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2016年上半期ベスト10台

試乗記から振り返る

2016年1月から6月末までに登場した新車に乗って書いた試乗記の中から、強く印象に残った10台について引用しつつ振り返ってみたい。



『 』内が引用したものです。

ボルボXC90

 2016年上半期は、ヨーロッパからの新型SUVの連続上陸で始まった。まずは、ボルボXC90。名前こそ旧型と変わらないが、新型XC90にはヨーロッパのモーターショーで発表されていた時から注目していた。

 なぜかというと、XC90はこれまでになかった新しい時代のドライバーとクルマのインターフェイスを実現しているからだった。

『運転席に座って、まず眼を見張らされるのがフル液晶ディスプレイのメーターパネルとダッシュボードセンター部分の大きな縦型タッチディスプレイだ。
 メーターパネルには動く針を持った物理的なメーターはもう存在していない。メーターのように見える表示が液晶上に表示されるだけだ。他ブランドのクルマでも同様のものが採用されているが、XC90のディスプレイは
4つのモードに切り替えられ、見やすく使いやすい。
 さらに見やすく使いやすく驚かされるのが、センターの9インチタッチディスプレイだ。ナビゲーション、空調、メディア、電話などをタッチの他、ステアリングホイール上のスイッチやボイスコントロールなどで操作することができる。スマートフォンやタブレット端末のように簡単でわかりやすい。また、手袋をしていてもタッチ操作が可能なように赤外線式タッチスクリーンが用いられていて、まさに「新しい時代のインターフェイス」を体現している。
 ほとんどの機能をこれで司ることになるので、ボタンやスイッチ類はディスプレイの下にわずかに残っているだけで、とてもスッキリしている。操作のたびにいちいち視線を動かすことが減るので安全運転と疲労軽減に大いに寄与するはずだ。アップルのCarPlayとヘッドアップディスプレイも備えている。
 XC90のこのインテリアと操作系統を体感すると、従来のボタンやスイッチがたくさん並べられた車内が一気に古臭く思えてくる。
 近年、クルマには安全や快適性、外部ネットワークとの連携などのために操作しなければならないスイッチやボタンが増えてきている。しかし、車内の表面積は増やすことができない。集約と統合の必要性が高まってきていることは明らかなのに、いたずらにスイッチとボタンを増やすことでしか対処していないクルマがほとんどだった。
 増えてしまったスイッチとボタン一個当たりの接触面積はどんどん小さくなってくるしかないので、自ずと煩わしく、使いにくくなってしまう。そこで、BMWのiDriveが先行し、メルセデスベンツのCOMMANDとアウディのMCCも操作機能の集約と統合に務めてきていたが、時代の要求がさらに強まっていった。それに対する完璧に近い解決策を見事に示したのはXC90が初めてではないだろうか』

 XC90は、走っても驚かされる。排気量がたった2.0リッターの4気筒ターボエンジンとは思えない力強い加速を行い、乗り心地やハンドリングなども上質なものだ。    

 ボルボが他メーカーをリードしている安全への取り組みについても抜かりはない。対向車へのオートブレーキとオフロードプロテクションという世界初のデバイスが新たに備えられた。
 XC90は大いに魅力的で、その理由を次のように分析している。

『世界中の自動車メーカーの開発陣は新しいクルマを発表すると、「全面的に改めた」「刷新した」「完全に新しくした」と必ず口にする。そこに偽りはないだろうが、肝腎なのはその新しさが製品の魅力として結実しているかどうかである。新しいけれどもユーザーにとってメリットがなければ、それは自己満足でしかない。
 XC90は先代よりも大きく変わったが、変化のほとんどすべてが商品としての魅力として実を結んでいる。そこが他のクルマと決定的に違っている。XC90を運転していると、「新しい時代の新しい考え方による新しいクルマ」を操っている喜びで気分が昂まってくるのを感じる』

 そして、それを可能とさせたのはボルボが経営環境の変化を克服したからに他ならない。

『フォードグループから独立し、すべてをゼロから開発することができた、あるいはしなければならなかった。ピンチを逆手に取ってチャンスに変えた結果だ。当然、リスクは大きかったはずだが、それを怖れずチャレンジして勝利を収めた。大袈裟に聞こえるかもしれないが、果敢にチャレンジした開発陣と経営陣に拍手を送りたい』

 引用したように、XC90が新しさに満ちているのは、クルマだけを見て開発を進めているからではないからだ。クルマを取り巻く状況が大きく変化し、それに伴ってクルマとドライバーの間のインターフェイスも変わってきたことに、ボルボの開発者たちは敏感に反応して新型XC90を造り上げた。だから、フレッシュな魅力に満ちているのである。

アウディQ7

 続いてのSUVは、アウディQ7。こちらも2代目だ。スタイリッシュだった旧型よりも、ややコンパクトに収められ、造形も実際的なものに変わった。アウディのデザインは進取の気質に富んでいたはずなのに、A4といいR8といい、最近はキープコンセプトが目立つ。その点に物足りなさも感じてくる。

