2-①面接

呼び鈴を鳴らすと、プレハブ倉庫のような建物のドアが開いて二階に通された。

20畳ほどの二階は明るい印象で、パーテションで仕切られた入り口側に設けられたテーブル、椅子が一脚こちら側、二脚あちら側に。

30歳代と思しきスリムできれいな女性がお茶を運んできてくれた。
本人は気取られぬようにしたつもりだろうが、こちらの顔をのぞきこんで確認したのが明らか。パーテションのむこうでは、男性がのびをしている。

ほどなくこれも30歳代とおぼしき男性がのぼってきて、これが面接までのやりとりをメールでしていた部長の八田さんらしい。

履歴書をわたしてお約束の自己紹介をしている間に、八田さんの隣にカジュアルな恰好ながらなかなかに迫力のある男性がやってきて、それが社長だった。名のある大手に10年勤務していたあたしの経歴に「すごいな」を連発してえらく感心してくれていた様子だった。

面接はするする進み、「一週間以内に連絡をします」ということで事務所を出た。印象に残っていたのは「仕事はたのしくしたい」という社長の言葉で、あたしはそれに心の底から同意していた。あの会社はいい感じだったな、と思った。就職活動で手あたり次第ネットで検索してみて出てきた自宅からさほど遠くない場所で、ほかに本命があったので面接の練習台のつもりで行ったけれど、いいところかもしれない。

2,3日後に八田さんから電話があり、
「ぜひ来ていただきたいと思います」
とのことだったので
「さきほどはお電話で採用のご連絡、ありがとうございました」
とメールを送ったところ、
「ちょっと待ってください。採用は決定していません」
と返信があった。ではあれは何だったのか。そのときは「じゃああの電話はなんだったの?」と訳がわからない思いをしながらやりとりして、結局兎も角面接は合格という話だった。その後入社のち、かずかずの八田さんのわけのわからない物言いには呆れることになる。

10日ほど後に、本命の、前職とほぼ同じ職種の大手の面接があったけれど、残念ながら落選。そ知らぬふりをして面接合格した会社に入社した。


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