「北限のりんご産地」を守る。しのねアップルファームの挑戦〈善玉菌を探す旅 #7〉
かつて北海道オホーツク地方には、100軒を超えるりんご園があり「北限のりんご」と 呼ばれる一大産地でした。しかし、その後、病気や産地間競争の煽りを受け、農家数は減少し、北見市においては今や2軒のみのりんご農家が残っています。この地でりんご栽培を守り伝えるのは、しのねアップルファームの篠根さん。篠根さんは、産地を守るため、有機質肥料への転換や液体たい肥「土いきかえる」(以下、土いきかえる)の使用を始めたそうです。その思いや栽培へのこだわりについてお聞きしました。
――しのねアップルファームの歴史について教えて下さい。
篠根さん:うちは曾祖父さんの代から、代々畑作農家で、カボチャや豆を作っていたみたいです。りんごの苗木を植え始めたのが父の代からで1951年のことです。当時は近隣に果樹園があって、それを見て参考にしていたみたいです。
板橋さん:篠根さんが戻ってきてからは何年経つんでしたっけ?
篠根さん:2010年に戻ってきたので、12年ですね。
板橋さん:りんご園に戻ってきた経緯を教えてもらえますか?
篠根さん:以前は神奈川の大手貴金属メーカーの子会社に勤めていました。海外出張も多くて、楽しくやっていたんですが、転機になったのは…リーマンショックでしたね。始めは顧客に影響が出始めて、徐々に自分の会社にも。私も親会社に異動になって、会社の雰囲気も仕事の内容も変わってしまったんです。
ちょうどその頃親父が「りんご園やめようかな」と言い出したんですね。「年も年だし」って。りんごを買いに来ているお客さんもいっぱいいる中で、りんご農家もどんどん減ってきているし、うちが一番栽培本数も多かったので「うちがやめれば、北見のりんご産地が無くなるな」ってなんとなく感じたんです。「あぁ、この産地がなくなるのって、俺のせいかもしれないな」って…。正直、会社にいてもいなくてもどうでもいい状態だし、世の中的に見てどっちが役に立つんだろうって。実家に帰ってりんご栽培を北見に残した方が世の中の役に立つんじゃないかって思ったんです。
板橋さん:「北限のりんごの産地を守る」というところに繋がっていくんですね。
篠根さん:どうせ生きていくなら、世の中の役にたったほうがいいですもんね。生まれてきた以上人の役に立ったほうがね。何やってんだかわからない人生よりもね。
――栽培方法のこだわりについて教えてください。
板橋さん:化学肥料から有機質肥料に転換したとお聞きしました。それはどういう経緯からなんですか?
篠根さん:2020年には化成肥料を従来比半減にしました。2021年には「ええいっめんどくさい!」と化成肥料を止めて、全て有機質肥料に変えました。…理由と聞かれると、大きく2つあって、1つは病気の発生を抑えるためです。オホーツク管内のりんご園を滅ぼした腐らん病(ふらんびょう)という木の皮が腐っていく病気がありまして。化学肥料、特に窒素分の施肥が多いと急激に増えるということが昔から分かっています。
この病気はがんと一緒で、早期発見、早期治療が必要です。病斑を発見したら木の皮を削って薬を塗って治療するしかないんです。木って実は皮で生きていて、そこが菌でやられちゃうんですね。木の皮が幹を一周くるっと巻いていますよね。そこが腐らん病で一周やられちゃうとそこから上部に栄養を送れなくなるので、切っちゃうしかないんですね。そうなる前に見つけて削るしかなくて。でもこの病斑が見慣れないとわからなくて…私も判断できるようになるのに、毎日見て2-3年はかかりました。他の産地でも出ているみたいですが、やはり寒いほうが出やすいみたいです。
板橋さん:なるほど、産地を滅ぼしかけている病気に対抗するためだったんですね。もうひとつの理由はなんですか?
篠根さん:あとは、世の中的に化学肥料を減らそうという流れになっていたこともあって、以前からできればやりたいなと思っていたんです。父の代から有機肥料と化学肥料を併用はしてきたんですけどね。2020年に化成肥料を半減にしたタイミングで有機質肥料を自分で調合するようになりました。窒素リン酸カリの配合を計算しながら、6種類くらいを混ぜています。
板橋さん:有機質肥料に転換をして、なにかりんごに変化はありましたか?