 しかし、中身は確実に新しくなって充実している。

『2.0リッター4気筒ガソリンエンジンが秀逸だ。力不足はまったく感じさせられず、十分以上の加速を行う。組み合わされる8速ATも賢いので、最適なギアを細かく選んでいく。
 小さなエンジンでも事足りるようになったのには、軽量化も寄与している。アルミなどを多用し、先代から約100キロ軽量化して、約2トンに収まった。
 フットワークも小気味良い。大型SUVは大きなタイヤが床下でドタドタと上下動しがちだけれども、Q7ではそれが小さく収められている。乗り心地もとても快適。
 先代よりもボディサイズの全長が35ミリ短くなり、全幅が15ミリ狭められたのにもかかわらず、後席は広々としている。荷室の空間も申し分ない。
 また、新型Q7には「ドライブセレクト」という走行モード切り替えが付いているが、これがよく働いている。暴走防止のための凹凸が付けられた山の中のアスファルト路面を走っても、乗員が不快に感じることなくボディの上下動を巧みに抑え付けていた。オートモードやコンフォートモードも有効だ』

 XC90ほどにラディカルではないが、Q7も自らの「MCC」によってドライバーとのインターフェイスに積極的に解を見出そうとしている。

『北関東への取材行でCarPlayや電話帳リストの手書き入力や音声入力での呼び出しを多用したが、これがとても使いやすく進化していた。以前のものよりもロジックが単純明快になった上に、正確性も格段に増した。とても便利で安全にも寄与するものだから、使わない手はない』

 そして、Q7を次のように結論付けている。

『今回の取材行では、大人4名とその荷物に撮影機材が加わる大所帯で、車内で会話する必要性も大きかった。つまり、このクルマを買ったユーザーの使い途に近い形での試乗だった。僕ら自動車メディア関係者が日常的に行っている、いわゆる”試乗”というのは、ほとんどは1、2名乗車で短時間の文字通り”試すために乗っている”わけだけれども、今回は昔のアウディの取材が目的だから、Q7を運転することが目的ではない。
 それでもと言うか、それだからが故にか、実際の使い途に近い乗り方をしてQ7の真価を体感することができたのは喜ばしかった。だとしたら、普段の“試乗”とはいったい何なのか?と自問自答してしまう。新型Q7はとても良くバランスが取れ、最新デバイスが余すところなく装備された高級SUVに仕上がっていた』

ジャガー・F-PACE

 XC90とQ7に続いて、ジャガー初のSUV「F-PACE」には東欧はモンテネグロで乗った。オンロードもオフロードも、たっぷり2日間運転することができた。

 コンセプトカーの段階から、F-PACEには半信半疑だった。クルマの仕上がりではなく、企画そのものについて理解できなかったのだ。今やジャガーと同じ会社の中に、SUV専門のランドローバーがあるのだから、わざわざジャガーがSUVを造る意味と意義はどこにあるのか?
 SUVを名乗れば今の時代はそこそこ売れるからと大メーカーと同じようなことをジャガーが行う理由は那辺にあるのか?

 モンテネグロで2日間乗って、疑問は氷解した。

『F-PACEに乗るまでは、ジャガーがクロスオーバーを造る必然性が良く理解できなかった。レンジローバーやレンジローバー・スポーツがあればそれで十分ではないかと考えていたからだ。しかし、モンテネグロでF-PACEに乗ってみると、そんな疑問は消し飛んだ。ランドローバーにはランドローバーのSUVがあり、ジャガーにはジャガーの造るクロスオーバーがあって、両者はお互いを侵食し合うものではないのだ、と。
 F-PACEはXFと変わらないオンロードでのスポーティかつ上質な走りっぷりを希求しながら、充分以上の荷室スペースとオフロード性能を併せ持っている。反対側から考えてみれば、レンジローバースポーツはオンロードの走りも申し分ないが、明らかにオフロードに重点が置かれている。ジャガーとレンジローバーというブランドのテイストの違いは置くとして、オンロードとオフロードのどちらに軸足を置いているかが両者の違いだ。重なり合う部分は大きく、異なる部分は小さいが、その違いは小さくても深いのである。
 F-PACEは快進撃を続けるジャガーが送り出す初のクロスオーバーとして、その狙いをほぼ達成し切っていると断言できるだろう。ビークルエンジニアリング・マネージャーのデイブ・ショウ氏も口にしていたライバルのポルシェ・マカンへのアドバンテージは快適性と優秀なディーゼルエンジンにある。
 F-PACEの登場によって、プレミアムSUVの世界は群雄割拠の時代に入った』

