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М

就活生らしく、説明会に行って参りました。そして、実のある質問もできぬまま、恥ずかしながら生きながらえて帰って参りました。

出発時よりも幾分かげっそりとした私(a.k.a残留就活日本兵)は、ふらりMに寄った。

「М」とは、他でもないアメリカ合衆国に本社を置くファストフードチェーンストア「マクドナルド」のことで、やっぱイニシャルって呼んだ方が秘匿性があってキュン♡だな~という乙女的思考を持つ私は「マクドナルド」のことを「М」と呼んでいる。

それは偶然にも、浜崎あゆみが自身のプロデューサーMax Matsuuraことエイベックス株式会社代表取締役会長CEO「松浦勝人」との恋愛関係に基づき、「M」という名曲を作り出した事実と重なる。私はこう見えて、心にAyuを飼いならしているのだ。

ところで、私は何の目的もなくМに入店したわけではない。

Mでは、3月20日から『映画ドラえもん のび太の新恐竜』とコラボしたハッピーセットが発売されており、ドラえもん大好きっこの私としては、コロナの影響で映画公開延期が決まったこの作品を間接的な形であっても応援したかったのだ。それに、お腹いっぱいになった上でドラえもんのグッズ+シールを390円で入手できるのはどう考えても安い。就活スーツでハッピーセットを頼む羞恥と天秤にかけても、安すぎる。

さて、私が手に入れたドラがこちらになります。

かわちい、かわちすぎる。

くちがニュってなってますし、ウインクしてますし、腕がちょっと動きます。なんですかこれ?すごくいいですね。

くぅ~やぱ可愛い~!とちびまる子ちゃんでたまちゃんのお父さんが愛娘を激写するように、写真をぱしゃりぱしゃりとかましていると、

隣のテーブルでイケイケの10代後半らしき男の子2人組の声が耳に入ってきた。

「隣の女の子どう?」

「いや、スーツでハッピーセット女子はちょっと怖いわ」

「それな」

私の行動をおもきし馬鹿にされていた。

おそらく彼らは私がイヤフォンをしているから会話が聞こえていないと踏んだのだろうが、こちらは無音でイヤフォンしているので筒抜けだ。「スーツでハッピーセット女子」という、そんな奇天烈な女子のカテゴライズを私のためにわざわざ作ってくれた彼らは、優しい&失礼という一見すると真逆にも捉えられる性質をともに内包している。おもしれ〜じゃね〜の。

ただ、私が一人ご飯のときに無音イヤフォンをするのはこうした香ばしい会話を盗み聞きするためなので、まったく腹は立たない。

私は少し性格が悪いし、事実ちょっと怖い女である。

最近の陽属性の若男はぴっちぴちのダメージジーンズを履くイメージがあるが、彼らももれなく、うっ血しそうなほどのタイトなクラッシュデニムに身を包んでいた。きっとカラオケでは期待にもれずオフィシャル髭男dismの「Pretender」を歌ってくれるし、呼吸をするように自然と「鬼滅の刃」にハマっているのだろう。奇をてらうことなくただ真っ直ぐに、今の流行をがむしゃらに楽しめるタイプだ。私も本当はそういう人になりたかった。そんな微かなコンプレックスを抱えポテトSを咀嚼しながら、そのまま彼らの話に耳を傾ける。(もちろん彼らのポテトは有無を言わせずLサイズだ)

「この女の子はさ、顔可愛いけどたぶんかなり加工してんだよな~これとか顎なさすぎる」

「DM見して…ってか返信無視されてんじゃん笑笑」

「可愛い子ほど全然返して来ないよな笑笑」

どうやら彼らは、インスタのDMでどれだけ可愛くてヤレそうな女の子を口説けるか、というような要旨の話をしていたようだった。なんて下品で切実なんだろうと、私はひっそりと感動していた。彼らの話を聞くまでは、極まれに私のインスタの鍵垢にフォロー申請をしてくるまったく名前も知らない陽属性若男の存在はまったく理解不能であったが、彼らと同じようにナンパツールとしてインスタグラムを使用していたのだろうと腑に落ちた。インスタならば女の子の顔もわかったりするだろうし、確かにナンパに向いているSNSなんだと思う。本当に陽属性の人たちは今の時代の楽しみ方が上手いな~と感心してしまう。

