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里山を選ぶ

今年の夏も、東北へ向かいました。

訪ねたのはいわき市大久町(おおひさまち)の山の中。
埼玉県から移住して6年目を迎える小島剛さん(たけしさん)、悦子さん(えっちゃん)、そして震災後、東京生活に別れを告げて両親の元へやってきた和美ちゃんが迎えてくれました。

大きな被害を受けた太平洋に面した久ノ浜(ひさのはま)から車で10分。山を開墾して、とても素敵な里山になっていました。

剛さんとえっちゃんは、自然の中の生活を、ふたりの人生のご褒美として贈りたいと考えていました。その思いを強く持っていたのは、自然や植物を身近に感じていたえっちゃんの方。

剛さんはといえば……自他共に認める「ザ・会社人間」!
田舎暮らしに関心ナシ!
無趣味!
寡黙!

それでもふたりで日本のあちこちを探し回って見つけた場所が大久町でした。大久町に決めたのは剛さんだったんだって。

「父は無口だけど、優しい人だから」という前置きがあっての剛さんとの初対面は里山の畑。確かに口数は多くはないけれど、早朝の里山では、もいだトマトを食べながら、いろいろな話を聞かせてくれます。6年かけて作ってきた里山のこと、畑で育てる野菜のこと、手作りの工芸品のこと。ブヨに刺されると数週間かゆいとか、枝豆は大豆の若い豆のことだとか。

ブヨに刺された箇所は……今もまだ痒い!

そのどれもこれも福島にやってきて、初めて取り組んで学んだことばかりなんだそうです。剛さんの寡黙な生きざまは、自然の中では饒舌に映っていました。かっこいいなぁ。

毎朝5時の散歩のあとは食卓を彩る野菜の収穫。剛さん、いいでしょ♪

大久町の里山生活3年目、東日本大震災で被災。一時は東京の和美ちゃんの所へ避難します。しかしやはり、福島へ戻ることを決めます。

都会から地方に移り住むことは、そう簡単なことではありません。地域を乱すよそ者、金持ちの道楽などといった誹謗や中傷に悔しい思いをすることも少なくないんです。ぼくも九州では、どこのボンボンだ?と言われていたようで…


えっちゃんは埼玉で、お花の先生をしていました。震災後はその経験を活かして、育てた花を小学校や町の行事などに提供。そのため、里山には花がたくさん植えられています。また、地域の女性たちと立ち上げた集まりの代表を務めています。

『千日紅の会』
千日紅(せんにちこう)って何?花です。紅色や白やピンクの親指くらいのまあるい花です。花言葉は「色あせぬ愛」だと教えてもらいました。

千日紅の会は、花言葉をそのまま実践しているような活動です。新盆精霊、戦没者英霊、水難者英霊、有縁無縁一切精霊の供養などの地域の行事、そして東日本大震災の犠牲者へ花を添えます。東日本大震災の際には全国に声をかけ、数日で1万本の花が届けられました。

えっちゃんはぼくと話していると「似てるわねぇ」と言います。考え方や発想、生き方の見通しや思いなどが、ぼくと似ているって。ふむふむ確かに。毎日夜更かしして、いろんな話をしてくれました。


里山に咲く千日紅は、久之浜大久町地区を彩ってる。

ぼくをここへ呼んでくれたのは和美ちゃん。被災した両親が福島へ戻ると言った時、猛反対します。二人の考えが、理解できなかったそうです。震災から2年が経った昨年の夏、ずっとモヤモヤしていたことを実行に移します。剛さんとえっちゃんが暮らしている福島に移住すること。心配、不安、新天地への期待、希望……

えいっ!都会の暮らしとさよなら!
福島へ移り、NPO法人の事務局をしながら母親のえっちゃんと共に地域活動を展開しています。両親と暮らすことでどうして反対を押し切ってまで福島へ戻りたかったのか、ちょっとずつわかってきたように思う……東京ではただ生きていた、という和美ちゃん。今は目の前にいる人たちのために毎日を生きていました。


