2023年 岐阜市議会 9月定例会(9月14日) 一般質問 「生活保護の捕捉率とセーフティーネットの在り方について」

○可児隆 岐阜市議会議員(所属会派: 健やか緑政)
 2つ目に参ります。
 生活保護の捕捉率とセーフティ・ネットのあり方について質問致します。
 生活保護制度は、日本国憲法 第25条 第1項「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」、第2項「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」を根拠とした制度です。
 生活保護を利用できる資格がある人のうち、実際に利用している人の割合を捕捉率と言います。
 まず、欧州先進国と日本の捕捉率を比較します。
 2010年のデータで、ドイツが64.6%、フランスが91.6%、イギリスが47~90%、スウェーデンが82%に対し、日本は15.3%~18%でした。
 次に、各都道府県の捕捉率ですが、山形大学の准教授だった戸室健作氏が2012年の就業構造基本調査や被保護者調査を用いて算出した捕捉率を引用すると、全国が15.5%、東京都が19.7%、愛知県が12.9%、京都府が15.8%、大阪府が23.6%に対し、岐阜県は7.9%で47都道府県中44位であります。
 また、文部科学省の「2018年 就学援助実施状況等調査結果」の要保護児童生徒数と準要保護児童生徒数から、「児童生徒に限った生活保護の捕捉率」を算出すると、全国が9.45%、東京都が9.11%、愛知県が7.31%、京都府が14.13%、大阪府が13.39%に対し、岐阜県は3.67%と47都道府県中41位でした。

 生活保護の捕捉率を算出するということで、全国平均を大きく下回る数値について、教育長にお聞き致します。
 教育委員会は準要保護児童生徒の親に対し、生活保護制度の利用を勧める、あるいは、準要保護児童生徒の親の情報を福祉事務所に伝えるということをしているのでしょうか、ご答弁を宜しくお願いします。

 これらのデータからいえることは、欧州先進国に比べ、日本の捕捉率はかなり低く、日本の中でも岐阜県の捕捉率は下位で、岐阜市の捕捉率は岐阜県よりは少し上ですが全国的には中央値よりも下であり、日本、岐阜県、岐阜市は日本国憲法 第25条の違憲状態にあると思われます。
 したがって、捕捉率を100%に近い水準まで引き上げる必要があると思います。
 そこで、確認のため、福祉部長にお聞きしますが、
 岐阜市における、2012年度以降の生活保護の捕捉率、2019年度から2022年度の新規生活保護申請世帯数、保護決定世帯数、扶養照会実施世帯数と照会率、扶養照会実施件数、扶養照会によって金銭的援助に繋がった件数を教えて下さい。

 現在、捕捉率の向上を妨げる要因として、次のに4点の問題点があります。
 1つ目の問題点は、「親族に知られたくない」ことを理由に、申請を躊躇させること。
 2つ目の問題点は、申請者と申請者の親族の仲を破壊する可能性があること。
 3つ目の問題点は、申請者がDV被害者である場合、DV加害者に照会が行き、申請者を危険な目に遭わせる可能性があること。
 4つ目の問題点は、福祉事務所の職員への業務負担が大きい割には、金銭的援助に結びつく割合が1%前後と極めて低いことです。
 岐阜市も含めて、多くの自治体で行われている扶養照会ですが、実は、扶養照会に関する法的な規定は存在せず、厚生労働省の通知に基づいて実施されています。
 生活保護法 第4条 第2項に「民法に定める扶養義務者の扶養は保護に優先して行われるものとする」という規定がありますが、これは親族が実際に金銭的な援助をした場合、その金額を収入として取り扱い、保護費を減額するということを意味しているに過ぎず、扶養義務者による扶養の可否等が、保護の要否の判定に影響を及ぼすものではありません。
 厚生労働省は、2021年2月26日と3月30日の2度にわたって「生活保護法による保護の実施要領の取扱いについて」と「生活保護問答集について」を一部改正し、DVや虐待のある場合は親族に連絡をしないということを明確にし、「一定期間、音信不通が続いている」、「親族から借金を重ねている」、「相続をめぐり対立している」等の事情がある場合も扶養照会を行わなくてよいということとしています。
 また、生活保護の申請者が扶養照会を拒んだ場合、その理由について「特に丁寧に聞き取りを行い」、照会をしなくてもよい場合にあたるかどうかを検討するという対応方針を新たに示しました。
 加えて、扶養照会を実施するのは「扶養義務の履行が期待できる」と判断される者に限る、という点も明確しました。
 これらの改正により、親族に問い合わせが行くことを拒否したい人は、申請時に「拒否したい」という意思を示し、ひとりひとりの親族について「扶養照会をすることが適切ではない」または「扶養が期待できる状態にない」ことを説明すれば、実質的に照会を止められることになります。
 厚生労働省の通知に従った運用をした自治体の扶養照会実施率はどうなったかと申しますと、東京都の足立区、中野区、新宿区は2021年度の扶養照会実施率が10%以下となっています。
 扶養照会実施率が10%以下でも全く問題は無いということで、ご安心頂ければと思います。

