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会社四季報10年分を丸暗記。膨大な量の知識をインプットすればするほど良質な仮説を生み出せる/『瞬考』山川隆義さんインタビュー後編


前編では、『瞬考 メカニズムを捉え、仮説を一瞬ではじき出す』を上梓したビジネスプロデューサーの山川 隆義さんに、「瞬考とは何か」について伺いました。これからの時代、あらゆる職業でスペシャリストやAIにタスクを依頼するための目的設定 、つまり仮説構築力が必要になるとのこと。また、各スペシャリストを束ねてものを作り出すビジネスプロデューサーが活躍する時代になるといいます。

後編では、具体的に仮説をつくり出すスキルの磨き方などについてお聞きします。前編に続き、後編をお楽しみください。

――では、仮説を瞬時につくり出す「瞬考」のスキルを磨くためには、どのように訓練すれば良いでしょうか?

山川 隆義さん

いきなり「面白い仮説を出せ」と言われても、そんなに簡単に出てきませんよね。なんとかひねり出したところで、「別にそれ、面白くないね」と言われるものであることがほとんどです。

面白い仮説というのは、前編でお話ししたように「人が気付いていなくて、気付くべきこと」。

そんな仮説を生み出すには、できるだけ多くのデータを頭にインプットして全体像を把握することが必要です。そのインプットのポイントは「業界知識の縦軸」と「歴史の横軸」の2つの軸にあります。

まず、多くの業界知識をつけるためには、「一を聞いて十を調べる」、つまり、ことあるごとに調べものをする習慣をつけることです。

インプット量が増えていくほど、情報同士がつながっていくので、アイデアが出る速度も加速していき、出てくるアイデアの質も高まっていきます。

狭い情報の中で考えていても、たいがい相手も同じくらいの範囲では考えているので、相手が知っている仮説しか出てこないわけです。

そして、「歴史の横軸」は、現在だけでなく過去数十年単位での情報も調べるということ。過去に行ってきた活動の中には、企業であれば、企業の得意、不得意や成功体験、失敗体験などさまざまな情報が隠れています。

こうして、「一を聞いて十を調べる」で、コツコツ調べる積み重ねが累積経験として含蓄されていき、他の人との差別化を生みます。

――山川さんご自身は、システムエンジニア時代に10年分の『会社四季報』を丸暗記していたことが、偶然、ボストン コンサルティング グループのコンサルティングに役立つことになったそうですね。

ヒューレット・パッカード時代に、開発が中止となり、システムエンジニアだった私はものすごくヒマになった時期がありました。その時に先輩から、「システムサービスを売りに行くために、どこの会社や業界が儲かっているか分析してくれ」と言われて『会社四季報』をどっさり渡されたんです。日本の全上場企業の企業データが網羅されている、東洋経済新報社の有名な企業情報誌ですね。

四半期ごとの刊行なので1年で分厚い雑誌が4冊、それを10年分、時系列で繰り返し入力していくうちに、各企業の売上規模や事業として何をやっているかといった情報が全部、頭に刷り込まれてしまいました。

それが、コンサルティングの仕事のときに生かされたんです。周りのコンサルタントはみんな優秀ではありましたが、意外と世の中に存在する会社のことを知らなかった。その中で、私の生きた知識とそれをもとにした「瞬考」が、ほかのメンバーと差別化できる部分となりました。

――大量のインプットは外部記録媒体に頼りがちな昨今ですが、瞬考を生むためにはやはり、自分の頭に情報を入れていく必要があるんですね。

そうですね、やはり大量のインプットが仮説を考えるベースとなりますし、長年にわたって累積してきた知識は、後追いされてもなかなか追いつかれることはありません。逆に言えば、小手先のコンサルテクニックは、ほとんど無意味です。ちょっと新しい情報が手に入ったからといって差別化できたとしても、そんなものは表層的ですぐに追いつかれます。大切なのは累積知なんです。

たとえばもしも四季報のインプットをする人が増えてきたなら、今度はアメリカの上場企業や、日本の新興市場の企業などを片っ端からインプットするなど、他の人が手をつけていないことをすれば差別化できます。