小島家の花びらの壁。石を集めて色をつけて♪

ぼくの滞在予定は、いつものように翌朝起きてから考えて……多くの人はそれを嫌がり、ぼくは敬遠されます……が、小島家のみなさんはそれが当たり前のように、ぼくを家族の団らんに加えてくれます。ご飯を食べてゴロゴロしてそのうち居眠り。気がつくと日が暮れて……

ぼくだけではなく、多くの人が小島家を訪ねる理由。それは言葉や態度だけではない目に見えない何かが、訪れる人の気持ちを落ち着かせていて……それはきっと、深い思いやりなんじゃないかなぁ。

自然の中に身を置く人に、たくさん会ってきました。ぼくと気が合う人はたいてい、否定的な言葉を使いません。互いに相手を尊敬し尊重し何かを共有し共感したりできる人。小島家のみんなは、そこにあるものをそのまま見ていました。

福島には人がいて、それぞれの生活があって、原子力発電所がある。

それを進めたい人がいて、進めたくない人がいる。
必要だという人がいて、いらないという人がいる。
福島を離れた人がいて、生活を続ける人がいる。
福島の今と昔を知らない人がいて、知っている人がいる。
知りたくない人がいて、知りたい人がいる。
いいものはよくて、そうでないものはそうでない。

里山で寝起きして感じた事は、そこにある自然の調和。人間だって獣だって自然の一部。目に見えるものだって、見えないものだって自然の中に生きている。


夏休み、孫たちとのピクニック。この近くにはむかーしむかし、恐竜が住んでいました。


あまりにも里山が気持ちいいので、お客さん用の部屋を用意してくれたにもかかわらず、ぼくは里山にテント♪

夜は真っ暗、虫の鳴き声も雨音も、とにかく近い!時折、ガサゴソッ!という獣の音……朝露の音、鳥のさえずりで目を覚まし……自然を近くに感じていると、ぼくの中の人間が整っていくのがわかります。


ガサッ!ゴソッ!バッタが貼りついたり、獣が来たり……楽しいぞ♪

テントで寝るよと言ったら、和美ちゃんたちは「えー怖いよ」って。真っ暗闇の里山にいるのは獣や見えない何か。でもそれはそこにいて当たり前の存在だから、怖さは感じない。あるのは見えないものへの畏れ、畏敬の念。

反対にそこにいるはずのないモノの方がぼくは怖いです。
暗闇に人
自分の部屋に知らない人
納豆にケチャップ
海水浴場に原子力発電所

知らないことを知る。
知らないことがなくなるまで、知りたいことがある限り、ぼくはあちこちを訪ねるんだろうなぁ……小島家の里山テントでそんなことをぼんやり考えていました


人の住む里と自然の住む山。それが里山の調和、共鳴する力。


そうそう。西田敏行さんと菊池桃子さんが案内役を務める番組に、剛さんとえっちゃんの暮らしが紹介されました。『人生の楽園 ~新しい生き方の提案~』
http://www.tv-asahi.co.jp/rakuen/contents/past/0208/


毎朝、里山畑から採ってくる野菜が食卓に並び、家族でそれを囲む。家族三人の生活はお互いを知る時間となって、それはさらに地域を知る活動へと移っていきます。

「里山をみたかっくんが、どんなことを感じるのかを知りたくて来てほしかった」と、今回ぼくを大久町へ呼んでくれたのでした。

剛さん、えっちゃん、かずみちゃんありがとうございました。
またお呼ばれされます。

世界には、わざわざ訪ねてまでも会いたい人がいる


起きてすぐ、もぎって食べる朝トマト♪食べ放題!


夏休みはおじいちゃんおばあちゃんのいる福島へ…東京の孫たちもここが大好き


オーガニックコットン。和美ちゃんが事務局を務めるNPO法人の取り組みのひとつ。かわいいカメラマンの撮影風景♪


収穫した玉ねぎ…もちろん食べ放題!

✳︎2014年の夏。
その時の夏休みの宿題の絵日記のように紹介したブログより転載。