見出し画像

若者よ、反撃のノロシを上げろ!仮説を一瞬ではじき出す思考法「瞬考」はこれからの時代に大きな武器となる/『瞬考』山川隆義さんインタビュー前編

今の自分の仕事は、進化し続けるAIにいつか取って代わられてしまうかもしれない。そんな、先行きに対する漠然とした不安を抱えている人も少なくないのでは?『瞬考 メカニズムを捉え、仮説を一瞬ではじき出す』を上梓したビジネスプロデューサーの山川 隆義さんは、これからの時代で活躍するために必要な能力は“仮説を一瞬ではじき出す思考法”である「瞬考」だと言います。この「瞬考」とは何か、お話を伺いました。

――ヒューレット・パッカードでシステムエンジニアとして勤められた後、ボストン コンサルティング グループに転職してコンサルタントとなり、その後、戦略コンサルティングファームであるドリームインキュベータの立ち上げに参画、その後、代表取締役社長を務め、現在は独立してビジネスプロデューサーとして活躍されるという、異色の経歴をお持ちです。
そんな経験の中で、「瞬考」のスキルがこれからさらに重要になってくると感じられたのですね。そもそも「瞬考」とはどのような思考法なのでしょうか。

山川 隆義さん

ひと言で言うと「仮説を一瞬ではじき出す思考法」です。ただし、すぐに仮説を出せればいいというわけではありません。求められる仮説とは「相手が知らなくて、かつ、知るべきこと」をひねり出すこと。

そういう仮説を出すことができれば、クライアントは聞く耳を持ってくれるはずです。相手が知っている仮説を出しても「だから何?」となるだけですから。そんな「面白い仮説」を一瞬で弾き出すスキルを身につけることが、これからの時代には有効だと思っています。

――それは、特別な職種の人だけに必要なスキルなのですか?

いいえ、すべての人に関係してくると思いますね。AIに作業を頼むとしても、人間のスペシャリストにタスクを依頼するとしても、まず誰かが目的設定をして、指示を出す必要があります。指示する側が、「何をやるか」という目的を設定することが、非常に重要なんです。これは、今のところ人間にしかできないことですよね。

この目的設定のためには、「何が課題なのか」を明確にする仮説構築力が求められます。ですが、“何を目的にするか”というのは非常に難しい。

たとえば政治家もそうですよね。どんな目的を解決するのか。日本全体なのか、世界全体なのか、若者のためなのか、老人のためなのかなど、どこまでを範囲とするかによって課題もまったく変わってくるわけです。この問題解決の一連のプロセスには「人間の意思」があるわけじゃないですか。

将来的にはAIにも意思を持たせることができ、目的を設定させることが可能になるかもしれませんが、今のところは人間にしかできません。この仮説をつくる力がなく、ただ作業をしているだけだと、どんどんコンピューターに取って代わられてしまう可能性があると思います。

――本書『瞬考』の中では、これまでと違って、これからはスペシャリストであれば安泰とは言えない時代になると指摘されていますね。

大きく言えば、「昭和はサラリーマンの時代」「平成はスペシャリストの時代」でした。昭和の時代は、いい会社に入れば、つまりサラリーマンとして真面目に働いていれば安泰だった。その後、バブルが崩壊した平成は、コンサルタントとか弁護士、会計士といったスペシャリストがキャリアとして有望だという風潮になりましたよね。

ですが、これからは、スペシャリストだから仕事に困らない、というわけにはいかなくなるでしょう。

――それは、AIに仕事を取って変わられやすいからですか?

それもありますが、現代の人間は一日8時間くらいスマホとにらめっこしていますよね。ほぼ人間の脳とスマホがつながっていると言っても過言ではない。当然ですが、個人が所有しているスマホはインターネットで世界中の人間が持っているスマホにつながっている状態なわけですから、常に世界中の情報が集まります。

その中で、いずれスペシャリストの順位も透明化され「この分野の中ではこの人がトップで、この人が2位で……」とランキングされていく。そうなると、トップ層の人に仕事の依頼が集中することになっていきます。となると、中堅層から下位層に仕事の依頼が来ることはかなり少なくなるわけです。実際、その傾向はすでにあるんです。

――本書の中でK-POPの業界を例に挙げられていますが、たとえば振り付けにしてもトップクラスの振付師たちが各自アイデアを出して、その中のいいところをピックアップして組み合わせ、一曲の振り付けを作るといったことも聞いたことがあります。

はい、特にエンターテイメント業界はそのような分業化が進んでいます。曲作りも、作詞に数名、メロディーに数名、トラック(音を重ね合わせる人)に数名と、各スペシャリストを世界から集めて制作することも多くなりました。それらの制作メンバーは、やっぱりそれぞれの分野のトップ層が集められています。

そうなると、「まず何をやるか」を決め、その次は「誰をキャスティングするか」を決めなければいけない。つまり、プロデューサー的な人が必要になってくるわけです。

エンターテイメントの業界には、もともとプロデューサーという職種が存在していますが、あらゆる業種でこのようなプロデューサー的な人材が必要になってくるでしょう。

起業をするにしても、会社で新規事業を起こすにしても、「まず何をやるか」という目標設定と、「誰をキャスティングするか」という作業は必要ですから。そういった、スペシャリストを束ねてひとつのものをつくり出すのがビジネスプロデューサーという役割になります。

――そういう意味では、ビジネスプロデューサーは「瞬考」を駆使する際たる職業のひとつであるとも言えますね。新時代の働き方だと感じます。

そうですね。そんなわけで本書は、ベンチャーキャピタリストとか、新しく起業しようとか、そういう若い人からとても反響があります。年配の方はピンとこなかったり、意味はわかるけどこの年で今さらビジネスプロデューサーには……という感じの方がほとんどです。

高齢の方で「この本良いね」と言ってくださる方は、自分で事業をつくり出してきた方とか、現役の経営者というような方で、50代以上のサラリーマンにはまったくウケない内容かもしれません。実際、私も、あえて今の若者に向けて書いたような部分もあります。

というもの、私も若いころには年配の上司に酷使され、年金も給料も吸い上げられているような状態に対して不条理だと感じる強い思いがあったので。若者たちよ、搾取された分を取り戻せ!とエールを送る気持ちがあるんです。まあ、今では私が年寄りになってきていますが。

年を取ると、やっぱりどうしても新しいインプットが滞ってくる。そうすると、「昔のぬか床」で仮説をつくり出すようになってしまうんですよね。新しい情報が入ってこないから仮説がスカスカになる。

若い人たちの「新鮮なぬか床」でつくった仮説のほうがずっと鮮度が高く時代に合っているわけですから、そういった仮説で新しいものをつくり、日本を盛り上げてほしいという気持ちがあります。

※前編はここまで。後編では、実際に仮説をつくり出すスキルを磨く具体的な方法について伺っていきます。公開をお楽しみに。

プロフィール

山川隆義
ビジネスプロデューサー。
京都大学工学部および同大学精密工学修士(生産システム工学 専攻)。
横河ヒューレット・パッカード株式会社(現在の日本ヒューレット・パッカード合同会社)、ボストン コンサルティング グループ(BCG)を経て、2000年に株式会社ドリームインキュベータ(DI)創業に参画。2005年取締役副社長、2006年から2020年まで代表取締役社長。

BCG、DIを通じ、25年に渡り、数多くのコンサルティングに従事。同時に、多数のベンチャー企業のIPOに貢献。現在はビジネスプロデューサーとして、エンターテインメント、証券、産業財、ヘルスケア、IT分野の企業における社外役員及びアドバイザーとして活動するとともに権利マネジメントビジネスを実践。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?