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こうちゃんの炎上事件を受けて思うこと

数週間前、元QuizKnockメンバーのこうちゃんを「面白くない」と断じる有料記事がnoteに投稿され、こうちゃん自身がそれを目にした結果、SNSで大炎上を招いた事件があった。

この騒動自体について、深く触れるつもりはない。ただ、この出来事を通じて感じたのは、有名大学に在籍しながらYouTuberとして成功を収めた者が、その後のキャリア形成において直面する難しさである。そのことについて簡単に述べたい。

まず、こうちゃんが所属していたQuizKnockとは、なんなのか。Wikipediaで調べると、こう紹介されている。

「楽しいから始まる学び」や「身の回りのモノ・コトをクイズで理解する」をコンセプトに、伊沢拓司を中心とした東京大学などの卒業生及び現役生らにより運営されている知的メディアである。

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クイズプレイヤーの伊沢拓司が2016年8月にWEBメディア『QuizKnock』の立ち上げを決意し、約2か月後の10月2日に伊沢と伊沢に集められた東京大学クイズ研究会の有志によって、WEBメディア『QuizKnock』が立ち上げられた

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この頃、たまたま東大のクイズ研究会に所属していた「こうちゃん」は、友人の紹介によってQuizKnockに関わるようになったようだ。そして、YouTubeチャンネル開設後は、中心メンバーの1人として出演をするようになった。つまり、こうちゃんはQuizKnockの初期メンバーなのである。

さて、QuizKnockが人気を博した理由は、どこにあるのか。もちろん、伊沢拓司の卓越したリーダーシップと企画力によるところは大きいが、現役の大学生を巧みに活用した点が肝だったのではないか。東大入試を突破したばかりの現役の東大生たちは、受験で得た知識がまだ鮮明であり、その知識を駆使して難解な問題を次々と解く姿そのものが、視聴者にとって魅力的なコンテンツとなっていた。それだけでなく、所謂「男子校的な自由で無邪気なノリ」が、現役の学生という若さと自由さをもったメンバーの属性ともマッチし、相乗効果を生んだ結果、視聴者を惹きつける魅力的なコンテンツとなったのだろう。

例えば、QuizKnockのメンバーが難問に挑戦する過程で、冗談を交えながら面白おかしく答えを導き出す様子は、その辺の高校生や大学生が仲間同士でわいわいきゃっきゃしている様と違いはない。普通の人が「東大生」と聞くと、まるで雲の上の存在・縁のない存在、もしくは勉強しかできない真面目で退屈な人間、といった感想・印象をもつ人は多いだろう。

しかし、QuizKnockの番組を見ていると、そのような一般人とかけ離れた集団といったイメージはなく、彼らが楽しそうにクイズを解く様子を眺めていると、なんだか親近感が湧くのである。こうした番組やメンバーの特性もあり、同世代の視聴者を惹きつけるだけでなく、社会人の視聴者も獲得し、急速に拡大していったのである。普段仕事で疲弊している社会人にとっては、彼らの初々しく素朴な姿を見ると、何とも言えない懐かしさを感じさせ、癒しにもなっていると想像する。

ただ、QuizKnockに限らず、学生が立ち上げたYouTube番組には1つ避けられない宿命がある。それは、メンバーは永遠に大学生でいるわけないということである。当たり前だが、大学生活には限りがあり、4年もすれば学生という特権的な身分は失われる。たとえ大学院進学や留年で期間を延長したとしても、いつかは卒業しなければならない。つまり、QuizKnockのような番組が永続していくためには、メンバーの新陳代謝・世代交代が不可欠なのである。

もちろん、初期メンバーが、大学卒業後もそのまま変わらず番組の中心で居続けることもできる。しかし、それではQuizKnockの売りである「現役東大生による、内輪サークル的なノリの提供」というコアとなる要素は、次第に失われてしまう。大学を卒業しても、20代中盤までは、見た目も学生とそう変わらないため、同じようなノリで続けることもできるだろう。しかし、30代・40代になっても同じスタイルで活動を継続するとなると、あまり現実的ではない。

お笑い芸人であれば、40代でも若手扱いされ、若い頃と変わらないスタイルを貫くことは可能だ。一方、QuizKnockは現役東大生という東大ブランドを存分に活用しており、現役学生という期間が限られているからこそ、付加価値が生まれている。もし、QuizKnockのメンバーに一人も現役東大生がいなくなってしまうと、ブランド価値は毀損してしまう。この状態で、現役の東大生たちがQuizKnockのような番組を立ち上げた場合、本家は簡単に飲み込まれてしまうことが懸念される。

新陳代謝の必要性と伊沢の戦略

こうした状況を見据え、伊沢は早くから世代交代を意識していたはずだ。現に、ここ数年で、意図的に新しいメンバーを迎え入れており、古参メンバーが少しずつ卒業という形で抜けていっている。そして、ここで着目すべきなのは、新加入メンバーは、みなルックスが良く、さわやかで中性的な雰囲気を持つ者ばかりだ、ということである。これは、明らかに女性ファン層を意識した人選である。QuizKnockは、女性ファンを確実に掴むことで、メンバーの加齢による視聴者離れを防いでいるのである。