 走りについて印象的だったのは、XEやXFなどの現行のジャガーのサルーンの特長をうまく引き継いでいることだった。

『乗り心地が快適なのにも驚かされた。タッチが柔らかく、良く踏ん張る。ペースを上げていっても姿勢変化が少ない。

 最低地上高が高くされ、車高も低くはないのに、左右へのボディのロールや前後へのピッチングもよく制御されている。ハンドルを切っても機敏に向きを変えるし、それでいて過敏なところや荒っぽいところがない。
 サルーンのXEやXFから自然と発展してきた感じがクルマ全体から伝わって来る。ドイツ車だと乗り心地にしてもハンドリングにしてもエッジが明確でもっと硬質だけれども、ジャガーはエッジが丸められていて、柔らかさが先に来る。
 シャシーにアルミを75%用いているのはセダンの「XF」や「XE」と同じ手法だ。アルミは、軽く強靭に作り上げることができる』
 新しいディーゼルエンジンと8速ATのコンビネーション、走行モード、オフロードでの走りっぷりについても一気に書いている。

『ジャガー・ランドローバー社が自社で開発し製造している新しいコンセプトのエンジン「インジニウム」シリーズ第1弾となる2.0リッター4気筒ディーゼルエンジンを、F-PACEも搭載している。このエンジンを搭載したF-PACEにも試乗することができた。
 2.0リッター4気筒のディーゼルエンジンというと他のヨーロッパメーカーも製造しているが、このインジニウムは最大トルクが430Nmもある。他は400Nm未満が多い。
 インジニウムのディーゼルは期待以上の加速を示した。やはり430Nmの最大トルクは強力で、少しのアクセルペダルの踏み込みだけで力強く加速していく。
 このディーゼルエンジンだと100キロでの巡行は1850回転ぐらいにしか過ぎない。1850回転しか回っていないから静かなものだ。ディーゼルというと、ひと昔前までは騒音と振動が付きものだったが、現代のクリーンディーゼルではそれらとは無縁だ。

 F-PACEにはいくつかの走行モードが備わっているが、オフロード用のものはない。その代わりに、オンロードをスポーティに走るためのダイナミックモードが備わっている。エンジンのレスポンスが鋭くなり、トランスミッションの変速パターンが変わるというお馴染みのもので、これもXFと共通している。XF同様に、モードを切り替えるためのボタンの並んでいる位置が良くない。ESPオフスイッチなどと並列に並んでいるから、視線を大きく動かして�見なければならないのは大いに不便であり、危険でもある。
 F-PACEの高速巡行が優れているのはインジニウムエンジンだけが理由ではない。組み合わされている8速ATの優秀性も無視できないだろう。走行状況に応じて、賢くキメ細かく変速をしていく。もちろん、変速は素早く、ショックも皆無だ。このコンビネーションが高速巡行を快適なものにしていることは間違いない。この点も、XFと変わるところがない。
 オフロードでの走りっぷりも申し分なかった。ドライバーはアクセルペダルもブレーキペダルも踏むことなく、一定速度を保ったままクルマが急傾斜路を進んでいくことができるシステム「オールサーフェスプログレスコントロール」のおかげで、スキー場だったら上級者コースに分類されるような山の斜面や人工的に設けられた急坂を不安なく上がり下がりすることができた。
 タイヤの深さほどの大きな水溜りも難なく走り切ることができたのも、最低地上高を十分に確保してあるからだ。オフロードでの走破性は第一に最低地上高、駆動力はその次に掛かってくる。三番目に重要なのはアプローチアングルとデパーチャーアングルで、これはボディの前後の形状による。F-PACEはこの点も吟味が行き届いていて、2日間の行程でボディのどこかが地面にヒットするようなことがなかった。
「開発チームの30名ほどのエンジニアはランドローバーのエンジニアたちと連絡を密にしている。F-PACEの開発では、とくにオフロードでのパフォーマンスを向上させるために情報を共有している」(前出のショウ氏)』

 F-PACEもまた、XC90やQ7などと同じように最新の装備とスペックをまとっている。ダウンサイジングされたガソリンとクリーンディーゼルエンジン、シャシーとサスペンションの最適化、電子制御による走行モードの設定、ドライバーとの新しいインターフェイスを追求した操作系統、インターネットへの常時接続およびスマートフォンとの連携など。
 SUVだからといってゴツゴツした岩や泥濘を延々と走ることだけを想定しているわけではないし、それはユーザーも求めていない。そういうところを走ることは可能だが、同じようにオンロードでの走りや使い勝手、快適性など、要求されるものはサルーンやスポーツカーなどと変わらない。その意味で、SUVはもはや特殊なクルマではなくなった。だから、世界中で売り上げを伸ばしているのだ。新たに参入を表明しているメーカーがある通り、この状況は当分続くのだろう。3台は、端的に時代を反映している。