 捕捉率の向上を妨げる2番目の要因として、自治体が生活保護制度について充分な周知を行っていないということが挙げられます。
 中野区、足立区、新宿区は生活保護申請は国民の権利であることをポスター、webサイト、SNS等で積極的に周知しています。
 また、足立区は、webサイト上に『扶養義務者の扶養は「保護に優先して行われる」ものと定められており、「保護の要件」とは異なる位置づけのものとして規定されています。要保護者の生活歴等から特別な事情があり明らかに扶養ができない場合等は基本的には扶養照会を行いませんので、担当する福祉課にご相談ください。』と記述しています。
 そして、相談者用の生活保護のしおりの中にも『「扶養義務の履行が期待できない」と判断される扶養義務者には、基本的には扶養照会を行わない取扱いとしています。』と記述しています。
 さらに、扶養照会を希望しない申請者に対しては、親族の名前、生年月日、住所、電話番号、続き柄を書き、扶養を期待できない理由を4つの選択肢から選択して提出できる「扶養義務者申告書」を渡しています。
 岐阜市はこのような周知を行っておらず、改善の余地が、まだ、あると思います。
 そこで、福祉部長にお聞きします。
 生活保護申請は国民の権利であることや、特別な事情がある場合は扶養照会を行わないことを、ポスター、webサイト、SNS、生活保護のてびき等によって周知するお考えがあるかどうか、そして、扶養照会を希望しない申請者に対しては、扶養を期待できない理由を選択肢から選択して提出できる「扶養義務者申告書」を配布するお考えがあるかどうか、ご答弁をお願いします。

 捕捉率の向上を妨げる3番目の要因として、生活保護制度を利用する資格がある人の資力、資産、自動車保有等の明確な基準がwebサイトや生活保護のてびきに示されていないことです。
 今後、基準を明確にして、裁量行政からプログラム行政へと転換していく必要があるのではないかと思います。
 その点を福祉部長にお尋ね致します。
 生活保護制度を利用する資格がある人の資力、資産、自動車保有等の明確な基準の有無、またその基準値について、お答え下さい。

 捕捉率の向上を妨げる4番目の要因として、福祉事務所の職員が足りないことが挙げられます。
 福祉事務所の生活保護制度担当職員、ケースワーカーの1人当たりの担当世帯は、国の基準で1人当たり80世帯と定められています。
 捕捉率を向上させるためには、職員を増やすか、ケースワーカーの業務を電子申請、オンライン化により大幅省略して担当世帯数を増やすか、いずれかの選択肢を採る必要があります。
 また、職員の数だけでなく質も重要になってきます。
 福祉事務所の職員、ケースワーカーは、社会福祉に関する専門知識を持ち、相談者、申請者、利用者の立場に立ち、相談者、申請者、利用者に協力することが必要です。

