見出し画像

こんにちは。

ビジタブルという貿易実務とか英語学習とかを扱うブログをやっている神高(かんだか)です。

今回は、それらとはまったく関係のない実体験をお話します。

**   **   **

先日、高齢の母親から、「1年前に契約した生命保険を解約したい」との相談を受けた。方法がわからない、と。

母親はすでに70歳を超えており、新規に生命保険に入るような年齢ではない。聞けば、知り合いの銀行員に「検診の要らない保険がある。簡単な体調のチェックだけで誰でも入れる」と勧められて、付き合いで入ったものの、毎月の生活費が苦しく、やめたいとのこと。

一度、母親自身が勇気を出して、保険会社の問い合わせ窓口に電話したらしい。

しかし……

「神高さんは良い保険に入っておられるから、今やめるのはもったいない」と説得されて、結局、解約をあきらめたと聞かされた。

ぼくは、2018年に大手都市銀行からネットバンキングへの住宅ローン借り換えを経験し、団信(死亡、あるいは深刻な病気になると住宅ローンを代わりに一括返済してくれる保険)の再契約のために保険の仕組みについても少し勉強していたので、内容確認のため、保険証書を見せてもらった。

愕然とした。

……なんだ、これは !?

こんな商品を「お得な生命保険」と称して70歳になる、ぼくの母親に売りつけたのか !?

紹介した銀行員も、どこまで意味が分かって紹介したのか疑わしい。

しかし、このまま放置できない。1万円近い月々の掛け金は、老後の生活では大金だ。

貴重な生活資金がこんなことに使われるのは、息子として許せないし、看過できない。

ぼくは、すぐに解約のための準備を始めた。

生命保険は「定期」と「終身」、それらの「抱き合わせ」しかない

通常、我々のような一般庶民が入る「生命保険」は「定期」と「終身」、そしてこの二つの「抱き合わせ」しかない。

そして、日本の大手生命保険会社は「抱き合わせ(定期特約付き終身保険)」を主力商品としている。

今回、母親が入った保険の証書には「払い込み期間:終身」と書かれていた。

そして、「解約返戻金:なし」「死亡保障:なし」とも明記してあった。

母親は、これらの意味が分からず、契約していた。

この保険は、完全な「定期」保険、つまり100%「掛け捨て」だ。

入院保障、指定難病特約(しかも、いずれも上限金額付)などと、もっともらしいことが書かれているものの、何のことはない。

とても単純な保険商品だ。

ほとんどの高齢の契約者(お金を払う側)は損をする。しかも、掛け捨てで死亡保障がない。

つまり、保険会社側が儲かると約束された保険商品だ。

なぜか。

保険屋さんは損をしない理由|70歳の女性の平均余命は19.85年

厚生労働省が発表している「生命表」という資料がある。

これは、1歳刻みで一覧表を作り、ある年齢まで生きた人が翌年も生きている確率を統計調査し、男女別に一覧表にしてある。

この表から読み解くと「70歳の女性は、平均してあと19.85年生きる」ことが判っている。

※ 表自体は特に難しくないので PDF を開いてみて欲しい。一番左の列<年齢>と一番右の列<平均余命>を比べるだけだ。

生命表: https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/22th/dl/22th_04.pdf

さらに、平成29年度の「簡易生命表」では、70歳女性の余命は「20.03年」となっており、平均的な70歳女性は90歳まで生きると予想されている。

簡易生命表:https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life17/dl/life17-07.pdf

この表と支払う保険料の上限から逆算すると、今回の保険の問題点がわかる。

会社名や商品名などはあえて伏せるが、70歳の女性が約6年前後かけると「契約者が負ける(掛け金の総額が、もらえる<かもしれない>金額の上限を上回る)」ような契約内容になっていた。

しかも、今回の保険は100%「定期」。つまり死亡保障は無し、完全な掛け捨てなのだ。(掛け捨てが悪いわけではない。念のため)

契約者本人が死んでしまえば、契約も終わる。入院保障は使えるものの、もらえるのは1日あたり、わずかな金額だ。

養う家族がいない、むしろ子供に迷惑をかけないように質素に暮らしている母親に、こんな保険が必要なわけがない。

終活で子供に迷惑をかけたくない、あるいは葬儀代を一部でも自分で用意したい人は、「終身」保険をかけるか、現金で積み立てしておくべきである。

こんな役に立たない定期の保険商品のために貴重な年金を無駄遣いしてはいけない。

注)相当な資産家になると、定期保険の税法を利用し、億単位の定期の「死亡」保険を掛ける例もある。しかし、最近は大手生保も自粛傾向とも報道されている。

いずれにしても、ぼくや母のような庶民には関係がないし、「死亡」が対象ではない今回の保険の「狡猾さ」がよくわかる。母親がかわいそうだ、本当に。

http://news.livedoor.com/article/detail/16016732/

「説明を聞く必要はない、とにかく解約をさせてもらう」

ぼくは、この保険会社の相談窓口に電話をし、相手に説明の時間を与えず、解約を申し入れた。

注:こんなとき、営業担当者(いわゆる外交員、女性が多い)に連絡してはいけない。彼女たちには、社内評価システムがあり、解約されたくない強い動機(モチベーション)がある。我々が、わざわざ、その説得にエネルギーを使う必要はない。

