海外送金苦労話

社長が逮捕されてから新たにあたしに課せられた任務のひとつが月イチの海外送金だった。

逮捕されてから人員整理しまくって、海外の社員はほぼ切ったけど、ひとりだけ某国のスタッフだけキープすることにしたんだと。
そのひとへの給与支払いのための送金ってわけ。

いまどきはオンラインでぴっぴっと便利にできるのがあるけれど
やはりお金を送るのはなにかと制約があったりして、
どういう理由でだったかは忘れたけれど、実店舗に身分証明書と現金持って行って送ってもらう手法。

銀行より手数料が安くて送ったら10分ほどで現地代理店で相手が現金受け取れるというやつ。

以前一回社長に頼まれて別の人あてに、会社関係の海外送金したことがある。

その一回はもうずいぶん前だったので詳細忘れたけどたしか、送金するための理由が大事だったと思う。ってんで、弁護士にそれ伝えて、送金理由を社長に確認してもらったら「商品を買ってもらった代金の支払い」だとか。

ネットで代理店をさがしてみると、コロナでけっこう撤退している。
以前社長に頼まれて行ったところは、縮小移転している。
ほかは閉まっているようなので、そこに行くことにする。

お金関係のことだから、緊張する。

ネット情報を頼りに探し当てると
宝くじ売り場のようなインフォメーションセンターのような、
人通りの多いところにほぼオープンスペースでカウンターがある。
窓口2つ。

お客さんは誰もいない、やった~!と勇んでいくと
担当のネイルも美々しいお姉さんが申し訳なさそうに
「住民票は、マイナンバーが記載されているものが必要です…」
と言う。

送金には、「本人確認」書類として
①運転免許証
②マイナンバーカード
③パスポート+住民票

①、②は持っとらんので、③にしたのだが…
さいわい、ちかくに区役所があるので飛んでいく。

マイナンバー記載された住民票とってきて、意気揚々とのりこんだら
この隙に先客が。窓口、2つともつまっておる。

しかも、そのうちのひとつのおっちゃんがみっともない。
60歳過ぎとおぼしきおっちゃんなんだけど、
担当嬢の質問に大きな声でいかにもわしは金を持っている大家です、
仕事?なんでもええよ!
管理人とか、…え、ないの?ほなら、清掃員でもいいよ!
送金先?フィリピンの彼女!
「お友達ですね」
わあわあわあ。

やっと最後の段階に来たかと思ったら
「あれ?銀行に送るんちゃうの?」
「あの、こちらは現地の代理店で現金を受け取る前提のもので、銀行であれば手続きが違ってくるので最初からになりますが、現地の代理店は、フィリピンにはあちこちにあるはずで、そちらのほうが便利だと思いますが」

相手に確認する必要があり、電話。
相手が出ない。
「じゃあ、銀行で…」
と言いかけたところに、相手からの折り返し。
しかし、電波がわるい。

おっちゃん、相手にむかってわあわあ話始める。

そういうことを何回か繰り返し、
椅子もないオープンスペースで待つこと10分ほどか。
無表情を装いながらおっちゃんを軽蔑していたあたしはイライラが隠せなくなってくる。

らちがあかんので、
「きょうは銀行送金でよろしいですか」
ということで一旦現金での手続きに変えたのをもっかい、銀行振り込みの手続きをしてようやく終わるところで彼女との電話がつながる。

彼女、もちろん現金代理店のほうがよかったが、きょうはとにかく銀行振り込みで次回から…ということでようやく終了。

さあてようやくあたしの番がきたさ。
と鼻息荒く窓口に進んだのだが、これから苦難の道がはじまった。

「いくら送金されますか」
「400ドル」
「日本円か、現地のお金かしか受付られません」
「400ドルくらいの日本円を送金してもらえませんか」
「今日のレートで送ると、●●円になりますが、これでよろしいですか?」

ん~、お金のことなのできちんと確認しといたほうがいい気がしてきた。
これ送って足りないから追加、となると面倒だしな…。

「出直します」

と言って、すごすご帰った。

その日さっそく弁護士に連絡、弁護士が社長にきいてくれて
現地のお金での送金料を教えてもらって翌日またのこのこ出かけた。

きょうはメンドクサイおっちゃん前にいないのでほっ。

「●●現地通貨送金したいのですが」
と意気揚々と告げて、本人確認書類をにこやかに提出。
受取人の名前や住所等、必要情報は担当嬢がシステムに打ち込む。

「受取人の方のこの名前、どちらが姓でどちらが名ですか」
「それが、本人に何度きいても『ダイジョブダイジョブ、これまでこれでOKだった』と言うんです」

以前別のひとに送った時も、どちらが姓でどちらが名か訊かれた記憶があるから、今回も本人に確認したのに「ダイジョブ」つって教えてくれないんだよなあ。
西欧の名前だったら見当つくんだけど、アジアのはわかんね。

