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今日は死なない

小蝿を潰しました
グラスの縁を上手に這っていたのを
汚いと思って潰しました

拭こうとしましたが
なかなか取れてくれませんでした
それが呪いのようにも
塵紙の抵抗のようにも感じました

カマキリが道端で死んでいるのを見ました
小学校の通学路でした
蟻がたくさんたかっていました
身体が大きかったのでメスかなと思いました

学校から急いで帰ってくると
もう死骸はありませんでした
蟻もいませんでした

死骸を見たのは
この場所ではなかったのかもしれないとも思いました
でもやっぱりここでした
消滅したのかと思いましたが
蟻が全部食べたのだろうと考えることにしました

今空を見上げました
星座が不器用に並んでいます
それと同じように
私の記憶も不器用に浮かんでいます

輝く星の影には暗い青が広がるばかりです
そんな風に、小蝿のことも
カマキリのことも
きっと暗闇に沈んでいきます

私の記憶の星空は
ずいぶん貧相な気がします
刹那的な光で霞んだ
都会の空みたいだなと思います

虫が死ぬのはあわれです
それよりももっと
私が生きているのはあわれです
今日は死なない
その繰り返しが続くだけ

私の肉がいつか骨になり
砕かれたとき
そこには虫はたかってくれるでしょうか

あなたたちの死を食い物にする私のところに
どうか復讐に来て

粉になった骨が暗い土に埋まったら
星空みたいに見えるでしょうか


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