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秘密基地

最近、スマホでゲームをするようになってしまった。コロナで家にいることが多くなったのも一因かもしれない。これまでの私は、スマホやパソコンなどでゲームをすることはなかった。働き盛りの大人がそのような時間つぶしをしてはいられないという気概もあった。


しかし、ゲームを遠ざけてきた原因をよくよく考えてみると、その昔、インベーダーゲームの一面をクリアーできなかったことに端を発しているような気がしている。当時もゲームセンターやゲームウオッチなどが流行っていたが、小学生の頃の私は、そんなゲームに頼らなくても、もっと面白い世界があることを知っていた。


そんな時には、少し空想の世界を頭に描く。その空想の世界は、大体いつもこんな設定だった。

異性人が僕らの町に攻めてくるのだ。
大人はそのことを信じようとしない。
そこで、僕らは立ち上がり、異性人との戦争に備える準備をする。
そのためには、まず『秘密基地』が必要だ。
この『秘密基地』は決して大人に見つかってはいけない。
何も信じようとしない大人たちは、僕らの計画を邪魔するだろう。
大人たちを助けるためにも、絶対に内緒にしなければならない。
そう誓いを立てて、自転車に乗って『秘密基地』探しを始める。

『秘密基地』はできるだけ遠い方がいいし、誰も知らないところがいい。
具体的には、空き地(あの頃は福岡市内でも、至る所に空き地があった)の中に捨ててある大きなコンクリートの筒の中だったり、竹やぶの中にダンボールで囲いを作ったものだったり、あるいは新築の住宅の中(鍵はよく裏口の屋根の上に隠してあった)だったりした。


この『秘密基地』を見つけても、すぐに他のクラスの奴に見つかったり、不良の中学生や高校生が怪しげなことをするために、私たちから奪った。
その度に、私たちはまた新しい『秘密基地』を求めて探索と冒険を繰り返し、新しい空想の世界を求め続けた。創造する力が、少々の恐い思いや痛い思いを払いのけて、未知の喜びを信じ前進させてくれる。


私たちは、その『秘密基地』で何をしていたのだろう。
家からジュースやお菓子を持ってきて、そこで親や他の友達には話せないことを密かに語り合っていた。何でも本音で話ができるので、すごく安らぎを感じることができる場所だった。


「あいつとあの子は両思いなんじゃないか」とか
「俺はあの子が好きだけど、まだ話をしたことがない」とか
「親が塾に行かせたがって困る」とか
「クラスのあいつだけには負けたくない」とか
「昨日のルパン三世見たか?、普通あんなことできね~よな」とか
「俺はオバケを見たぞ、信じてくれるか」とか
「勉強なんかしないで、野球選手になりたい」とか


このような『秘密基地』は、当時の私たちには無なくてはならない存在だったので、自然にこんなルールも出来上がっていた。
それは、学校や家では絶対に『秘密基地』の話はしないこと。特に、女の子に『秘密基地』の話をする奴なんて最低だと考えられていた。それだけ、『秘密基地』は神聖な場所でもあった。

              ☆


『秘密基地』は、決して何もしないで手に入るものではない。限りない思索と冒険を繰り返し、創造する力をつけていかなければいけない。

これは子供だけの話だけではない。
いつも疲れを感じていて、ただ漠然と仕事をし続け、将来に明るい希望を見出しにくい大人たちにも、私は『秘密基地』が必要だと思うのである。

今はその『秘密基地』を、スマホの中で探しているのかな。

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