとみるのも失礼かもしれないと思い できるだけさりげなく視線を自然に向けるようにした 

コーヒーのガラス瓶の棚の下にはさまざまなデザインのカップが並んでいて どのカップが手元に来るのかワクワクしながら眺めたりもした

木製の椅子の背に店名が彫られていることなんかも確認したりした

店名のついたシンプルなカップに注がれたコーヒーが手元に届いた ブレンドコーヒーらしさが溢れるシンプルな佇まいに 思わず笑みが漏れた

コーヒーの味は正直 美味しい としか言いようがない 味に対するこだわりもなければ知識があるわけでもないのでそれを表現する技量がない カフェについて書いているのに 大事なことを書き表せないのが悔やまれる

しかしこれが一人の人生を変えた一杯であると思うと とても感慨深い味であった

このコーヒーが私の人生を大きく変えることはないが 一杯のコーヒーを全身で味わうことができたなら 次に体を巡る空気をより新鮮なものにかえられるだろうということはわかった

店に入る前にぱらついていた雨が 店を出る頃には止んでいた


この店の名前はカフェバッハ コーヒー界では有名な店である 音楽の父と言われるバッハのようにこの店もまた日本のカフェ文化を牽引している 


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