電話口の女性は何かの説明をし始めたものの、それを制止し、ぼくが理解している範囲で「定期」「終身」の違い、この保険が「終身」の部分がない完全な「定期」であること、おそらく意図的に誤認を狙っている「払い込み期間:終身」という表現の問題点などをまくしたてた。

「説明を聞く必要はない、とにかく解約をさせてもらう」

そう繰り返した。

相手もマニュアルなどに基づき、「今やめたら損ですよ」という殺し文句を言いたかったのだろうが、ぼくにはわかっている。

契約した時点で、この保険は「大損」だ。

少なくとも、年金生活をしている70歳の母親が入るべき保険ではない。

そして、「とにかく、解約させてもらいたい。今日付けで、日割の返還があろうがなかろうが解約処理し、次の支払いから止めて欲しい。最初に音声ガイダンスがあったように、この電話の会話は録音されているんでしょう?ならば、出るところに出ても構いません。今日付けで解約、間違いなく処理を進めてください 」と、表現こそ厳しいが、極力優しいトーンで粘り強く繰り返した。

最後に「わかりました。本人確認だけさせてください」という回答だったので、

「承知しました。しかし、本人にこれ以上、契約継続をうながすことは家族として許せません。70歳を超えた母親にどういうつもりでこの『死亡保障のない定期保険』を販売したのか、今更、『お客様サービス』のあなたを責めても仕方ないですが、解約以外に答えはありません。短時間だけ電話を変わりますから、本人確認を終えてください。頼むから、お願いだから、今日、解約させてください」

と強く念押しし、本人確認を終えた。

後日、無事に解約の確認書類が郵送されてきた。

あなたのご両親は大丈夫だろうか?

ぼくもビジネスマンの「はしくれ」なので、保険会社側から見たときのこの商品の「利益率」が相当なものになることは容易にわかる。

契約者が増えれば増えるだけ、保険会社は儲かる。営業をした「銀行」もインセンティブ(仲介手数料)で利益が出ただろう。

しかし、契約者側、特に高齢者から見たら、全く魅力のない、ほとんどの人が損をすることが約束されたような保険商品だ。

なぜこんな保険サービスを、しかも銀行経由で地方の高齢者に販売するのか、ぼくには理解できない。

しかも、入会時の書類を見ていないので確定的なことは言えないが、おそらく入院保障についても、いくつかチェック形式の「告知義務」欄があったと思われる。

となると、わずかな額の入院保障とて、何らかの理由で保険金の支払いを断られる可能性もあった。

40歳代のぼくでも、住宅ローン借り換えにともなう団信の新規契約には相当な注意を払い、労力と時間を使った。

心配な点は健康診断を受け、診断書として記録を残したりもしている。

いざという時に、「告知義務違反」をたてに支払いを拒絶されてはたまらない。

長生きの「才能」があるなら、気を付けたい

長生きする人は、長生きの「才能」が高い方々だ。

先ほどの「生命表」によると、100歳の誕生祝いを迎えたおばあちゃんと、来年も一緒に101歳の誕生日をお祝いできる確率は、実に約70%に上る。

つまり、同じような境遇の方が10人おられたら、7人までがそうなることが統計上、わかっている。

長生きした人は、平均寿命など関係なく、さらにそこから長生きする可能性が高い。

長寿の方々は、ポテンシャルが違う。平均値では測れない、まさにハンパない先輩方だ。

同様に、若者もほとんどが毎年生き残る。

30歳前後の男女が、来年の誕生日を祝えない確率は、文字通り「万が一」だ。

だから、若者こそ「定期」つまり「掛け捨て」保険の活用に意味がある。

定期の保険は、ハズレがうれしい「逆宝くじ」だそうだ。

不幸にして「万が一」に遭遇し、死亡、あるいは重度の障害を負っても、月々数千円、つまり1日ニ、三百円の掛け金をかけておれば、数百万円から数千万円の生活資金を家族に残せる。

だから、若い世代なら、掛け捨て保険や共済をうまく活用すればいい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?