ポルシェ718ボクスター

 スポーツカーの世界でもエンジンのダウンサイジングは進行中で、ポルシェにも及んできている。それは、911カレラよりも718ボクスターの方が影響を強く受けている。

『最も大きな改変はエンジン。排気量を縮小し、ダウンサイジングではなく”ライトサイジング”と呼ばれる4気筒ターボエンジンに変換された。
 ひと足先に同様の改変が行われた911カレラはターボエンジンと言えども6気筒であり続けたのに対して、718ボクスターは4気筒である点が大きく異なる。
 2気筒減らされてもパフォーマンスは向上していて、最高出力は300ps、最大トルクは310Nm。S用の2.5リッターは350psと420Nm。加速と最高速度、燃費などもすべて向上している。
 その成果を確かめるべく、ポルトガルのエストリル周辺で718ボクスターに乗ってみた。まずは、2.0リッターエンジンを搭載する718ボクスター。トランスミッションはPDK。
 第一印象は、とても良い。電子制御ダンパーのPASMのノーマルを選んでもスポーツを選んでも、走行中の動きをよく抑制してボディをフラットに保とうとしている。乗り心地も必要以上に引き締まっておらず、むしろ快適と言って良いほどだ。
 ステアリングも切れ味鋭く、身のこなしは小気味良い。市街地などでは安定していて雑味がなく快適なのにもかかわらず、山道に一歩踏み入れると水を得た魚のように活き活きとしてくる。
 注目のエンジンだが、1950回転から発生することになっている310Nmの最大トルクは体感上もっと低い回転域から発生しているように感じる。
 これまでの2.7リッター6気筒でもトルクは十分以上に発生していたが、それよりもさらに太く感じ、即座に強力な加速に貢献していることがわかった。
 また、最大トルクばかりが強化され、高回転域での回転の伸びが鈍くなっているようなこともない。PDKをスポーツモードやスポーツプラスモードに設定しておけば、7000回転以上までやすやすと回っていく。
 心配していたアクセルペダルの踏み込みに対するレスポンスの衰えもない。
 良好な仕上がりだったが、ひとつだけ気になったのが排気音だ。走行している最中は問題ないのだが、渋滞中の歩くようなスピードで進んでいる時にボコボコあるいはポコポコという排気音が気になってくる。スポーツエキゾーストをオンにしてもオフにしても変わらない。
 次に、同じ2.0リッターに6速MTを組み合わせたものを運転してみた。トルクが太いから、速度とギアを問わずに力強く加速していく範囲が広い。どの回転域にあっても簡単に加速していくから乗りやすくなった反面、速度とギアと回転数を探りながら変速していくような楽しみは薄まっただろう。

 次に乗ったのが、2.5リッターエンジンをPDKと組み合わせた718ボクスターS。最高出力、最大トルクともに上回る高性能版である。

 Sが最も大きく異なるのは、ターボチャージャーのブレードに可変ジオメトリーを採用している点だ。
「Sの可変ジオメトリーはエンジンレスポンスを向上させているためのものです」(エンジン開発マネージャーのマルクス・バウマン氏)
 バウマン氏の言う通り、Sは可変ジオメトリーターボの効能があり、レスポンスに優れていると感じることがある。
 アクセルペダルを踏み込んで加速していく最中に、いったんペダルを踏み込むのを止め、再度踏み込んでいくような時の加速の勢いのレスポンスが違う。
 排気音とスポーツエキゾーストの関連性が気になったので、次に2.0リッターのPDKでスポーツエキゾーストが装着されていない718ボクスターの幌を開けて確かめてみた。
 停まるような速度でアスクセルペダルを開閉してみたら、ボロボロ、ポロポロいう排気音は気にならないレベルのものであることがわかった。アクセルペダルを深く踏み込んだ時の迫力あるサウンドを特に求めないのならば、スポーツエキゾーストを装着する理由はなくなってくる。
 718ボクスターは、エンジンの変更によってドライビングから受ける印象が大きく変わった。これをどう受け止めるべきなのか?
 日本から同じメディア試乗会に参加したボクスターオーナーのひとりは「自然吸気6気筒のフィーリングこそポルシェ。911のターボ化は同じ6気筒だから許容できたが、4気筒となると難しい」と語っていた。
 確かに、現象としてはその通りだった。しかし、911やボクスターの歴史を振り返ってみれば、今回と同じようなドラスティックな改変が何度も繰り返されてきた。古くは空冷エンジンからの水冷化やAT、4輪駆動の導入。最近では、ガソリン直噴化などが当てはまるだろう。
 いずれも排ガスやCO2規制をクリアするためや効率化の推進とパフォーマンスの両立を実現するためのものだ。つまり、社会の要請に対してスポーツカーメーカーとしてポルシェが応えた解答が時代ごとの911や718ボクスターの姿なのである。
 それらの技術的な大きな変化によって印象は大きく変わっていたことを思い出すべきだろう。マニアは、吹き上がりが鋭く、恐ろしくセンシティブだった空冷時代の6気筒を懐かしがるものだが、それは無邪気なノスタルジーにしか過ぎない。
 ポルシェは、ミュージアムの壁面に「concistency(一貫性)」という標語を掲げるように、それこそ一貫してスポーツカーを運転する喜びを追い求めてきている。718ボクスターの4気筒ターボ化はそれを実現するための手段であって、目的ではないのだ。
「718ボクスターのエンジンを4気筒としたのは、ポルシェのミッドシップスポーツカーを(時代に合わせて)再定義したことを意味します」
(前出のバウマン氏)
 たとえ、自然吸気6気筒から得られていたエンジンの感覚とは異なっていたとしても、それは時代の要請に応えた結果なのである。それよりも、熟成されたシャシーやサスペンション、PDKの電子制御の精緻さなどから構成されるクルマ全体の総合的な完成度の高さを評価したい。
 15年10万5000km走った初代ボクスターに乗り続けている者としては、718ボクスターは輝いて見える。運転する喜びの追求の軸は少しもブレてはいない。時代によって用いられているソリューションが異なっているだけなのだ。ポルシェはいつの時代でも一貫性が高く保たれているから、それ故に僕らはしばしばこのような変化に惑わされてしまうのである』