 従来、生活保護制度は万策尽きた後の最後のセーフティ・ネットとして位置づけられ、行政は水際作戦等により、できるだけ利用者を増やさないためにリソースを費やしてきました。
 しかし、生活保護制度や類似の最低所得保障制度は経済政策として優秀であるということが経済学者の分析や社会実験により判明しております。
 東京学芸大学の教授だった鈴木亘氏が2005年9月に発表した論文「地域経済波及効果に着目した生活保護費の評価について」によると、生活保護の消費性向は1.0029 、乗数効果は1.68倍で、同じ金額の減税の乗数効果1.17倍、同じ金額の公共事業の乗数効果1.64倍よりも高く、生活保護の雇用誘発人数は、同じ金額の減税の1.42倍、同じ金額の公共事業の1.09倍であるとのことです。
 さらに、生活保護は公共事業よりも乗数効果や雇用誘発人数が高く、公共事業では届かない業種、分野に経済波及効果を届けることができる、優れた経済政策であるといえます。

 また、1974年から1979年、カナダのドーフィン市に於いて、最低所得を保障する制度「MINCOME(ミンカム)」の社会実験が、1人当たり年間最大1.6万カナダドルの現金給付、他に所得を持つ者に対しては所得額に応じて最大で半額まで引き下げるという内容で実施され、その結果、「労働時間を減らした住民は、男性で1%、既婚女性で3%、未婚女性で5%に過ぎなかった。時間と生活に余裕ができた分、幼い子供を持つ母親は育児に専念することができるようになった。学生はより長い時間を勉学に費やせるようになり、学業成績が向上した。犯罪件数、家庭内暴力の件数が減少した。入院率が8.5%低下し、下落幅は特に事故や怪我、精神疾患の分野で顕著だった。企業と労働者の労使関係では、労働者の立場が強くなり、賃金の上昇が示唆された。」等、「MINCOME(ミンカム)」は、健康、学力、社会、経済等に良い影響を及ぼしました。
 現代は、人工知能やロボットの台頭により、肉体労働だけでなく頭脳労働や芸術分野ですら人間が機械に勝てない、誰しもが失業し得る「シンギュラリティ(技術的特異点)」の時代が2030年代から2040年代に訪れるといわれており、到達が2020年代に早まると主張する学者もいます。
 以上、生活保護の件は終わります。


○議長
 教育長、水川和彦君。

○水川和彦 教育長
 生活保護及び水泳授業に係り、大きく2点のご質問を頂きました。
 まず、1点目。
 生活保護の捕捉率とセーフティーネットのあり方についてのご質問にお答え致します。
 教育や家庭の環境や経済状況によって左右されることなく、どの子供も平等に受けられるべきものであると考えております。
 よって、貧困状況にある家庭の子供が食事や学習、進路選択など、様々な場面で不利な立場に置かれることのないよう、支援することがないよう、支援することが重要であると考えております。
 生活保護制度につきましては、生活困窮者の生活保護受給に関する手続きを担当部局が担当しており、教育委員会としては準要保護児童生徒の保護者に対して生活保護制度の利用を勧めることは致しておりません。
 また、準要保護児童生徒の認定に関わる保護者の情報について、福祉事務所に伝えることも、個人情報保護の観点から、致しておりません。
 一方で、児童生徒の家庭が複雑な事情を抱えている場合は、生活保護の相談が必要なケースも考えられ、エールぎふや、こども相談センター等と協議した上で、福祉事務所に繋げることも考えられますので、今後も児童生徒や保護者の困り事、悩み事に丁寧に耳を傾け、必要な支援に繋げて参ります。