一方で、こうちゃんはどうであろうか。新加入メンバーのさわやかさや洗練されたイメージに対し、こうちゃんは地味で垢抜けない印象が残るキャラクターである。彼がQuizKnockに出演できたのも、たまたま立ち上げの初期段階に関与していたからに過ぎない。人気YouTube番組の出演者に求められるルックス・トーク力・ユーモアなどは持ち合わせていないし、女性からの人気もゼロでは無いが、そこまで高くは無いように感じる。

こうちゃんは、近年のQuizKnockのこうした方向転換を見て、QuizKnock内に居ながらも、少しずつ自分が取り残されていくような感覚を抱いていたのではないか。Apple・Facebook・Googleのようなベンチャーから急成長した会社においても、会社の成長に伴って、初期のメンバーは徐々に居場所を失っていき、自ら去っていくケースは多い。こうちゃんも、そんなベンチャーの初期メンバーと同じように、QuizKnockという自分の家だと思っていた場所が、いつの間にか居心地の悪い場所に変わっていたのかもしれない。

もちろん、鶴崎や須貝のように、新メンバーの特徴に当てはまらない古参メンバーも残ってはいる。ただ、彼らは理系出身であり、数学や物理を得意としている。これは伊沢拓司にはない技能であり、伊沢は彼らの代わりを務めることはできない。一方、こうちゃんのような文系出身者は、悪く言えば伊沢の下位互換的な立ち位置であり、いくらでも代替可能な存在である。会社の発展のためにも、伊沢としては、初期の文系メンバーの世代交代を早く進めたいという思いはあったはずだ。

独立への決断とその厳しい現実

こうした背景から、こうちゃんは自らの道を模索する中で、QuizKnockからの独立を決意したものと推測される。某noteにあったような自身の能力・才能を過信した自惚れからきた選択では無いと思われる。やむにやまれず、卒業という形でQuizKnockから独立しただけである。ここから、企業に就職して一般人として生きていく道もあっただろう。だが、こうちゃんはそれを選ばなかった。新卒カードを切らなかった彼が今から就職しても、希望の就職先に入れる可能性は低い。それは、東大卒であり、QuizKnockでも一定の成功を収めた彼のプライドが許さなかったのかもしれない。もしくは、自由を謳歌しすぎて、普通のサラリーマンになることは難しいとの彼なりの判断だったのかもしれない。いずれにせよ、彼は敢えていばらの道を進むことを決めたのである。

しかし、独立後に彼が直面した現実は想像以上に厳しかったのではないだろうか。QuizKnockを離れた彼は、YouTubeで個人チャンネルを立ち上げたが、再生回数は期待ほど伸びていないのは紛れもない事実である。かつての人気を再現することは難しく、今は孤独感と焦燥感を感じていることだろう。

彼の立場は、たとえて言うと、AKB48を卒業した元アイドルたちと同様である。多くのアイドルはグループのブランドに依存しており、卒業後にその価値を維持するのは非常に難しいのである。指原莉乃のように、突出したセルフプロデュース力や自己ブランディング力を持つ者であれば、独立後も大きく飛躍することができる。しかし、これは例外中の例外だ。こうちゃんが今まで輝いていたのは、QuizKnockという看板があったからこそであり、その看板を失った今、彼が同じ土俵で戦い続けるのは容易なことではない。自身のYouTubeチャンネルが「面白くない」と批判されるのも、無理からぬことであろう。もともと、こうちゃんが持っていたのは突出した個性ではなく、集団の一員としての価値だったからである。

未来への展望

とはいえ、この事実をもって、こうちゃんを「つまらない」といって個人として責めたり、叩いたりすることは間違っている。彼がQuizKnockの立ち上げ初期においては、中心的役割を果たしていたことは紛れもない事実であり、それ自体は誇るべきことであり、貶してはならない。こうちゃんに何か原因があったわけではなく、単にQuizKnockが大きくなりすぎてしまい、彼のキャパを越えてしまっただけである。

残酷な話だが、比喩として挙げたアイドルグループを卒業した元アイドルの女性であれば、20代のうちに結婚相手を見つけ、家庭を築くという道が(かなり現実的な)選択肢として存在する。しかし、こうちゃんのような男性の場合、元YouTuberだろうが、アイドルだろうが、結婚という逃げ道は実質存在しない。男性が芸能の道を進むというのは、テレビやYouTubeを問わず、非常にシビアな世界なのである。そうした、いばらの道を歩んでいる人間に対して、成功していないからといって、馬鹿にして良いものでは無い。むしろ、彼がどのようにして次のステップを見つけ出すのかに注目し、その挑戦を評価すべきである。

繰り返しになるが、学生YouTuberとして成功を収めた者が、その後のキャリア形成において直面する課題は非常に大きい。最も無難な道としては、大学在学中に見切りをつけ、普通の社会人としての道を選ぶことであろう。しかし、一度成功を手にし、チヤホヤされる経験をした者が、その道を選ぶことはなかなか容易ではない。こうちゃんも、QuizKnockでの成功により、その後の進路において選択を迫られた一人であろう。

最終的に、こうちゃんがどのような道を選ぶにせよ、それは彼自身の決断である。彼が過去の成功に縛られず、新しい価値を見出していくことができれば、その選択は彼にとっても、後進の学生YouTuberたちにとっても新たな成功への道標となるであろう。

彼がこれからどんな未来を切り開いていくのか、彼の新たな挑戦を陰ながら応援し、見守っていきたい。

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