篠根さん:明確に甘みが強くなりました。例えば、酸っぱさが特徴的な旭という品種も甘くなってしまって笑 これまで旭を食べなかった人も食べ始めるようになりました。大体のお客さんには喜んでもらえたんですが、一部のお客さんには不満のようです笑。
その他、プルーンも甘くなりましたね。実は大きいんですが、味がそっけない品種があって、「木を切ろうかな~、もったいないな〜」と思っていたんですが、甘くなったので、残すことにしました。
板橋さん:私も旭は酸っぱいほうがいいですね笑。甘い旭をブランド化しても面白いと思います。
――土いきかえるをどのように使用していますか?
板橋さん:有機質肥料を6種類調合して使用しているという話しでしたが、その中に土いきかえるも入っているのですか?
篠根さん:肥料としてではなく、別の使い方をしています。実は、全部のりんごに与えているのではなくて、紋羽(モンパ)病等で弱った一部の木に与えているんです。この病気は根から細菌が侵入してくる病気なんですが、地中のことなので、目に見えないんですね。ですので、病徴が出始めた木に有用微生物資材と土いきかえるを混ぜて与えて、土壌の菌叢バランスを改善することで、病気に対抗できないか試しているんです。
板橋さん:今注目されているバイオスティミラントですね。土いきかえるは、原料が善玉活性水というだけあって、悪い菌の働きを押さえて、良い菌を活性化させることが分かっています。土壌の菌叢バランスを良くしていく効果があるため、そのような使い方は興味深いですね。ちなみに、まだ検証を始めたばかりだと思うのですが。効果について感じることはありますか?
篠根さん:実はいま2本復活しかけている個体がいます。りんごの木って植えてから、実を収穫できるようになるまでに10年以上かかるんです。例えば、植えて7~8年目くらいの苗木に病気が出てしまうと、せっかくこれからって時に伐採しないといけないこともあるんですね。そういう木が復活してくれるのは助かります。
板橋さん:10年…それはかかりますね。しかし、腐らん病だけではなく、様々な病気があるんですね。現在、使用を始めて3~4年目ということで、まだ効果を検証している最中だと思いますが、今後さらにいい結果が出ることを期待しています。りんごを病気から守ることが産地を守ることにもつながるんですね。そこに、土いきかえるが活用されようとしていることが嬉しいです。
――これからの農園経営の目標について教えてください。
板橋さん:こちらでは、加工品作りも積極的に行っていますよね。それはなぜなんですか?
篠根さん:はい、他の会社さんに委託してシードルや飴を、自社の加工場ではコンフィチュールを製造しています。実は初めに作ったのは、コンフィチュール(砂糖で果汁を浸出させ、果汁だけを煮詰めた後に果肉をつけたもの)でした。子どもの頃から、母親が傷ついたりんごでジャムを作ってくれて。鍋で煮込むんですが、旭のいい香りが家中にパ~っと広がって。すっごいおいしいんです。それが強く記憶に残っていて…加工品を作りたいという思いがあり、食品加工を総合的に学ぶ東京農業大学の人材育成コース(オホーツクものづくり・ビジネス地域創生塾:以下、創生塾)に通ったんです。今は、近隣のセレクトショップや、道の駅、デパート、女満別空港などで販売をしています。
板橋さん:加工品となると、生のりんごを買う層とは別の層に響くと思うんです。これって産地を守ることともつながると思うんですが、意識されていますか?
篠根さん:はい、層はまったく異なりますね。そういう意味もありますし、創成塾では「原材料で100円のものが、加工品にすると1000円になるかもしれない。オホーツクの農家は原材料供給だけで加工に興味がない。これでは外部に美味しいところをまるまる投げている状態なんだ」と教わりまして、まったくその通りだと感じています。ただ、農地やりんごの木の管理、加工なども一人でやっていることが多いので、手が足りなくて…笑
板橋さん:加工をすることは、地域の農業を守るためにも重要なんですね。…って全部一人で行っているんですか!?
篠根さん:はい。そうなんです。消費者参加型の農園経営なんかも今後力を入れていきたいと考えているのですが、何しろ、りんごの作業って職人技なんです。枝の選定や摘果なんか素人には難しいですし、除草なんかも間違えると苗木を切っちゃうこともあって…。どういう形でサポーターを増やしていくのか、今後考えていく必要があります。
板橋さん:北限のりんご産地を守るために、篠根さんの挑戦は続いていきますね。私たちも応援しています!篠根さん、今日はありがとうございました!
しのねアップルファーム
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