メルセデス・ベンツ C450 AMG 4MATIC

 500馬力を超えるような高性能を持つメルセデスベンツのAMG各車には圧倒されるばかりだけれども、過激なまでの高性能には付いていけなくなる時もある。

 新たに登場したC450 AMG 4MATICはC63 AMGほどではないが、3.0リッターV6ガソリン直噴ツインターボは367馬力の最高出力と53.0kgmもの最大トルクを優れた環境性能と両立している。4輪駆動システム、サスペンションやステアリング、ブレーキなども専用開発。この塩梅が、ちょうど良い。

『走行モード「AMGダイナミックセレクト」では、Eco、Comfort、Sport、Sport+の4種類の走行モードが設定できるほか、Individualでは各種パラメーターを個別に設定できる。あらゆる機能を好みに設定することによって状況ごとにスポーツ性と快適性と環境性能の三者をバランスさせることができる。多機能と多様に設定できるスポーツセダン』

 AMGのトップモデルよりも、このクルマの方がメルセデスベンツが本来持っている知性主義や穏健性、優れたバランスなどを体感しやすかった。

ルノー・キャプチュア

 ここまで挙げてきた高級車や高級スポーツカーなどとは大きく趣きが異なるけれども、ルノー・キャプチュアの素晴らしさには驚かされた。

『都内の舗装路ばかりではなく、郊外の林道も走ってみた。前の日に雨が降ったので、路面には湿り気が残っていて、ワダチも5~10センチぐらいの深さに掘れていた。
 キャプチャーは、最低地上高を上げているために舗装路を走っている時にはボディの前後左右への細かな揺れが少し残る。舗装のつなぎ目を通過する時のショックも必ずしも一発で収まるというわけではない。
 しかし、林道のような土の上を走る時にはこれがとても具合がいい。踏み固められた土の上や自然にできた凹凸などを乗り越えながら走るのに、柔らかめのサスペンションとシンクロして揺れや振動などを柔軟に吸収しながら走っていく。
 不快な振動は一切姿を消し、土の柔らかさを天然のクッションに変えるような心地良さも感じられてくる。林道を一周して入り口に戻ってきても、もう一周走りたくなった。それだけ気持ちが良い。
 高い着座姿勢も、ドライバーからの見切りを良くしていて、左右に生えている木々や土の中から頭を覗かせている岩などを避けながら走るのにとても都合がいい。ハンドルも良く切れて、ボディの四隅が把握しやすいから狭い場所でのUターンや方向転換にも役立っていた。
 また、最低地上高が十分に確保されているからオフロードを走る際の、段差やワダチ、あるいは地面の草なども避けながら走ることができた。雪道などでも強い味方となることだろう。
 雪道でスタックしてしまうのはタイヤのグリップよりも先に、ボディの底を雪面が擦ることによる”亀の子”現象によることの方が大きい。
 これだけ最低地上高が確保されているから、ヘビーデューティな4輪駆動のSUVではないけれども、かなりのところまでもキャプチャーで走ることができるはずだ。意外と言ってしまっては失礼だが、林道での走りっぷりの良さにちょっと驚かされてしまった。
 舗装路では普通に走るけれども、土や雪の上ではひどく揺すられ、走りにくい、カッコだけのクロスオーバー車に時々出会ってしまうことがあるけれども、キャプチャーはオンとオフを自在に行き来する本来の意味での”クロスオーバー”に仕上がっている。実質と実利を備えた、稀なクルマだった』

