旅になんか出るな!
はじまり
1995年1月17日
阪神・淡路大震災が起きた時、ぼくは25歳の大人だった。自分で自分の行動を選択できる大人だった。テレビの向こうで起きている現実を知ろうと、何かをしようと思った。募金、物資を送る。でも本当は何をしていいのかさえ分からなかった。ましてや現地に行くなんてことは想像できなかった。そしてぼくは何もしなかった。何もできなかった自分自身を見て見ぬ振りをした。
自分の中の大きな負い目を隠しながら15年が過ぎた。
南米チリのコンセプシオンでマグネチュード8.8の地震
2010年2月27日
震源地コンセプシオンに暮らしていた友人と連絡が取れなくなった。その瞬間に、15年間隠し続けていた自分の中のヒミツが一気に噴き出した。
ぼくは彼を探しに行くために仕事を辞め、チリへ向かうことを決めた。
2010年4月10日
ぼくは九州福岡の小さな漁師町に立っていた。
……ん?
あれ?
えーと……
チリはどうした?!
実は仕事を辞めチリ行きの準備も終え、さあチケットを取ろうと思った矢先、音信不通だった友人と連絡が取れました。
かっくん:無事か!?今からそっちへ行くから待ってろ!
友人 :い、いや、来なくていいし。
かっくん:……。
こうしてぼくは無職の暇な人になりました。
まわりの友人知人にさんざん南米に行くぞー!と豪語していたので恥ずかしいったらありゃしない。もう笑うしかなかったので、気を取り直してさあどうしようかと考えていたところ、福岡に素敵なところがあるという話をちらっと聞いていたのを思い出しました。
無職になった暇なぼくは、その町へ向かうことにしました。
青春18きっぷを握りしめ、気晴らしの一週間の旅行を終えたら就活をしよう!と。
旅人かっくんの誕生です。
ガイド -準備は大事
旅には準備がつきものです。
ん?準備なんかしてないくせにだって?
んー、確かにそうかもしれない。
そうかもしれないけど、必要最小限の心の変化は捉えることだけは忘れないようにしてる。
ぼくにとっての準備は、常に自分の心の変化に注意を向けていること。何かが始まってから準備をするんじゃ遅いことの方が多いから。それが災害や事故や辛く悲しいことならなおさら。常に常に変化に備えていることが大事。
いつでもぱっと動けるように。
【生きるために頼れる場所を増やす道を、”旅”という】
ホップ : ツーリスト(tourist=観光客)
ステップ: トラベラー(traveler=旅人)
ジャンプ: かっくん(もうひとつの旅のカタチ)
今ぼくは、ツーリストでもトラベラーでもない、もうひとつの旅のカタチを生きているような気がします。
〈もうひとつの旅のガイド〉
・訪ねた先(知らない町)で友だちや仕事を見つける方法
・訪ねた先で食卓を囲む方法
・訪ねた先で居候をする方法
・訪ねた先で幸せになる方法
・名刺(肩書き)に頼らない出会いの方法
・履歴書を書かない出会いの方法
・遠慮しない、断らない、気を抜かない方法
・手の届く世界を豊かにする方法
・目に見えないものを捉える力を身につける方法
・素敵な相手を見つける方法……(えっ?)
……などなど。
借りたら返すという”循環型の旅”の始まり
九州へ渡り生産者のど真ん中で暮らすようになったぼくは、消費者でしかなかったことに気づきます。九州で出会ったすべてから教わり、都会と自然の狭間に見た、愛とユーモアと想像力あふれる暮らし。そしてその自然の風や土の力を借りて根を張る人たちとの出会いから、ぼくの旅は始まりました。
ぼくが突然、九州に旅立ってしまったことで、東京でお世話になった人たちに、なんの挨拶もできないまま、モヤモヤを抱えたまま日々が過ぎました。
移住先の九州には、とにかく目の前にあるもの、起こるもの、やってくる人たちとの毎日がありました。
日々の暮らしの中の、「はっ!」とした瞬間
子ども相手の仕事をさせてもらっていた頃、毎日が子ども一色でした。ある中学生の女の子の将来への不安や町から出たいというような悩みを聞く、ということも日課でした。その女の子の話を聞いているうちに「あぁ、これでいいんだ」と思ったんです。
遠い東京のことをいつまでも思い煩っていてもどうにもならない。今できることはこの子の話を聞くこと。東京で受けてきた借りを、この子に返せばいいんだ。そして受けた恩をこの町に渡していこう。 九州に渡って1年が経とうとしていました。
たくさんの借りをつくってきたぼくのはじまり
恩を渡す。
恩を送る。
恩を贈る。
借りたものは返す。
これがぼくの答えでした。
後悔と自分への嘘を引きずっていた時間が、ぼくを旅へと向かわせました。旅に出る理由なんか、ひとりひとりそれぞれ。きっと理由なんかは後からついてくるもの。目的のある旅をしたことのないぼくからは、うまい言葉はかけられない
この物語を道連れに、借りをつくり続け、その借りを返す旅。
迷惑をかけながら、人から受けた迷惑を引き受ける旅。
それが、わざわざ訪ねてまでも会いたい人がいる、ぼくの旅そのものです。みなさんにも借りを返しにいきたいです。またたびの途中で会いましょう。
追伸
旅に出ることを考えている人へ
勢いは大切。でも、簡単に旅になんか出るな!
それでも旅に出ることを止められそうにない人へ
止まれ!とにかく止まってください。まずは深呼吸。
それからでも遅すぎるということはないから。
追記
...... ...... ......
2021年1月17日
あの頃の倍の年を重ね、ぼくの旅は正しく迷子になりながら、ちゃんとみんなに迷惑をかけ続けているんだろうか……果たして♪
↑このガイドブックを手にチリへ渡ろうとしていました。これを色紙代わりに、会う人会う人に本の余白にメッセージを書いてもらっていたっけ。チリの友人のことを知らない人のメッセージの方が多かったかも!