○議長
 福祉部長、川瀬由紀子君。

○川瀬由紀子 福祉部長
 生活保護についての4点のご質問にお答え致します。
 生活保護制度は、日本国憲法に規定する理念に基づき、最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的として、その困窮の程度に応じて、必要な保護を行うものです。
 まず、1点目の生活保護の現状についてお答します。
 令和5年3月末現在で、生活保護受給世帯数は4869世帯で、受給者数は5716人となっております。
 保護開始件数は、令和元年度は申請533件の内、488件。
 令和2年度は、申請455件の内、429件。
 3年度は、申請371件の内、348件。
 4年度は、申請440件の内、423件でございます。
 また、扶養照会については、令和4年度の生活保護受給世帯4921世帯の扶養義務者は16041人でした。
 その内、文書を送付したのは、扶養義務の履行を期待できないものを除く、10170人で、率にして63%。
 さらに、金銭的援助に繋がったのは45人でございました。
 生活保護法では、原則、申請に基づき、保護を開始するとされており、実際に本人等から、保護申請がなされなければ、生活保護の受給要件を満たすかどうか確認することが困難です。
 したがいまして、生活保護を利用できる資格がある人について、把握することが出来ず、その内、実際に保護を利用している人の割合である捕捉率を求めることはできません。
 続きまして、2点目の、生活保護制度の周知に関するご質問についてお答え致します。
 生活にお困りの方が、生活保護の申請を躊躇しないためには、生活保護制度の正しい理解が重要と考えております。
 そのため、市のホームページに、生活保護制度の概要や、手続き方法などを掲載しております。
 また、窓口に来られた方には、生活保護制度がよく分かるよう、要点を1枚にまとめた、「申請を考えている方へ」というチラシを用いて説明しております。
 このチラシには、「生活保護の申請は国民の権利です。」と記載しています。
 引き続き、ホームページやチラシを利用して、制度の周知に努めて参ります。
 3点目の扶養義務者申告書の配布についてお答え致します。
 生活保護の申請をされた際には、扶養義務者である親族を対象に、精神的な支援や、金銭的な援助の可否などを確認する、いわゆる、扶養照会を実施しております。
 これは、生活保護法 第4条 第2項において、民法に定める扶養義務者の扶養は生活保護に優先するものとされているからです。
 扶養義務者からの金銭的な援助のほか、精神的な支援も、その後の保護受給者にとって有効であり、扶養照会の大切な役割であると考えております。
 議員ご照会の通り、令和3年2月に、厚生労働省から、「扶養義務履行が期待できない者の判断基準の留意点等について」が通知されました。
 通知では、扶養義務の履行が期待できないと判断される扶養義務者には、原則、扶養義務者への照会を行わない取り扱いとしています。
 具体的には、扶養義務者が長期入院患者や未成年者、御年70歳以上の高齢者である場合のほか、10年間音信不通であるなど、明らかに交流が断絶している場合、家庭内暴力の加害者である場合や、扶養義務者に借金を重ねている場合、相続を巡り、対立しているなどであります。
 本市では、申請の歳に、扶養義務者申告書をご記入頂いた後、丁寧な聞き取りを行い、国の判断基準に従って、扶養義務の履行が期待できないと判断される場合は、扶養照会を見送る等、柔軟な対応を行っております。
 最後に4点目の、生活保護の基準についてお答え致します。
 生活保護基準は、その世帯の人数、年齢、障碍の有無やひとり親世帯であるかどうか等により、それぞれ異なります。
 また、生活扶助、住宅扶助、教育扶助、生業扶助等、その世帯に必要な扶助を支給するため、基準を一律にお示しするのが難しい状況です。
 同様に、保有が認められる資産についても、その資産の内容と活用状況によって異なり、自動車の保有に関しても、通勤や通院など、使用の目的と、公共交通機関の利用が困難などの理由、保有する自動車の資産価値等により、それぞれ異なりますので、基準を明確にお示しするのは困難です。
 何れに致しましても、生活に困窮した方のセーフティ・ネットとして、生活保護の申請をためらうことの無いよう、今後とも相談者に寄り添いながら、その困窮の程度に応じて、必要な支援を行って参ります。