二人のうち白いパーカーを着ていた方(以下白P)は、どうやら狙っている女の子から返信が5日ほど来ず、無視をされているようだ。そしてそんな状況に対して、SupremeのTシャツを着ていた方(以下シュプ)がこまごまとアドバイスしているようだ。

白P「この自撮りきて、(豚じゃないよ!)って返信してから、まぁガン無視だよね笑」

シュプ「あ~ガチだ」

白P「な?あっ今この子オンラインしてるわ」

シュプ「てか、これ相手のオンラインとかわかるってことは自分のオンラインも伝わるやつじゃん、設定きれば?てか、きっていい?必死感消し去るしかないっしょ」

白P「おけ~」

マジで香ばしい会話するなこいつら、と思いながら私は断片的な彼らの会話から状況を推測する。おそらくDM相手の女の子は、肌露出の多いセクシーな服装をした自撮りを「マジ豚www」みたいなコメントを添えてストーリーかなにかにUP(あるいはDMで送信)して、白Pはそれに「豚じゃないよ!」などと返信した挙げ句無視をかまされているのではないか。そして、シュプの分析によると白Pの必死感が敗因ということでオンラインがわかる機能をやめて再アタックとの結論が導かれていた。

しかし、彼らの断片的な会話を材料とした、私の分析と見解は異なる。そもそも、自分のことを太っていると認識している女の子がわざわざストーリーに自分の写真をあげて「マジ豚www」とか言う確率は限りなく低い。自分がある程度可愛く、イケてるという自信があるから「マジ豚www」と言えるのである。そうでない、つまり自分が本当に豚のように太っているとガッツリ認識している女の子が「マジ豚www」と言った場合を想像してみて欲しいが、これはかなり悲惨である。普通、みんなが見れるようなSNSで自撮りをあげることのできる女の子は、そこまで悲惨な内容のことを言わない。ほんとうに自分が豚のように太っていると思う人は、1日にアイスを3つ食べたり、えぐカロリーを摂取してしまった後に、誰にも知られることのない「やばい…」という独り言をぽつりと吐くだけだ。だから、そもそも「マジ豚www」と言ってる女の子にクソ真面目に「豚じゃないよ!」と返す時点で会話の認識が甘いのである。

「豚ではなく、むしろ他と比べても可愛い女である」ことくらい、本人が1番わかっているに違いないのだから。必死感がどうとかこうとか言う前に、その女の子の自撮りに反応するなら「めっっっっちゃ可愛い!」とでも言っとけばいいのだ。とにかく、肯定されたいんだから。SNSの発達した「一億総承認欲求爆発社会」においてサバイブするにゃ、肯定が基本中の基本だ。

「マジ豚www」と自己卑下する女の子に「豚じゃないよ!」とバカ真面目に返すとしたら、定期的にフゴフゴ鳴いて、泥まみれになるのが好きで、乳首が12個ある人間の女の子がいた場合に限られる。しかし、そこまで豚に近い女の子が存在したら、もはや「豚じゃないよ!」とも否定しきれなくなるだろう。そうなった女の子には、我々はもう何もできなくなってしまう。だけどそんな女の子にかける適切な言葉を見つけるためにも必要なのはやはり、乙女心の理解であり、それはつまるところAyuの精神性だ。それこそが彼らのナンパ活動に唯一欠けたものである。

私は決意するようにBluetoothイヤフォンの電源を静かに入れ、できるだけ隣のテーブルまで音漏れするような音量で浜崎あゆみの「M」をかけた。





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