 キャプチュアによほど感激したのだろう、もう一本コラムを追加して次のように書いている。

『キャプチャーを食事に喩えると、”ご飯が美味い”クルマである。あるいは、”パンが美味い”クルマと言ってもいい。

 どういうことかと言えば、オカズなどの副食の美味さで勝負する食事ではなく、ご飯やパンなどの主食の美味しさで際立っている食事ということだ。
 ご飯やパンが美味しければ、オカズは何でも構わない。トンカツでも焼き魚でも、納豆や焼き海苔だって美味しくご飯を食べられる。美味しいパンだったら、バターやジャムやオリーブオイルを塗るのはもちろんのこと、そのまま食べたって美味しい。
 ご飯やパンというのは毎日3回食べるもので、あまりにも身近過ぎて特別なものではない。だから、その味にこだわらない人もいるけれども、「美味しい、美味しくない」は歴然としている。
 クルマも一緒で、「最新式のハイブリッド」とか「リッター50kmの燃費達成」、「0-100km/h加速3.2秒」とか「世界限定365台」というのはオカズのこと。体感できるのは限定的で、いつもそうしたメカニズムやハイスペックの恩恵に与れるわけでもない。
「大間のマグロ」とか「神戸牛」、「出たての松茸」などと一緒。味ではなく、”情報”を食べているようなものだ。
 ご飯やパンが美味しいというのは、基本がしっかりしていて、心地良く、飽きないこと。「クルマのシートの掛け心地が快適」とか、「停止から50km/hぐらいまでの加速が気持ちいい」とか、「高速道路の合流がスムーズ」とか、「オフロードでよく走る」とか日常的な性能や使い勝手が優れていることだ。
 実際、キャプチャーは今回のマイナーチェンジに際してエンジンの最高出力は120psから118psに落としながらも、実走行で大きな意味を持つ最大トルクは190Nmから205Nmに増強している。
 そして、それに合わせてトランスミッションのギア比を変更することによって、40km/h~60km/hや60~80km/h、80~100km/hなどの中間加速タイムを向上させている。すべて、日常的な乗り方をした場合の追い越しや合流、高速道路への進入など実用的なシーンで効いてくる。
 マイナーチェンジで最高出力を下げたクルマというのは、ほとんど聞いたことがない。カタログ上の最高出力というのは昔からのクルマ好きにとっては金科玉条だから、「ステーキ」を「ハンバーグ」に格下げするようなものだからだ。でも、「美味しくないステーキ」だったら、「美味しいハンバーグ」の方が断然いいに決まっている。
 まだまだクルマは夢の対象とされているから、どうしてもオカズに注目が集まってしまう。悪いことではない。でも、日本のクルマ社会もずい分と歴史を重ねてきているわけだから、オカズではなくご飯やパンが美味しいことを優先できたらいいと思う。それが豊かということであり、成熟というものなのだと僕は考える。
 キャプチャーに限らず、ルーテシアやメガーヌなど他のルノーも、どちらかと言えばオカズではなくご飯やパンが美味いクルマだ。プジョー各車もそう。シトロエンは独特のデザインやサスペンションなどでオカズを追求しているように見えるけれど、あれはカマド炊きみたいなもで基本はやっぱりご飯とパンの美味しさを優先している。フランスのクルマ全般的な特徴なのかもしれない。
 フランスの人たちはバゲットは買い置きをせずに、毎朝、焼きたてをパン屋に買いに行くというではないですか。焼きたてに勝るものはありませんからね』
 1000万円を超えるような高級車や高級スポーツカーが良いのは半ば当たり前である。しかし、キャプチュアには豊かな日常性能がある。クルマの楽しさは実に多様だ。キャプチュアは、それを体現していた。

ランボルギーニ・ウラカン

 昨年一年間で、ランボルギーニは日本で304台も売れたのだそうだ。その前の2014年が170台、2013年が118台だったというから、売り上げ急上昇。ビックリである。

 鈴鹿サーキットで、新型のウラカンLP580-2に乗った。鈴鹿は様々なタイプのコーナーが連続して難しいのと、富士スピードウェイや袖ケ浦レースウェイなど新しいサーキットなどよりもエスケープゾーンが狭いので緊張する。

『すでに販売されている同LP580-4よりも2輪駆動化されて軽量な分コントローラブルだ。ハンドリングもニュートラルで素直なもの。
 それにしても速い。サーキットで走らせると速いということが、とてもよくわかる。2本のストレートエンドでは軽く250km/hに達してしまう。また、サーキットでは軽さはブレーキングにも効いてくる。
 最も驚かされたのは、前身に相当するガヤルドよりも格段に静かになり、乗り心地も快適になったことだ。ガヤルドは野獣の雄叫びのようなエンジンサウンドだったが、ウラカンLP580-2ではだいぶ抑えられている』

 サーキット、それも鈴鹿のように難易度の高いところでは、クルマのことを考えるよりもコースをどう走るかという方に神経が取られてしまう。ウラカンLP580-2のことをもっと知るためには一般道を走る必要があるけれども、ランボルギーニが売り上げを伸ばしている理由の一端はわかった。それは、鈴鹿で初めて開催されたランボルギーニのワンメイクレース「ランボルギーニ・ブランパン・スーパートロフェオ」の運営にあると思えた。

『他のメーカーでも、各種のドライビングレッスンは行われている。しかし、ランボルギーニの場合はスクアドラコルセというモータースポーツ部門が統括しているところに大きな意味があると思う。
「速く、安全にドライビングを楽しめる環境を提供することが我々の役目です。参加しやすいプログラムを構築することが大切だと考えています」(アウトモビリ・ランボルギーニS.p.A.モータースポーツ部門責任者、ジョルジオ・サンナ氏)
 苛酷なレースに出場すると言っても、全員がプロを目指すわけではない。スポーツとして楽しみたい人に門戸を開き、手厚くサポートしている』
 瑣末な実例だけれども、参加者が食べるランチのためにイタリアから専任シェフを連れ、ピザ釜まで持ってきていた。超高級車を売るためには、そのために仕立てたイベントでのもてなしも超一流でなければならないことをランボルギーニは体現していた。

