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場面緘黙と迷走神経【Q2】場面緘黙というのは、一体どの反応?

この記事は、SM H.E.L.P. の2023年秋サミットにてカイロプラクターのロングマイヤー氏と主催者ケリーさんの対談を視聴したロンドン在住のみくの5つの疑問に、代表の圭子さんが詳しく回答したものです。
 【Q2】場面緘黙というのは、一体どの反応?
声を出さなければならないのに、どうしてもできない――子ども/人によっては心臓がドキドキして頭が真っ白になったり、喉の筋肉だけでなく身体全体が凍りついた様に動かなくなる「緘動」になってしまうこともあるよう。
扁桃体が過剰に反応してアラート状態になると「逃走・逃避反応」が起こることはよく知られた事実。ただ、その他にも「フリーズ反応」や「シャットダウン反応」というのがあるとききます。場面緘黙というのは、一体どの反応なのでしょうか?      (かんもくネット・みく ロンドン在住)

■圭子さん回答
ポリヴェーガル理論(まだ仮説で今後検証が必要)では、自律神経系を「🔴交感神経系」と「2つの迷走神経系(🟩腹側(ふいそく)迷走神経系・🟦背側(はいそく)迷走神経系)」の3つの枝でとらえると、前回お話ししました。
「🔴交感神経系」はアクセルで、「🟩腹側迷走神経系」はチューニング、「🟦背側迷走神経系」はブレーキの役割と捉えるとわかりやすいそうです。

人は危機的状況に直面すると「闘うか・逃げるか・フリーズするか」反応が生じて、「🔴交感神経系優位」の過覚醒状態となります(恐怖や怒り、不安やパニックが生じます)。
これが行き過ぎて破綻すると「🟦背側迷走神経系優位」の低覚醒状態になります(この時は、抑うつ的で力が出ない状態、シャットダウン、心そこにあらずの解離した状態になることもあります)。
そして、過覚醒状態と低覚醒状態に挟まれた最適な覚醒状態が、社会交流コミュニケーションできる「🟩腹側迷走神経系優位」の状態です。この最適な覚醒状態の領域を「耐性の窓(Window of Tolerance)」と呼びます)。
3つの神経系の強弱はブレンドされて、私たちの覚醒状態は1日の中で常に変化しています。

図引用:HIPPOCAMPUS CLUBHOUSE

場面緘黙症状を覚醒状態という観点から考えると、「典型的な『話せない』時の状態」には下記の3つが考えられます。

①     何も考えらえない・声が出せないフリーズした過覚醒状態
  (🔴交感神経系+🟦背側迷走神経系)
➁  適切な発話機会があれば話せる最適な覚醒領域にいる状態
  (🟩腹側迷走神経系優位)
➂ 身体に力が入らない低覚醒状態
  (🟦背側迷走神経系優位)

場面緘黙の「話せない」症状は典型的には、過緊張で頭が真っ白になる「①フリーズ」と、低覚醒状態(特に「➂シャットダウン」の状態)があると思います(この2つは、筋肉が緊張しているか、脱力しているかで区別できます)。また、社会交流コミュニケーションできる「➁最適な覚醒領域(🟩腹側迷走神経系優位)」にあっても、適切な発話機会がなくて話せない状態があります。 そして、スモールステップの取り組みで発話が成功する瞬間は、人と交流できる最適な覚醒領域の状態(🟩腹側迷走神経系優位)にいる時だけです!

度重なるストレスや大きなストレスがかかると「耐性の窓」の幅が狭くなります(身体が①や➂のやり方で自分を守っています)。「耐性の窓」が狭いと、少しの外的刺激や体内感覚の変化で、急激に①や➂の状態になります。特に、家庭でかんしゃくを起こしたり、疲れた様子がある子どもは「耐性の窓」の幅が狭くなっています。
睡眠や食事・運動等の生活習慣を見直し、安心できる人との楽しいコミュニケーション、手先や身体を用いた遊び、笑いやユーモア、わくわくできる活動、呼吸法、そしてヨーガなどによって「耐性の窓」を少しずつ少しずつ広げていくことが大切です。

次回は「緊張で頭の中がまっ白になる」のはなぜなのか、フリーズについて考えます。   
         かんもくネット 角田圭子 (臨床心理士/公認心理師)

図引用:HIPPOCAMPUS CLUBHOUSE