3-③ゲンくんの崩壊

ゲンくんの売上金の管理、社長への渡し方についても心許ないので、と
社長の指示で4月から、一週間の売り上げを月曜日の朝、あたしのいるオフィスに持ってきてあたしが金額と日々の売り上げ、総額の確認をして預かり、社長に渡すというシステムになった。

「時短/休業協力金」で赤字を免れているとはいえ、この状況が永遠に続くわけはなく、社長のお客さんが入らなければ1日2000円~5000円の売り上げでやっていけるわけがない。
思い切って店をたたんだ方がよいのか、社長が真剣に考え始めたころの逮捕。

売上はこれまで通り月曜日に預かっては、あたしが他の請求書類とともに津野田法律事務所に届け、諸所への支払いも請求書に応じて津野田弁護士の方で払い込みを行ってもらっていた。

ある週、弁護士がゲンくんも一緒に来て欲しいとのことだったので連れて行ったところ、社長からの伝言で「ブリリアントを閉めるか、ゲンが引き継いでほしい」とのこと。
ゲンくんは「引き継ぐ」の意味を理解していなかったようなので「売上は自分のものになる分、テナント料や光熱費、仕入れなどすべて自分でもたなければならないってこと」と補足説明すると慌てだした。
「できるだけはやく、決断をお願いします」と言われて法律事務所を後にした。

もとから売上の少ない店だったが、社長逮捕後はさらにそれがひどくなり、2000円という日がざらで、それに達しない、あるいは0という日もでてきた。
「今年度の売上記録を、ゲンに出すように言ってもらえますか」
という社長からの依頼が弁護士を通じてあった。
とりあえずはあたしが預かった際に控えておいた記録を弁護士に渡し、ゲンくんにも提出するよう連絡した。案の定、2,3日かかり、しかもエクセルファイルの中の日付がめちゃめちゃだったので指摘してやり直しをお願いした。おそらく、言われてはじめてあたしが一年前に渡していたフォーマットに慌てて手持ちの伝票から打ち込んでいったのだろう。

社長からは加えてあたしと照山さんへ「店をちゃんと開けているか、確認してほしい」というリクエストがあったので、依頼を受けたその日にオフィス出勤日だったあたしは店に行った。見事に、鍵がかかっている。ゲンくんの携帯に電話する。しばらくすると、寝ぼけたような慌て声の応答があった。
「はい」
「いま、社長に依頼されてお店に来てるんですけど、閉まってます。どこにいるんですか」
「あ、あの買い出しなどがあってまだお店に行けてない状態です」

なにが買い出しじゃ!食べ物は現在出してないし、酒類は酒屋さんに配達してもらっているというのに。そもそも、あらたに仕入れするほどの客入りもないだろ。

「…何時に開いているべきなんでしたっけ」
「これからだと、14時か15時…」
「設定では、何時に開店することになっていますか?」
「11時です」(その時期は、飲食店は20時に閉店しなければならなかったため、11時~20時の営業だった)

それまでは、あまりの出来なさすぎに呆れていたものの、自分の業務とは関係ないしと思い、ちょっと頼りなげな可愛らしい見かけの子だし、ゲンくんのことは「出木杉くんの反対で、出来なさすぎくんだなあ」くらいに考えていたのが社長リクエストが入り、あたしの管轄になった!という意識と売上あげる努力するどころかだらけているなんてけしからん、この怠け野郎め!ということで怖いあたしのスイッチが入ってしまった。以降、ゲンくんに対しては地獄の冷たさを駆使することになる。

次の月曜日、売上を渡しにきたゲンくんにはほぼ無視の状態で事務的にやることを済ませると、去り際に
「あ、あの。弁護士からきいてますか。お店、引き継がないことになりました」

「引き継、がない?」
「はい、引継ぎません」

へえ。こないだまでは、パパママに相談して引き継ぐことを考えてるようなことを言っていたが、あたしに攻められて弱気になったのか。ならば、こちらで引き継いでテナント片付けしていかないといけないな。

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