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「ユーコンを流れる」2019 ユーコン川344km、8日間一人旅⑨

8)6日目(9/2) 「最後になってトラブル発生!」

 残り2日となった。
私一人で贅沢に使っていた広い幕営地を離れるのが心残りであった。

 ゴールも近くなったので無理に漕ぐ必要もなくなり、川の流れに委ねてゆっくりと下った。途中、下からでははっきりとわからないが、川の左岸の崖の上の方に、何か人間の営みを表すようなものが見えた。こういったものは、これまで全く見えなかっただけに、旅の終わりが近づいて来た予感がした。そう思うと、すっかり見慣れたユーコンの景色が名残り惜しく感じられた。

 この日は16時過ぎと少し早いが、適当な場所が見つかったので、広い河原で夜営することにした。
 ところが、夕食の準備をしている時に、予期しなかったトラブルが発生したのだ。私は2台のガスコンロを使って調理をしていたが、何とそのガス缶がほぼ同時に、2つとも空になったのだ。一台から炎が出てないことに気づいたので、缶を振ってみたら、サラサラという燃料の音がしない。「ドキッ!」とした。しかし、もう一台あるので、どうにかなるだろうと思ったが、何とそちらも火が消えていた。これは全く想定外の「事件」であった。

 予備燃料を準備しておくべきだったが、今となっては、後の祭(まつり)である。これまでの山行でも経験がないことであった。これでは本日の夕食どころか、明日からの食事も作れない。そして問題は調理だけではなく、これからの日程の問題でもあるのだ。

 これまでは夕食後に焚き火をして、のんびりと過ごすのが、一日で唯一ほっとできる時間帯であった。それが今日は順番が変わってしまい、のんびりするどころではなくなったのだ。

 まず晩ご飯作りのために火を起こすことになった。炉の石の組み方からして違ってくる。まさか、この旅で、焚き火で調理することになろうとは・・・。山での調理の経験がない人には、焚き火で調理をするのは当たり前と思っている人がいるかも知れないが、それは今はやりの「キャンプ」の場合である。

 山行とキャンプとでは調理の方法が全く違う。後者は調理を目的として山に入るが、山行では登山や移動が目的なので、少ない時間内で調理を手早く済ませなければならない。また、山陵では薪も手に入らないので、燃料は家から持参しなければならない。昔はガソリンであったが、危険性も大きいので灯油が使われるようになり、今ではガスが主流となっている。

 兎に角、この状況の中で、できることをするしかない。まず、ご飯を炊き(レトルトやアルファ米ではない)、沸かした湯でレトルトの牛丼を温めて食べた。当然、鍋はススで真っ黒になった。これでは、飯盒を使っていた旧日本軍と同じだ。

 次の問題は燃料がない中で、明日からの行動をどうするかだ。予定では、8日目の最終日は残り10km位を堪能しながらゆっくりゴールする予定であった。
 そこで、選択肢は二つある。翌日も今日と同じように焚き火で食事を準備するか、あるいは明日一挙にゴールするかだ。そして、私は後者を選んだ。

 ここまで来たことで、気分的には十分ユーコンの旅を満喫できたという思いがあったし、距離的にもそれが可能であった。燃料切れというトラブルが起きたことで、1日早いゴールとなった。

 それにしても、ここで、このような問題が起こるとは思いもしなかった。しかし、よく考えてみると、この旅は、初めから何が起こってもおかしくはない旅であった。それが今日まで、何もなく無事に来ることができたことは、むしろ感謝すべきことであった。「守られた」と思った。
 こうして結論は出た。明日で、この度は終わる!

 夕方から弱い雨が降り始め、比較的温かい夜となった。この日は寒さで震えることなく、ゆっくり眠ることができた。

グリズリー 見たくはあれど 会うは❌


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