「ユーコンを流れる」2019 ユーコン川344km、8日間一人旅⑧
7)5日目(9/1) 「ビッグサーモン村に到着」
夜中に雨が少しパラついたが、終日いい天気で暖かかった。距離的にも半分を通過したことで、旅にも慣れ、気分的に余裕が出てきた。午後2時過ぎに、今はゴーストタウンとなった旧ビッグサーモンBig Salmon村に到着した。名前からして、かつては大きな鮭が群れをなして川を遡上したのであろう。今回の行程では最大のポイントで、人間の生活の跡が残っている。
早速上陸して歩く。色づいた森の中を歩けるのがたまらなく嬉しい。森全体が黄色に染まり、それが青空とマッチして美しい。クマの恐怖がなかったら、腹の底からこの情景を堪能できたであろうに。
電報局とその他数件の廃屋が残っていて、1軒の棚にキャンパーが残して行ったウヰスキーの瓶がぎっしりと並べてあった。また日本人の名前の落書きがあった。早めの幕営となり、夕方まで仮眠した。
夕食の準備をしていると、1組の若い夫婦が来て、根掛かりしたので、釣りの道糸を5mほど欲しいというので提供した。詳しくはわからないが、喜んでいたので、多分そういうことであったのだろう。
彼らに刺激されてビッグサーモン川との合流付近で釣りを始めたら、いきなり30cm弱のグレイリング(マスの一種)を釣り上げた。記念すべき第1号だったのでリリースしたら、それ以降は全く釣れなかった。折角、1週間20カナダドルで漁業権を買い、まな板や調味料まで準備したのに、ユーコン川を味わうことができず残念だった(この後も釣れないまま)。
対岸に3人組のキャンパーがいて、闇の中に火が揺れていた。向こう側からもこちらの火が同じように見えているだろう。言葉は交わさなくても、それだけで心強いものである。
途中から気がついたが、この川には看板の類いが一切なく、またコンクリートの構築物もない。管理の手が入っておらず、そこでの全てが自己責任に委ねられている。自然への向き合い方が日本とは全く違うのだ。携帯の電波も届かない、日常の延長から切れたところで、自分の全力を出し切って、ありのままの自然に立ち向かって行く意思と力が、ここでは要求されるのだ。そのために、自分の中に眠っている能力をフルに動員しなければならない。毎日が新しい出来ごとで圧倒される。何と濃密な体験だろうか。
夜明けに寒くなり眠れないので、持っているものを全て身にまとい、ザックの中に足を突っ込んだが、それでも眠れなかった。昼間に仮眠をしていてよかった。準備段階ではダウンの冬用のシュラフを用意していたが、パッキングになって荷物が多すぎて、3季用(写真:赤のシュラフ)に変更したことが失敗であった。寒さに耐えられず、5時過ぎに起き出して焚き火をして暖を取った。オーロラが薄く残っていた。
朝には、フライとテントが凍りついて、はがすとバリバリと音を立てた。こういう日は、風がなく天気がいい。
食料が少しずつ減って、気持ちまで身軽になっていく。
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