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場面緘黙と迷走神経【Q3】「緊張で頭の中がまっ白になる」のはなぜ?

この記事は、SM H.E.L.P. の2023年秋サミットでカイロプラクターのロングマイヤー氏と主催者ケリーさんの対談を視聴したロンドン在住のみくの疑問に、代表の圭子さんが詳しく回答したものです。

【Q3】「緊張で頭の中がまっ白になる」のはなぜ?
場面緘黙の子どもでなくても、緊張すると頭がまっ白になり、何も言えなくなる、言葉が出にくくなるという経験はあると思います。これは神経系がどの様な働きをしている時に起きるのでしょうか?(かんもくネット・みく ロンドン在住)

■圭子さん回答
私たちは極度に緊張すると、頭の中がまっ白になって言葉が出なくなります。これは、脳の警報機である「扁桃体」が、理性の脳である前頭前野をのっとる「扁桃体ハイジャック」という現象だそうです。
扁桃体は、脳の内側にある「2つのアーモンド」のような部位。英語では「Amygdala(アミグダラ)」と呼ばれています。扁桃体はいわゆる警報器。危険を察知すると扁桃体から神経インパルスが送られ、アドレナリンやコルチゾールが放出されます。その結果、血圧や心拍数が上がったり、筋肉が緊張したりといった交感神経系の活性が起こります。これがいわゆる「闘うか、逃げるか反応」ですね。身体は「🔴交感神経系優位」の過覚醒状態となります。

原始人がトラに襲われた時「闘うか、逃げるか」する必要がありました。そんな時、どう行動しようかと思案している余裕はありません。そのため、言語など高次の認知機能の司令塔である前頭前野は扁桃体にハイジャックされて、スイッチオフの状態になるのです。頭の中は思考がストップして真っ白。もちろん前頭前野の一部である音声言語をつかさどるブローカー野の働きもストップして言葉が話せなくなるそうです。

極度の緊張でフリーズするまではいかなくても、緊張や怒りを感じた時、私たちが理性的に物事を考えられなくなるのはこの扁桃体のシワザです。扁桃体と前頭前野の活動は逆相関していて、扁桃体が活性化すると、前頭前野の活動は低下します。不安傾向が強い人は、緊張する場面になると前頭前野のワーキングメモリ(脳のメモ帳)の働きが低下しやすくなることもわかっています。

前回、場面緘黙症状を覚醒状態という観点から考えると、「典型的な『話せない』時の状態」には下記の3つが考えられることを述べました(ポリヴェーガル理論という仮説を使用しています)。

① 何も考えらえない・声が出せないフリーズした過覚醒状態
  (🔴交感神経系+🟦背側迷走神経系)
➁  適切な発話機会があれば話せる最適な覚醒領域にいる状態
  (🟩腹側迷走神経系優位)
➂ 身体に力が入らない低覚醒状態
  (🟦背側迷走神経系優位)

フリーズは「🔴交感神経系」と「🟦背側迷走神経系」が同時に活性化している状態です。いわば、アクセルとブレ―キを同時に踏み込んだ状態。「闘うか、逃げるか」できるように心肺と筋肉が活性化(理性の脳である前頭前野はスイッチオフ)すると同時に、緊急ブレーキがかかって身体は不動となります。全身の筋肉と内臓が緊張し、身体にエネルギーが充満します。

情動が大きく動くと、その時の記憶が脳や身体に強く刻み込まれます。緊張で話せなかったという身体の記憶は、似た場面に対して「危険!」と判断します。こうして頭では大丈夫と思っていても、同じような場面で予期不安が生じるのです。もともと気質的に扁桃体が敏感な子ども、言語に苦手感がある子ども、情報処理が苦手な自閉症スペクトラムの子ども、感覚統合がうまくいかない子ども、トラウマの影響がある子どもは、似た場面に対して過覚醒になって不安が高まります。

場面緘黙の取り組みは、スモールステップで段階的に進めていくことが大切です。子どもが今話せている場面から「楽しく」「自信をつけながら」「場数を多く踏んで」、発話できる場面を増やしていきます。少し不安の高い場面で、いかに楽しい気持ちを保つ工夫をし発話を促していくかが課題です。

次回は「能面の様に表情がない」のはなぜなのか、 体に力が入らない低覚醒状態、シャットダウンについて考えます。

かんもくネット 角田圭子 (臨床心理士/公認心理師)

図引用&参考:Dr. Sakshi Tickoo(2020)The Amygdala Hijack: Re-learning Emotional Intelligence