この国のひとは、通称で名前呼んでて、本名では苗字がないこともあるときいたことある…。

「どちらですか!」

きれいに化粧してネイルばっちりで高い声のねーちゃんがイラついている。

しゃーないので、適当に指定した。

住所を打ち込む段になり
「州もしくは県はどの部分ですか」
「さあ…この国のことはわからなくて」

お姉さん、だんだん目が三角になってくる。

仕方がないので、これも目途をつけて「これで」と言う。

「ご関係は」
「友人です」
「実際に会ったことありますか」
「はい」

「送金理由は」
さてここぞとばかり満面の笑みで社長に言われたとおり
「商品を買ってもらった代金の支払いです」
するとお姉さん顔色かえて
「ここは友人家族に送金するシステムです。ビジネス関連の送金は認められません。ギフトならいいですが」
と言われるので慌てて
「ギフトです」
と言うと

お姉さん、こちらの目をはっしとにらみつけて
「今後このようなことがあったら、送金は請け負いかねます!」
とものすごい剣幕で怒られた。

送金できなければ困る…こちらは冷や汗いっぱい。

どうにかこうにか送金認めてもらえて、いやひどい目にあった。
ほかのひとをちらちら見るに、どうやら家族への送金が多いみたい。
銀行での送金は、きちんとしたビジネス的理由が必要だから、同じようにそのような理由が必要だと思ってた…てか、社長毎月送金してたんなら理由ちゃんと教えてよ~。

どちらが姓と名かを「ダイジョブダイジョブ」と教えてくれなかった海外スタッフは、受け取るときにひと悶着あったらしく、その後どちらが姓か名か教えてくれた。最初から教えろっちゅうねん。教えたら魔法がつかえなくなるとかの不具合でもあるんか。

その次の月からは、前回の控えを出せば「同じひとに送るのですね」とさくさく進むようになった。2,3回目まではまた怒られないか、不具合ないかとヒヤヒヤしてどっと疲れたものだけれど、やがて慣れて平気の平左になってきた。

そうして油断したころに、年末がやってきた。

いや、あたしの手続きはここ数回のようにスムーズに進んだのだが、
2つある窓口の2つとも、30分ほど占拠されていたのだ。

ひとつは日本人の高齢のご夫婦。

例によってオープンスペースの狭い窓口なので、内容が聞こえる聞こえる。

あたしが到着した時点でご主人がわめいておった。
なにやら、手続きを進めた挙句、システムから送金拒否されたのだとか。
「詐欺の可能性があるとかで、…」
と言われておじさん怒りまくり。

その場にはいなかったが、近くでぶらぶらしているという奥さんを電話で呼びつけてあたしも初回行ったちかくの区役所で住民票とってきてくれと頼んでいる。
ほどなく到着した奥さんが手続き進めだし、
ああこれで済むか…時間かかったなあ。

おじさんもぶつぶつ文句言いながらも、奥さんは受け入れられるとなって機嫌なおしていた。
ところが、奥さんもNGだとか。

「だいたい、詐欺ってなんやねん!わしはなあ、この土地に住んで60年以上、こんなこと言われたのははじめてやわ!」

前後の聞こえてくる話によると
国際結婚で英国に住む娘さんに送金しようとした。
いつもはセブン銀行から送金しているが、きょうは出来ず。
セブンでここから送金できるときいてきたのに、なんや!
てことらしい。

個人状況だだもれやな。

「わたしどもではわかりかねますので、システム側の担当者とお電話で話できますが、どうしますか?」
「おお、してくれ」

と電話してもらい、
「いままで送れていたのができないとかこれ、おかしいんちゃうの」
とぐだぐだ言っている。

あたしの後ろには長蛇の列。

また無表情で並んでたけれど、さすがにうんざりしてきて
すぐ後ろのアフリカ系の男性に
「今日、時間かかりすぎるよね」
と英語ではなしかけて
「まったく、そうだよ」
と返ってきたわけだが

担当嬢は職務上当然ながら英語もわかるようで
ハっとして、電話で怒っているおっさんたちに
「もうこれ以上、こちらではなんともできませんので、脇でお話ください!
ほかの人がお待ちですので!!」
と言われてようやくあたしの番。

もうひとつの窓口はというと、フィリピン人のおばさんが手続き中。
こちらはスムーズに運んでいるらしいからほっとしていたら、
「じゃあ次は…」
といって、順繰り3人に送金している。

いい加減にしてくれよ!

こちらは背後の殺気を感じたのか
3人への送金終えたあと、担当嬢に
「あしたも、あいてる?」
と訊いて「はい」の答えをきいて
「じゃ、続きはあしたにするわ。つかれた」
と離れてくれたので、アフリカ系男性はあたしのすぐ後に手続きしてもらえてた。

ここはちょいちょい、こういうややこしい案件が勃発するんだな。
スタッフも大変だな。

年が明けてからの2回はいまんとこ、無事にスムーズにいってるけど
油断してたらまた起こるだろうから、気をつけよう。

つっても、もらい事故みたいなもんだから、気をつけてもどうしようもないけれど…。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?