1-③倉庫のアツイ日

そういうわけで、7月某日。

朝10時、М社倉庫1Fにあたし、照山さん、ゲンくんは集まった。

これまでは、人前で作業についての流れや説明をするのが苦手で
ぼそぼそと自分につぶやいたり、あたしに話しかけたりするようにしか話さなかった猫田さんだが、あたしがぎゃあぎゃあ教育したおかげでようやく
「今日はふだん作業している場所がふさがっているため、1Fのオープンスペースでの作業になりました。作業の内容はこうで、…」
と説明するようになった。

照山さんは相変わらず
「みんなテレビ見てうちの社長逮捕されてるって知ってるだろうに、こんなトラックの発着するクソ暑いオープンスペースでさらされながら作業って恥ずかしい。なんの罰ゲームだ」
と仕切る猫田さんに直接苦情や改善の申し立てはせず、こちらに愚痴をぶつけてくる。
へえへえ、「恥ずかしい」が重大事の京都人ですものねえ、「みんな、社長が逮捕されてるって知ってるなかで」ってどれだけ恥ずかしいでしょうねぇ、あたしは平気だけどね!ケケケッ。

ていうか、猫田さん!
今日の作業の前に言うことあるやろ。
今日の作業は社長が音頭とってるんだから、その社長に連絡がつかないておかしいはずだから、連絡とろうとしたはず。状況教えてよ。あたしらどうすればいいの?でも、何も言わないってことは、猫田さんは知らない?んなはず…ないよね?
と顔を見合わせながらあたしと照山氏、ゲンくんは作業をした。
休憩時間になり、荷物置きの小部屋にはいって3人で
「…どうなんだろ?」
会社どうなるの?そもそも、あたしらの今月の給料でるんだろか?
と話をしていたら猫田さんがやってきて
「その、みなさんが今お話ししている社長のことですけど、私も昨日ニュースで知りました。で、税理士の石原先生が昨日心配して駆けつけてくださって、顧問弁護士の青島先生とさきほど、お話ができたところです」

おい!それ先に言えよ!
顧問弁護士いることはぼんやり、社長の話からきいてたけど既に弁護士と連絡ついてあれこれ進めてるとは知らず、今後どうやって社長と連絡を取る?個々の業務は?とめっちゃ頭ぐるぐるしてたんだぞ!
相変わらず、伝えるべき情報とタイミングがわかってないヤツだなー!
暑いなか、頭にまで血が上ってカッカするぜ。

怒りをこらえながらきいていると
「みなさんには、通常通り仕事をして欲しいとのことです。
お給料はちゃんと出るとのことです。
質問があれば、青島先生、石原先生どちらも連絡してくださいとのことです。
のちほど、石原税理士と青島先生の連絡先をお伝えします」

その後の日々も得意の後出し情報が続くわけだけれど、
こちらは彼女がどれだけの情報をもっているのか
なにをどれだけ把握しているのかわからない。
本人は「わからないことは、弁護士にきいて」で
だいぶ後になって、彼女が社長のいろんなこと―
情報、資産、鍵などにアクセスできる立場だったことがわかる。

弁護士や税理士からきいた情報を自分で咀嚼し、
「それはこういうことですか」
きいた者が疑問に思うだろうことを確認し、
整理したうえで皆に伝えることができたらよかったんだけど
それができないのは社長がいたときから続くいつものことで、
理解しようとすらせずただただ言われたことだけを丸投げする。
仕事だって、丸投げが得意だ。

社長にいちばん近く、いろんな情報を持ち
弁護士がキーパーソンとして主に連絡するのが彼女というのは
のちのちまで、大変な苦戦を強いられることになった。


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