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心理的テロリスト製造小説としての華氏451

「なんか面白いことないかな」「最近つまんないな」とお思いの方にもおすすめ(そうでない方にももちろん)。
今日は世の中の見え方が大きく変わる、破壊力が強い小説「華氏451度」をご紹介。

華氏451度は、快楽と刺激を求めた結果、書籍を所持することが禁止された世の中で、書籍を焼く「昇火士」という仕事をしているモンターグを主人公としたお話。

ディストピア小説に思わせながらも、そのシーン1つ1つが、現代社会に通ずるところがあるのではないかと感じる。
今見ても、現代風刺小説として成立しているのが素敵です。

例えば、部屋に3面並んだテレビの中の人物と会話を楽しんだり、耳に着けた貝殻から音楽や情報を取り入れる人が描写される。
これは、暇さえあれば、PC、スマホを見て、ソーシャルメディアや動画サービスに夢中になり、電車の中ではイヤホンから流れる音楽を聴き続ける私たちと同じように思えてくる。

以下では、昇火士の団長であるベイティーが、主人公のモンターグに、昇火士の成り立ちについて語るシーンを少しご紹介したい。実にパワフル。

読んだ人を、大衆向け娯楽では満足できない心にさせる、心理的テロリスト製造小説のような小説だと思う。

この本は、過去、100分で名著にも取り上げられてましたが、情報が氾濫する今だからこそ、再読する価値があるというチョイスで100分で名著にこの本が選ばれたのかもしれない。

以下ベイティーがモンターグに、昇火士の成り立ちについて語るシーン 抜粋

ラジオ、テレビジョン。いろんな媒体が大衆の心をつかんだ
そして大衆の心をつかめばつかむほど、中身は単純化された
むかし本を気に入った人びとは、数は少ないながら、ここ、そこ、どこにでもいた。みんなが違っていてもよかった。世の中は広々としていた。ところが、やがて世の中は、詮索する目、ぶつかりあう肘、ののしりあう口で込み合ってきた。人口は二倍、三倍、四倍に増えた。映画や、ラジオ、雑誌、本は、練り粉で作ったプディングみたいな大味なレベルにまで落ちた。わかるか?

十九世紀の人間を考えてみろ。馬や犬や荷車、みんなスローモーションだ。二十世紀にはいると、フィルムの速度が速くなる。本は短くなる。圧縮される。ダイジェスト、タブロイド。いっさいがっさいがギャグやあっというオチに縮められてしまう

古典は十五分のラジオプロに縮められ、つぎにはカットされて二分間の紹介コラムにおさまり、最後は十行かそこらの梗概となって辞書にのる。もちろん、これは誇張だよ。辞書は参考に使うものだ。ところが『ハムレット』について世間で知られていることといえば、《古典を完全読破して時代に追いつこう》と謳った本にある一ページのダイジェストがせいぜいだ。わかるか?
保育園から大学へ、そしてまた保育園へ逆もどり。
これが過去五世紀かそれ以上もつづいてる知性のパターンなんだ

要約、概要、短縮、抄録、省略だ。
政治だって? 新聞記事は短い見出しの下に文章がたった二つ!しまいにはなにもかも空中分解だ!出版社、中間業者、放送局の汲みとる力にきりきり舞いするうち、あらゆるよけいな込み入った考えは遠心分離機ではじきとばされてしまう!

時間は足りない、仕事は重要だ、帰りの道ではいたるところに快楽が待っている。ボタンを押したり、スイッチを入れたり、ボルトやナットを締める以外にいったいなにを学ぶ必要がある?

民衆により多くのスポーツを。団体精神を育み、面白さを追求しよう。そうすれば人間、ものを考える必要はなくなる。どうだ?
スポーツ組織をつくれ、どんどんつくれ、スーパースーパースポーツ組織を。
本にはもっとマンガを入れろ、もっと写真をはさめ。心が吸収する量はどんどん減る。
せっかち族が増えてくる。
ハイウェイはどこもかしこも車でいっぱい、みんなあっちやこっちやどこかをめざし、結局どこへも行き着かない。誰もかれもがガソリン難民だ。

華氏451 レイ・ブラッドベリ

いかがですか?ちょっと頭を殴られた感じしませんか。
日常の見え方がちょっと変わってくる一冊です。ぜひご一読を。

上で、要約、概要、短縮、抄録、省略を批判するテキストを引用しながらも、簡単に読める「100分で名著」テキスト版やさらに簡単に見れる映画版を紹介してしまう私もまた、時間が足りない社会を生きる一人なのです(笑)

要領よく要点をさらいたいタイパ重視の方には以下もおすすめです。


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