私の場合は四季報でしたが、もちろん四季報でなくても、自分の業界や分野の情報を同じように2つの軸でインプットしていけば応用が利くでしょう。研究員だったらこれまで行われていた研究を徹底的に調べるとか、卒業論文のテーマが見つからない学生ならこれまでの論文を読み漁るとか、広く深く調べていけば隙間が見つかります。その隙間を狙えばチャンスが見えてくるんです。

――インプットはすべての分野で有効なんですね。山川さんは、コンサルタントの時代を経て、現在はエンターテインメント業界のアドバイザーや権利マネジメントビジネスなども行われていますが、これはどのような経緯ですか?

大量の情報をインプットして分析していったところ、リーマン・ショックやその前のITバブル崩壊、アジア通貨危機など色々な金融危機がありましたが、その中で比較的影響が少なかったのがエンターテインメント業界とヘルスケア業界だったんですね。

リーマン・ショックがあったからといって、今まで遊んでいたゲームを辞めることはないし、病気になったら病院や薬局には行かざるを得ないですからね。金融危機でアタフタしたのは、せいぜい金融と不動産と耐久消費財くらいで、一般の人にはほとんど影響がなかったわけです。

ヘルスケア領域でビジネスをしようとするとお金が莫大にかかるので、何かを個人でやるとしたらエンターテインメントだなと思っていたんですね。

そういうことが頭に入っていたことで、創業に参画したドリームインキュベータ(DI)を辞めた後、縁もあってエンターテインメント関係の仕事にも携わるようになったんです。

――そうだったのですね。大量の情報をインプットして過去の事例などから分析していくことで、事業アイデアが湧いたり未来が予測できたりするわけですね。

はい、仮説をつくることで、新たなビジネスチャンスもどんどん生まれます。

たとえば、以前からなんとなく温めているアイデアとして“ビジネス偏差値”があります。学生時代までは偏差値で色々と測られますが、社会人になるとそれがなくなりますよね。そこで、国際情勢、ベンチャー、金融など、各分野ごとにどれくらいの知識があるかといったテストを作って偏差値を出す。それが英検や漢検のように広まれば、受験料でマネタイズが可能なのはもちろん、対策本や関連ビジネス雑誌なんかも売れますよね。また、偏差値がつけられると、人材としての客観的な一つの指標になりますから、各企業のヘッドハンティングや転職ビジネスにもつながっていくはずです。こうして、 “ビジネス偏差値” に伴ってさまざまな周辺ビジネスが盛り上がるのではないかと思うんです。また、社会人がみな勉強することになりますから、日本人のビジネスリテラシーも上がるので、日本の経済にとってもいい話ですよね。

――素晴らしいアイデアです。最後に、これからの時代を生きる若い人々に向けて、メッセージをお願いいたします。

やっぱり、先ほどからお話ししているとおり、早いうちから「一を聞いて十調べる」を繰り返して知識を累積していくこと、これが大事だということを伝えたいですね。

今日やったからといって急に他人と差をつけることはできませんが、10年、20年続ければ確実に差がつくし、なかなか追いつかれない。長いことをかけてコツコツ積み上げたものは、自分を裏切ることはありません。だからぜひ、今日から何かを始めてみてください。

――始めるのに遅すぎることはないので、私も一歩を踏み出したいと思います。本日はありがとうございました!

プロフィール

山川隆義
ビジネスプロデューサー。
京都大学工学部および同大学精密工学修士(生産システム工学 専攻)。
横河ヒューレット・パッカード株式会社(現在の日本ヒューレット・パッカード合同会社)、ボストン コンサルティング グループ(BCG)を経て、2000年に株式会社ドリームインキュベータ(DI)創業に参画。2005年取締役副社長、2006年から2020年まで代表取締役社長。

BCG、DIを通じ、25年に渡り、数多くのコンサルティングに従事。同時に、多数のベンチャー企業のIPOに貢献。現在はビジネスプロデューサーとして、エンターテインメント、証券、産業財、ヘルスケア、IT分野の企業における社外役員及びアドバイザーとして活動するとともに権利マネジメントビジネスを実践。

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