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vsG

床になってスマホをいじるのをやめようと顔を上げるとGがいた。
黒いしなんか平ったいし触角長ぇし、あれはGだ。
重力なんて知ったこっちゃないと言わんばかりに天井をシュタタタっと駆けている。
なにそれ、チャクラ?
呆気に取られて眺めているとこの家で最も手の届かない場所にポジションを取られてしまった。
僕の住んでいる部屋は天井が3〜4m近くあり、そこで座されてしまうと文字通り手も足も出ない。
……

……

……

睨み合いの時間がひたすらに続いている。
達人同士が相手のわずかな隙を突くため、動かざること山の如しをキメているような間合い。
Gが酔拳ばりに触角を揺らめかす。
相手から出ることは無さそうだ。

ここで僕は対峙するのをやめた。
「アンタになんか興味ないわよ」と言わんばかりの、無視。
""押してダメなら引いてみろ""という日本人なら鼓膜に刻まれるほど聞いた、どこかの知らない先人からの知恵を使い、現状を打破することを試みた。
一旦Twitterをイジり、戦況を報告する。
「なんか、ネタになるからG出てもええか」って気持ちになってくる。SNSがもたらす幸福であり不幸である。

その時、影が動いた。
というより、直感的に察知して背後を振り向くとそこには"アイツ"がいた。
思わず「かかったなッッ!!!!!!」と吠える。
Gは側壁2mの位置で進行を止めた。
プラボウルと五重ティッシュを両手に構えて接近する。
チャンス。
Gに向かい、大きくジャンプ。
プラボウルを振りかぶり、壁にぶち当てる。
が、失敗。
「ヤバい!!!!逃亡される!!!!」
そう思った時には既にGは床に移動する寸前までの位置に。

「床はめんどい、ホントにめんどい、負け筋が増える…… ダルい!!!!!!!!」
この時の反射神経は高3の県大会でスーパーセーブをしたあの瞬間とほぼ同じかそれ以上だった気がする。まぁ、負けたけど。
すぐに重心を落とし、プラボウルを叩くようにGの頭上に向かって押し付ける。

確保成功。
我慢大会で始まった勝負はコロッと決着がついた。

それから容器の下にダンボールを差し込み、Gを外まで運んだ。
容器をエアホッケーみたくスライドさせて近くの川に向かって飛ばした。
Gは夜になってどこかに消えた。

手元の容器を見るとGの触角が一本残っていた。
彼はもう酔拳が使えない身体になったんだと思うと少し可哀想な気がした。

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