ホンダ・クラリティ

 ホンダ・クラリティも印象的に残った1台だった。

『ホンダの新しい燃料電池車「クラリティ フューエルセル」(以下、「クラリティ」)に乗った。
 燃料電池車(FCV)は水素から取り出した電気で走るクルマで、排ガスはもちろん、水しか排出しないゼロエミッションのクルマとして近年、大いに注目されている。昨年、トヨタが燃料電池車「ミライ」を発売したが、ホンダはそれより前の2008年から「FCX クラリティ」という燃料電池車をすでに日米でリース販売していた。今度の「クラリティ」は、ホンダからの燃料電池車の第2弾である』

 エンジンが存在しないから静かなのは当然なのだけれども、モーターからのノイズやボディの風切音などもとても小さい。

『加速や減速などはスムーズそのものだ。BMW i3や日産リーフなどのEV(電気自動車)と較べても遜色ない。原理としてはEVもFCV(燃料電池車)も、電気でモーターを回し、クルマを加速させることに変わりはない。EVもFCVも、モーターによるスムーズな加速は、エンジンによる加速よりも次元が異なるほどで、オーナーは病み付きになるだろう。
 クラリティには、走行モード切り替えスイッチが付いていて、スポーツモードだと加速が鋭くなり、エンジンブレーキが強く効くようになる。メリハリが効いているので、混んだ高速道路や山道などで重宝する。
 タイヤノイズの車内への侵入を除けば、走りっぷりで大きな不満はない。よくできている』

 物足りないのは、内外のデザインだ。

『最近のホンダ車のデザインは、エクステリアが没個性的でも、インテリアで気を吐いている。ミニバンの「ステップワゴン」は他メーカーのミニバンと見分けが付かないけれども、インテリアは昔のホンダっぽく、モダンで個性的だ。ホンダはこうでなくっちゃというくらい、他のクルマと違う方を向いていて、あのインテリアデザインは頼もしい。
 クラリティもモダン志向なのだけれども、もっとトンガッて欲しい。これでも足りない。燃料電池車は存在そのものがアバンギャルドなのだから、インテリアもエクステリアもそれを体現して欲しい。
 具体的にインテリアデザインで物足りないのは、まずメーター。まだ、デザイナーの意識のどこかにエンジン時代の丸いメーターの残滓があるようだ。

 次にシフトボタン。外側のケースはこんなに大きな必要はないし、もっと集約できるはずだ。
 カーナビのパネルがタッチやボイスで操作できるのはとても好ましい。併せて、ウインカーレバーを左右どちらかに倒すと同時に、画面がボディサイドを映すように自動的に切り替わるのは便利だし、安全に寄与している。アメリカ仕様のホンダ車に多く採用されているというのだけれども、良いものは早く日本国内仕様にも採用するべきだろう。
「ホンダは1980年代後半から燃料電池車の研究と開発を行ってきました。携帯電話に喩えると、1998年に完成したオデッセイベースの実験車「VO」が大きな箱を肩から掛けていたものだとすれば、このクラリティはガラケーぐらいまでに進化させることができたと自負しています」
(本田技術研究所主任研究員・藤本二朗氏)
 ホンダ開発陣の狙い通りにクラリティは仕上がっていると僕も思う。しかし、まだこのクラリティが個人では購入できないということに不満が残る。地方自治体や企業などへのリースに限られている。個人に販売されているトヨタ・ミライとは対照的だ。
 また、ホンダが開発した水素充填器「SHS」も、コンプレッサーを使わずに水素を充填できる画期的なものだが、これも同じように個人が購入して家庭に設置することができない。燃料となる水素を充填できるのは、まだ限られた場所でしかできず、電気自動車の充電器のように急速に普及する見通しもまだ未知数である点も、クルマに罪はないのだが購入の二の足を踏ませている。
 水素の取り扱いを巡っては様々な規制や法律が古い時代のまま残されてしまっている。水素は扱い方を間違えると爆発してしまう危険物だけれども、時代にフィットしたものが望まれる。燃料電池車を購入して日常的に乗りこなすのは、まだまだ電気自動車よりもハードルが高い。クラリティは「ガラケーぐらい」なのかもしれないけれども、取り巻く状況がまだ「黒い固定電話」並みなのが現実だ。状況の前進を望むばかりだ』

ボルボ S60 T3

 S60というセダンは新しいクルマではないが、「T3」という新しいエンジンが搭載された。「T3」は4気筒という気筒数は変わらないまま、これまでの「T4」よりも1.5リッターと排気量が小さい。ターボチャージャーで過給し、最高出力は152馬力、最大トルクが250Nm。2.0リッターの「T4」が190馬力と300Nm。ちなみに、昨年に導入されたクリーンディーゼルの「D4」エンジンは、190馬力と400Nm。

