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場面緘黙と迷走神経【Q5】場面緘黙は何を回避する症状?

英国の緘黙治療第一人者、マギー・ジョンソンさんは、場面緘黙を恐怖症として捉えると解りすいと提唱しています。例えば、高所恐怖症の場合、高いところに立つと理由もなく足がすくんで恐怖に陥ります。心臓がドキドキしたり、体が震えたり、冷や汗がでたりする人もいるかもしれません。そんな怖い思いを繰り返さないため、高いところを極力避けるようになるのも頷けます。では、場面緘黙の場合は何を回避するのでしょう?人前で話すこと?人に注目されること?それとも人に自分の声を聞かれることでしょうか?
かんもくネット みく(ロンドン在住)

■圭子さん回答

場面緘黙の子どもは「人前で話す」ことや「人に声を聞かれること」を回避します。場面緘黙症状を持つ子どもは、話そうとすると緊張・不安が高まりますが、話さないで事が過ぎると一時的にホッとします。そのため「話さない」という回避行動が強化されます。このメカニズムは高所恐怖症とよく似ています。

場面緘黙症状をもつ子どもは社交不安症を合併していることが多く、「人に注目されることや人と交流すること」に強い恐怖を感じ、そのような場面を避ける子も多くいます。中には、社交不安は少なく、ジェスチャーで人と楽しく交流ができる子もいます。

「場面緘黙は、何を回避する症状か?」ですが、子どもたちの様子から、「話していやな気もちになること」つまり「発話で生じるであろう不快な身体感覚」を回避しているように見えます。

不安が高い人は、内受容感覚に注目しやすくその小さな変化に敏感で、しばしば読み違いをするそうです(寺澤, 2017)。内受容感覚は、内臓や身体の状態を感知する力で、迷走神経によって担われているといわれています。不安が高い人が、不安が生じるような状況で著しい身体症状を報告する場合でも、実際の心拍などの自律神経反応を調べると、本人が報告したほど大きな変化が生じていないことがあるそうです(寺澤, 2017)。

発話を増やすスモールステップの取り組みを始められなかったり、なかなか前に進めなかったりする子どもがいます。対人交流できる最適な覚醒領域の状態(腹側迷走神経系優位)にいる時でも、小さなドキドキを敏感に感じ取り、迷走神経が「大きくドキドキした!」と大脳新皮質に伝えるため、発話をストップさせてしまうのかもしれません。

信号を受け取る脳の「考え方のクセ」も関連がありそうです。同じ心臓の鼓動変化であっても「ドキドキした」のではなく「ワクワクした」と「考える脳」がラベリングすれば、緊張や不安はさがります。

スモールステップの取り組みでは、少しドキドキする不安な場面で発話することに少しずつ段階的に慣らしていきます。そこでは、楽しい活動や思わず笑っちゃうようなユーモアある遊び、シールやほめ言葉などのワクワクをプラスして、発話を強化していきます。

寺澤悠理(2017)内受容感覚から考える不安の認知神経, メカニズム不安症研究,9(1), 76–79.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsad/9/1/9_76/_pdf/-char/ja