選ばれなかった僕らでも

「前職は地方局のアナウンサーです」

この書き出しは違和感を感じている。だってアナウンサーって選ばれてなる人だとずっと思っていたから。

アナウンサーと呼ばれる人はテレビ、ラジオ、コミュニティFM、フリーの人など挙げればキリがないくらい日本にはたくさんいる。これを読んでいるみなさんが思い浮かべるのは、お住いの地域にもよるが、東京キー局のアナウンサーという方が多いかもしれない。

ここでいう東京キー局とは、日本テレビ、TBS、テレビ朝日、テレビ東京、フジテレビ、NHK。

これらの6局で正社員としてアナウンサーになるには、数百倍から数千倍というすさまじい倍率をくぐり抜けなければならない。採用人数は1人〜多くても5人くらいなのだから(NHKは例外だが)応募人数に対して倍率が高くなるのは当然だ。

私がアナウンサー志望の大学生として就職活動をしていた頃、ずっと頭にあったのは

「選んでもらいたい」

という思いだった。

周りにはミスコン出身者、モデルやタレント活動をしている人、NHK放送コンテストで優秀賞をとった人など様々な経歴の持ち主がわんさかいた。私は上記のような経歴などない、田舎出身の普通の大学生だった。

本来ならば、もっと戦略的に自分を売り込む必要があるのだが、考えが浅かった私は、アナウンサー試験という大海原に裸一貫で突っ込んだ。全国各地の放送局、受けられるところは全部受けた。

そして玉砕した。

アナウンサー試験しか受けていなかった私は新卒時に内定を得ることができなかった。ご縁がなかった。選ばれなかったのだ。

卒業してから数年後、フリーターや契約社員をしながら既卒でも受けられるアナウンサー試験を受けた。

就活中、落ち込んだとき決まってthe pillowsのハイブリッドレインボウを聞いていた。プレイリストのトップ25でぶっちぎり1位になるくらい。

Can you feel?
Can you feel that hybrid rainbow?
昨日まで選ばれなかった僕らでも
明日を待ってる
(the pillows 『ハイブリッドレインボウ』より)

『選ばれなかった僕ら』という歌詞に自分を投影し、わずかな希望を手繰りよせようと必死だった。しかし、最後はこう締めくくるのだ。

昨日まで選ばれなかった僕らでも
明日を持ってる
(the pillows 『ハイブリッドレインボウ』より)

明日を「待ってる」から「持ってる」に変わるのだ。よく聞いていたはずだったのにこの違いに気づいたのは随分後のことだ。

音声的なことを言うと「待ってる」「持ってる」は同じマ行。母音は「ア」と「オ」で口の開き方も同じくらい。なので似ている音ではある。

もうこの歌詞については色々なところで言及されているが、私はこの違いに気付いた時には大いに感動した。そしてちょっと泣いた。

選ばれなくてもいいのだ。選ばれない私でも明日を「持ってる」のだから大丈夫って言ってもらえている気がして。

これは結果論じゃんと思うかもしれないが、のちに内定を頂いた局は、選ばれようとか自分をよく見せようとか思わなかった。

あの頃、選ばれたくて必死だった私に言いたい。

「選ばれようとしなくて、大丈夫」と。



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