見出し画像

三人組の系譜~お笑い三人組からレツゴー三匹、ダチョウ倶楽部、そしてズッコケ三人組

 那須正幹「ズッコケ三人組」には、ハチベエ、モーちゃん、ハカセという三人組が登場する。
 三人組といえば、お笑い芸人では、ロバートやハナコ、四千頭身などのトリオ漫才がある。
 その中でも私は、やはり昔なじみのダチョウ倶楽部が一番に頭に浮かぶ。浮かぶ言葉は、「クルリンパ」もあるけど、「聞いてないよ」や「どうぞどうぞ」。三人で一緒に言う、あるいは一人に対して二人で一緒に言う。そんなギャグが浮かんでくる。
 もっともっと昔でいうと、「じゅんでーす」「長作です」「三波春夫でございます」のレツゴー三匹(1990年代より活動休止)が、自己紹介のギャグとともに浮かぶ。一人ではできない、三人がいて初めて成立するギャグだ。
 さらにもっと昔では、NHKで「お笑い三人組」という番組があった(1956年~1966年テレビ放送)。三遊亭小金馬、一龍齋貞鳳、江戸家猫八の3人が、「アハハ ウフフ 三人元気に 顔出して ニコニコニッコリ 笑ったら 心はいつでも青空だ」 と三人並んで一緒に歌うテーマソングが目に浮かぶ。三人組が並んだ映像が思い出に残る。

 これらはテレビが中心だが、本の三人組では何があるかと考えると、那須正幹の「ズッコケ三人組」となる。
 全50巻のシリーズだが(1978年~2004年)、全巻そろっている図書館はあまり見ない。何巻かが抜けている。それなのに、図書館においてある。今でも小学生にはけっこう読まれている。本がボロボロになっても読まれている。

 子どもによく読まれる本といえば、昔は「ハリー・ポッター」シリーズがあった。「ズッコケ三人組」よりもかなり分厚い文字だらけの本なのに、子どもたちが発売日には本屋に並び、一生懸命読んでいた。出版不況とは関係なく、面白いものは読まれるし、売れるのだろう。
 そういえば、「ハリー・ポッター」も三人組が出てくる。主人公ハリー・ポッターと親友のロナルド(ロン)、ハーマイオニーの三人だ。三人は友情で結ばれている。この三人でなければ物語が展開しない。
 本でいえば、有村浩の「三匹のおっさん」もある。こっちはテレビ東京のドラマの方が印象的だ。北大路欣也と泉谷しげる、志賀廣太郎の個性が強すぎる。幼なじみの仲良し三人組だ。
 三人組は仲がよかったり、三人で一組のギャグやセリフを持っているが、我らが「ズッコケ三人組」はどうだろう。

 ハチベエ(八谷良平)とモーちゃん(奥田三吉)は一緒に遊ぶけど、親友という感じでもない(個人の感想です)。ハチベエは誰とでも話すし、遊ぶ。たまたまモーちゃんと一緒に遊んだときに、ハカセ(山中正太郎)の家にドロボウが入った事件に遭遇する。その事件の後からハカセも一緒に行動するようになるが、友情にあふれているというより、ただ一緒に集まっている仲間、のような感じに思える。ハカセとは同じクラスなのに、それまで話したことがあまりない。そういう距離感だった子と、一緒にいるようになった。女の子たちも仲間になるが、幽霊事件の後、ただ一緒にいるようになっただけ。三人だけでなく、周りと一緒に事件を解決する。まあ、後で結婚することにもなる女の子だが、小学生の物語では、ただ一緒に遊んでいる仲間という存在だ。ハチベエと結婚した安藤圭子は、たまたまのできちゃった婚(大人になってからの話)。大きな恋愛物語があるわけでもない。
 ハチベエ、モーちゃん、ハカセという三人組の主人公。この三人は前川かずお(後に高橋信也)のイラストとともに個々は印象に残る。「ズッコケ三人組」は、この三人でなければならない。けれど、この三人でなくても展開できる物語が多いようにも思う。それぞれの話は、三人の友情物語というより、ストーリー展開の方に重きを置いた作りになっているようだ(個人の感想です)。この三人組じゃなくても、別の相手が仲間でもストーリーが成立する。結婚相手も、誰が誰と一緒になってもよいようにも感じる。

 だからつまらないというのではない。
 逆に、誰でもが主人公になれる物語となっている。特別な主人公が、特別な物語の世界に生きるのではなく、どこにでもいる子どもが、どこででも起きる(?)事件に遭遇する。読者がすぐに物語世界に入っていける。だからこそたくさんの小学生に読まれ、今でも読まれる。
 作者は、子どもの感覚と合わなくなったという理由で50巻でシリーズを終えているが、いつの時代の子どもたちも、「ズッコケ三人組」の世界にすぐに入っていけるだろう。ただ、その入口が見えないだけ。
 ちょっと肩を押して紹介すれば、「ズッコケ三人組」の世界の扉はすぐに開いてくれる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?