【ゆるり胡同暮らし】第2回 暮らし始め悲喜こもごも
今回、胡同で借りた部屋の家主は、2018年まで住んでいた部屋のご近所さんだったおばさんだ。私が2021年の秋に北京に帰ってくる前、まだ日本にいた時から、連絡をとり合って、部屋の様子をビデオチャットで見せてもらい、契約をすることができた。
北京に帰ってくるにあたり、住むところがすでに決まっていて、しかもよく知っている人が家主だというのは、大きな安心感があった。
おまけに、日本と違って、中国の賃貸物件は、冷蔵庫や洗濯機、ベッドやカーテンなど、基本的な家電や家具は、家主のほうでそろえておくのが普通なので、自分で買い足す必要もない。
それでも、いざ到着してみたら、実際に住み続けるにはまだまだリフォームを加える必要があることが分かり、正直なところ、これはけっこう大変だなあ、時間がかかりそうだなあと、ちょっと気分が落ち込んでしまった。
とはいえ、中国の賃貸物件は、借りる人が住みながら、家主と相談しながらいろいろと手を加えていくのがあたり前だ。
私が到着する前に手を加えないでいたのはむしろ、私の希望を聞いてから、私と直接相談してからいろいろ決めて、手を加えようという、家主の気配りなのだ。
それから実際に、ここはこんなふうに改装してほしい、と私がお願いすれば、業者を手配してほぼそのとおりにしてくれたし、費用もすんなり払ってくれた。
例えば、洗濯機を使いやすい位置に設置しなおしてもらったり、新たに洗面台を設置してもらったり、不要な造りつけの棚を撤去してもらったり、冷蔵庫を大きめのものに買い替えてもらったり。
そもそも、私が住むことになった部屋は、すぐ隣りに住んでいる家主の息子夫婦が、友人を泊めたりするのにセカンドハウス的に使っていた部屋なので、台所設備がなかったとのこと。それはさすがに、私が到着する前に設置してくれてあったが、私が到着してから息子の嫁曰く、「ごめんなさい!換気扇を付けるのを忘れていたの!」。あらら。
というわけである日、業者のおじさんがやってきて付けることになったのだが、これが思ったより大掛かりな工事となり、部屋中に粉塵が舞い、後から掃除が大変なことになったのであった。
そしていよいよ換気扇を壁にとりつけようという時になって業者のおじさん曰く、「じゃあ俺がとりつけるから、そっちはこうやって、できるだけ平行になるようにしながら、換気扇を持ち上げて支えててくれ」。え、私が持ち上げるの?そんなこと聞いてないよ?…というより、重くてとても私一人では持ち上げられないのである。
ここで、それなら業者のおじさんはなぜ自ら助手を連れてこなかったのか、とツッコミを入れてもしかたがないので、ご近所さんに助けを求めることになった。
こういう時こそ、胡同暮らしが強みを発揮する。
でもその時は、肝心の息子夫婦は留守で、すぐに呼べたご近所さんは別の老夫婦だけだった。お年寄りに力仕事をお願いするのは申し訳ないなあと思ったのだが、とても元気なおじいさんはすぐに「おうおう。大丈夫だ。行く行く」と言ってくれた。
かくして、おじいさんと私が横並びになって立ち、計4本の腕で換気扇を、できるだけ平行になるように必死に持ち上げて支えている間に、業者のおじさんが無事、工具で換気扇を壁にとりつけたのであった。その間、おばあさんは、わざわざ自分の家から懐中電灯を持ってきて、業者のおじさんの手元を照らしてくれた。
おじいさんもおばあさんもありがとう!業者のおじさんもお疲れ様でした。
こうしていろいろと悩みながら、助けてもらいながら手を加えた部屋は、自分らしい、胡同らしい住まいになったという実感と嬉しさも、ひと際大きくなるのであった。
著者プロフィール
弥生
2005年から北京に住み始め、2007年から2018年まで11年間、胡同で暮らす。2020年のはじめに帰国してしばらく日本に住んでいたが、2021年11月に北京に帰ってきて、再び胡同暮らしを始める。
*胡同(中国語読みで「フートン」)とは、故宮を囲む北京中心部の旧城内に、ほぼ碁盤目状に巡らされた路地のことである。
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