『ボルボの新パワートレイン戦略「DRIVE-E」(ドライブ・イー)が進展している。
「T4」から始まり、「T5」、ディーゼルの「D4」、ターボとスーパーチャージャーを1基ずつ装備した「T6」、T6をプラグインハイブリッド化した「T8」、T4の4気筒をショートストローク化して1.5リッターとした「T3」と、戦略に基づいたエンジンとトランスミッションが次々と各車に搭載されていっている。
 エンジンは自社開発・製造の4気筒に限られ、それにターボチャージャーやスーパーチャージャーで過給することもあれば、モーターとバッテリーを組み合わせてPHEV(プラグインハイブリッド)化することもある。
 その4気筒はガソリンとディーゼルの両方が用意されている。そして、生産の効率化のために、ガソリンとディーゼルそれぞれの基本構造を極力共用化するように努め、実際に25%は共通部品を用い、50%は類似部品が用いられている。
 異なるのは、たったの25%だ。この数字は驚異的だ。ガソリンエンジンとディーゼルエンジンは作動原理が大きく異なるために使用される部品で共通するものは、これまではとても少なかったのだ。一般的にもガソリン直噴化などの技術進化もあって両者は近付きつつあるけれども、それを強く推し進めたのが「DRIVE-E」だ。
 ボルボに限らず、自動車メーカーは4気筒、5気筒、6気筒、8気筒、はては12気筒と気筒数を増やし、さまざまな形式のエンジンを生み出してきた。
 ボルボだって、ちょっと前までは直列6気筒やV型6気筒、V型8気筒を採用していた。しかし、「DRIVE-E」戦略では潔くそれらをかなぐり捨てて、これからは4気筒だけで行くと宣言した。
 4気筒で足りない場合には、これまでのように6気筒や8気筒と増やしていくのではなく、気筒数は4気筒に限り、過給と電動化で賄うことに決めた。その決断に大きな意味があったと思う。
 ボルボは数年前にフォードグループから離脱した。そのことが「DRIVE-E」戦略を生み出したと言えるだろう。
 フォードのような巨大な世界企業傘下にあると、良いこともあれば不自由なこともある。
フォードの持つ技術や装備を使うことができれば開発コストを節約できる。当時のフォードはボルボとともに、傘下にマツダやジャガー、ランドローバーなどを抱えていたために、お互いのリソースを融通し合うことが可能だった。
 しかし、そのことは”束縛”にもなる。独特なクルマを構想しても、グループ内のリソースを活用できなければゴーサインは出ない。
 フォードから離れれば恩恵を受けられなくなるが、反対にその枠に捉われることなく自由に企画できるようになる。当然、自由とはリスクと表裏一体だ。
 開発陣はエンジンと電動化技術の潮流を見定め、戦略を固めた。多くの台数を望むのではなく、プレミアム路線で進むことも決めた。過去のしがらみに縛られることがないので、DRIVE-E戦略の方向性は非常に明確に見える』

 運転した印象は、とても好ましいものだった。

『T3は現行ボルボのエンジンの中で最も小さく非力なのだが、実際に運転してみると非力さはまったく感じない。高速道路での追い越しを試みてみたが、まったく問題なかった。6速ATが賢く状況を判断し、的確にシフトダウンをしていることも大きい。シフトそのものも滑らかだし、自分で変速したい場合に用いるハンドル裏のパドルのタッチもストロークが短く、節度があって好ましい。

 低速域から高速域まで、ソフトで穏やかな乗り心地が心地良い。小入力から大入力まで、あるいは鋭いものから緩やかな突き上げまで、路面からのあらゆるショックを巧みに吸収していて快適だ。
 ハンドル操作も軽く滑らかで扱いやすい。突出した性能やキャラクターが見当たらない代わりに、とても穏やかでバランスが取れている。
 S60というクルマ自体はデビューしてから随分と経つが、クリーンな外観とスカンジナビアンモダンデザインが施されたインテリアも実用性に優れながら魅力的だ。ボルボならではの安全装備の充実やインターネットへの接続などでも他に先んじている。
 スポーツカーのように、エンジンや各部分のメカニズムの働きを楽しむ類のクルマではないので、言ってみれば「T3」エンジンは”縁の下”の存在である。しかし、その働かせ方がうまい。
 434万円という価格は安価ではないが、バランスに優れているのできっと長く乗り続けたくなるだろう。また、長く付き合ってこそ、その魅力と実力を享受できる。昔のボルボにもそういうクルマが多かったが、このS60 T3 SEもそんな一台だ』

DS3カブリオ

 シトロエンが新たに展開し始めたプレミアムブランド「DS」のコンパクトカー「DS3」に追加されたオープンカー。スポーツカーではないオープンカーというのも良いものだ。実用性を犠牲にすることなく、屋根を開けて走る楽しさを満喫できる。



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