2-⑥照山さんの登場と部長くんの失脚(1)

社長は会社にいないことが多く、右腕と頼む部長くんに現場の采配をまかせていた。その部長くんは、ずいぶんとあたしを頼りにしてくれていた。

お昼はいつもあたしを連れ出し、車に乗せて食べに連れていってくれた。自分で払うというのに、いつもおごってくれていた。お昼を食べたあとは、どこか喫茶店によってはコーヒーを飲ませてくれた。ランチタイムを大幅に超えて。一度などは急に午後、「タイ焼きが食べたい」と言って「買いにいこう」とあたしを車にのせ、あちこちをメクラめっぽうに走り回った。そのうち、インター付近のラブホ街ちかくに差し掛かって誘われるのかと思ったが、なんとか無事会社に戻った。いま思えば、誘い方がわからなかったのかもしれない。またしばしば、「この会社を離れて、一緒に仕事をしませんか」と誘ってきた。商売の内容はあたしに考えて欲しいらしかったが…。

そんな風に、部長くんはあたしを頼りにし、優遇してくれていたし表面上あたしも部長君を立てていたけれども、内心では彼の頭の悪さ、いろんな采配のまずさにあきれていた。

それでも、なんとかやり過ごしていたけれども、照山さんの登場でなぜかすべてが変わってしまった。

それまでウェブにあげる情報や管理しているウェブサイトの変更の一部は地方のウェブデザイナーをテレワークで雇用していたのだけれど、これが使えなかった。
須賀さんがウェブ面接で採用した人だったのだけれど、やっぱり須賀さん、コンプレックスもあり、能力の劣るひとを採用するようにしていたのかなあ。彼女が採用したのは、あたしだったら絶対、採用ないというような人物ばっかり。

この方は話は通じず、出来上がりはとんちんかんなのに自己評価は高くて「私はクリエイティブです」。
なにをどう作ってほしいのか理解間違いのないように、わざわざ図示しても(むしろそれを準備する時間が惜しかった)出来上がってきたものはほんとにプロとして恥ずかしくないんかという出来で、正直あたしがやったほうがマシなんでは、というクオリティ。しかし雇用しているのだし、仕事はしてもらわないと、と社長になだめられながら仕事の指示をしていたけれど、ほんとに苦労した。自分でした方がはやいのに。指示するのに時間がもったいない。あたしが片手間に調べてみたらすぐわかることでも「わかりません」と平気で言ってきよる。とにかくとにかくお話にならないレベルだった。ついに社長と部長くんもサジを投げ、その人との契約を解除するに至り、あらたな人材を探すことになった。それで応募してきたのが照山さんだった。

40歳すぎで独身、実家住まいの照山さんは、個人的にはお友達になろうとは思わない部類だが、仕事としてみるとまずまず問題ない人物で、採用することになった。

しかし、これまでも男性を雇用するとなるとなぜかかなり抵抗していた部長くん、その前に別の事業で雇用した人物も別事業所へ追いやっていたけれど、やはり照山さんの存在が気に食わないようだった。「新しく来たひとだから」とあたしが気を使ってフレンドリーに(それは最初の数か月だけだったのだが)話しかけるのも、いま思えばイライラしていたのかもしれない。これまで以上に事務所に来るのが遅くなり、また来てもどこかにぷいと出ていくようになった。

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