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三日月鬼雷舞~第五章~(松山一族物語)

3人は越後と陸奥の境となる御神楽岳より漂う異様な瘴気、
猛烈な血生臭さを感知した事を受け、
この越後山脈に連なる豊かな山へと向かった。
異界に在って現世を観る松山家では、
人間には見通せぬ気や波動と言ったものも感じ取る事が出来た。
そしてこの鬼の潜む御神楽岳から漂っていたのは、
この上のない憎悪・この世の全てを忌み嫌い続ける呪詛。
もはや留まるところを知らぬ殺意そのものであったと言う。
それは道の鋭い第六感にも大いに訴えてきた。
「篁殿、河内殿……この戦、拙僧の命に代えても勝たねばなりませぬな」
僧侶である道が険しい顔で戦という言葉を口にした。
それは歴戦の武士でもある篁と河内にとってはごく自然な事であった。
それ程までに、敵は計り知れぬ強さを秘めている。
かつてない勝負をかけて3人が御神楽岳へと辿り着いた頃には
すっかりと日が暮れてしまっていた。
ブナの木が密に生い茂る暗い原生林の奥深くはむせ返る程の緑の匂いと静寂の中に沈んでいるかのような様子であった。
これ程豊かな木立と草いきれの中にあって、獣達の足音1つ聞こえない。
吹き抜ける風すらも鳴らない、
異様ともいえる静けさの中に唯1つだけ絶え間なく放射される気配。
殺意。
今は遥か遠方にあっても、
まるですぐ目の前で感じ取れる程の
血生臭い息遣いと共に3人の五感を覆い尽くすように支配した。
 
“ガサッ”
草叢が鳴る。
連なる足音、踏みしめられる草や木の根、
土くれを伝ってそれが3人の膝から肩へ満ちてゆく。
不穏な予感の血潮となって。

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ナニハトモアレ世知辛い時代でございましてねぇ。拙者の思想妄想幻想世界の具現化にも先立つモノをお許しください。ここで頂きましたサポートは全て当一座の舞台への糧となります。「オダイハミテノオカエリニ」ササ、オキモチテイドデモ、ドウゾドウゾ