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“接待似顔絵”というものをご存知だろうか。

私は絵を描くのが好きだ。

どちらかと言うと、目にしたものをそのまま描くことが好きだ。

だから、美大に憧れて画塾に通ったとき、

石膏デッサンでメディチを選ぼうがブルータスを選ぼうが

リアルに描ければ

両方を同じようににうっとりした眼差しで見つめ

やかんなどの金属物の質感を上手に描けた日には

私はかつてのナルキッソスが水面に移る自分を見たごとく

イーゼルに貼付けた紙を見つめていたに違いない。

まぁ数年後に自分のデッサンを見たら、恥ずかしくて真っ赤になるんですけどね。ははは。


とまぁ、私は見たまま描くタイプの人間である。


我、5歳ニシテ“接待似顔絵”ヲ習得。

多分5歳。保育園年中だった気がする。

クレヨンを授かり、お絵描きに目覚め

なんとなくだが、母や周りの友達を描くと

皆が喜んでくれることに気づいた。

もちろん大人達は本気になって褒めている訳ではないが

単細胞の私は、褒められたり喜んでくれたりするのが嬉しくなり

画家になりきって、いつもスケッチブックとクレヨンを持ち歩いていた。

ある時、園長先生が私の所にきて

「考えるおばけちゃん、私のお顔を描いてちょうだいな。」と言った。

画家モードの私は「どれどれ…」とエアー髭にふれ、エアーパイプ煙草を置き

でかでかと“おえかきちょう”と描かれた自称スケッチブックをめくり描きだした

この頃から、私は見たままを描くスタイルだったので

先生とスケッチブックを見てはじっくり描いていた。

その時、園長先生が一言。

「“しわ”は描かないでちょうだいね。」

・・・

・・・・・・・しわ?

おいおい、保育園児のおつむに“しわ”なんて言葉は存在しないぜ…

私は幼き画家、そんな得体の知れない“しわ”なんて関係ないくらい

園長先生の素敵なお顔を描いてあげますよ…

「“しわ”、描いたら先生悲しいなぁ。」

・・・・・・・・・かなしい?

“しわ”を描くと園長先生が悲しがるのか?!

みんな似顔絵見せると喜ぶって言うのに、“しわ”は悲しくさせちゃうのかい?

そう考えると「せんせぇ、“しわ”ってなあに?」と素直に聞きたくなるけど

なんせこちとら、髭とパイプ煙草を持ち合わせた画家モードなもんで

変なプライドを搭載したがために

園長先生の言葉に「はぁい」と分かったフリをしてしまったのだ。


とにもかくにも、私は画家だ。見たままを描けば良いのだ。

園長先生も絶対喜んでくれる。

この世に絶対はないけど、私なら絶対出来る。

I can do it.

「園長先生、出来た!はい!!!」

「ありが…ってしわ描いてるじゃないの!!!!

しわ描いてたんかワレ!笑

先生いわく、お口の横の線が“しわ”であり、描かれては嫌なものである。

そこで初めて私は“しわ”の存在を知り、

同時に先生には“しわ”があるけど

人によっては見たままを描いたら悲しむ(というか怒る)んだなぁと知った。

描きたい絵と喜ぶ絵の違いを知る

今まで皆に喜ばれて、セブン並みに良い気分になっていた私にとって

園長先生の“しわ”ぷんぷん似顔絵事件は私の脳裏に刻まれ

そこから、似顔絵=その人を喜ばせるため=そのまま描く必要はないという認識が生まれた。

そして悲しいことに、似ていなくても可愛く描けば

皆は変わらず喜んでくれた。


この事がキッカケではないが

似顔絵描いて〜といわれたら

その時人気のイラストや漫画調で描いていた。

悲しき没個性…。

でも接待似顔絵のおかげで、本当に好きな美術を探し、出会えたので

結果オーライである。


皆さんの“接待似顔絵”話や初めて“しわ”を覚えた日など

ぜひ教えてくださいね〜

おわり



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