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日銀危機は来るのか?(4)逆ザヤ危機は論理の飛躍

前回、日銀に生じるかもしれない危機として、「逆ザヤ」があると確認した。

利子収入よりも利子支払いが大きくなりることだが、日銀は1兆1,233億円の国債利息を得ている一方で、2,608億円の利払いを行っており、黒字を確保している。

今回はその「逆ザヤ」リスクについて、現実性を考える。

プロや大御所も懸念する日銀の逆ザヤ

日銀の逆ザヤは、新しい話題ではない。

たとえば、2017年にはすでに、野口悠紀雄氏が現代ビジネスで「異次元緩和の先に、日銀が「巨額債務超過」に陥る可能性」[1]として、逆ザヤの懸念を指摘している。

また、ピクテ投信投資顧問株式会社の市川眞一氏が論考の中で、利払い費が急増し、日銀の収支バランスが悪化する懸念を表明[2]しており、大御所の評論家も、プロも懸念している課題だといえる。

加えて、日銀の付利引上げについて、逆ザヤの懸念などを理由に「日銀は付利引上げができず、インフレに対してなす術がない」といった主張も見られる。

逆ザヤは出口戦略しだい、今は論理の飛躍

では、その逆ザヤは起きるのだろうか。それが問題だ。

ただ、逆ザヤの実現性はまず、現在から変わるかもしれない2つの数値の組み合わせだ。すなわち、国債からの利子率と、当座預金への付利率だ。

国債の利子率については、政府の借り換えなどによって変わっていく。政府の国債発行ペースや日銀自身の引き受け額しだい、さらに言えば日銀保有の国債の額面やクーポンも同様に変わるので、現時点で将来の確定的な条件を出すのは難しい。

ほかならぬ黒田日銀総裁自身も、出口戦略で必ずしも経常赤字になるとは限らないとの趣旨で発言してきている[3] 。

まとめると、逆ザヤが起きるかどうかは、日本政府と日銀の今後の行動しだい、出口戦略の策定と実行の方法しだいである。

そのため、一個人の立場からは確定的な結論を出せないが、現時点では日銀の逆ザヤ危機論は論理の飛躍といわざるを得ない。

われわれ、少なくとも主に為替トレーダーが直面する目先については、日銀危機説に煽られることなく、取引に臨みたいものだ。

Notes&References

[1] 野口悠紀雄, 異次元緩和の先に、日銀が「巨額債務超過」に陥る可能性, https://gendai.ismedia.jp/articles/-/52097?imp=0 (28th June, 2017)
[2] 市川 眞一, 日銀が抱え込むリスク, https://www.pictet.co.jp/investment-information/market/boost-up/20220222.html (22nd February, 2022)
[3] ロイター, 日銀収益、緩和の出口でマイナスになるとは限らず=黒田総裁, https://jp.reuters.com/article/boj-haruhiki-kuroda-idJPKBN2KL08T (16th February, 2022)

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