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選んだ方の人生しか歩めないけれど

ずっと書きあぐねている記事がある。たぶん、そんなに難易度が高いわけではない。取材した内容はしっかり理解しているし、資料もたっぷりある。だけど、どんな文で書けばいいのか、それがつかめない感じ。初めての仕事は、それをつかむまで、時間がかかる。

仕事によって文体が変わるから、わたしの文体なんてないのかもしれない。小説だって語り手のキャラによって文は変わる。三人称にしても作品のキャラによって変わる。わたしらしさとは何であろうか、ね。

いつも閉店間際にジムに駆け込んで、20分くらい有酸素運動をして、サウナに入って帰ってくる。インドアバイクをこぎながら、黒いジャージのズボンに白い猫の毛が結構ついているのを見つける。粘着テープで取ったはずなのに、取り切れていない。

先代の猫がいたときは白ベースの黒ぶち(牛柄)だったので、白い毛が目立つ黒い服は選ばないようにしていた。5年前に亡くなってから、積極的に自分から猫を飼う行動は起こさないと決めていた。おかげで、黒い服も買えるし、夫婦で旅行にも行けるし、トイレの片付けもしなくていいし、冷暖房のためにドアを閉めても開けろと鳴かれることもなかった。

だけど白猫が我が家にやってきて、また白い毛にまみれる生活になった。夫婦で旅行には行けなくなった。トイレの片付けもしなくちゃいけないし、ニャーって鳴いたらドアを開けてあげなくてはいけない。そんなことをしても誰にも褒められたり認められたりしないけど、お世話をすれば猫が幸せそうに喉を鳴らす。

5年ぶりに猫を飼ったら、なぜか、とても気持ちが穏やかになった。自己顕示欲とか劣等感とか承認欲求とか、とにかく他人からどう評価されるかが関わる欲望から、解脱できた。

大人になったのかもしれない。もうわたしが主役ではなくていい。自分が子どもを持てば、きっと親は子に主役を譲るのだろう。そんな誰もがしていることを、今更わたしは猫を通して疑似体験しているのかもしれない。

今週の土日は東京で小説講座。40名の満席御礼です。いやはや。でも、これも大学の力なんですよ。というのも、4月からNHK文化センター梅田教室で文章講座をするのだけど、まだ申し込み0人。まだ1か月あるけれど大丈夫かな…。もしよかったらサイトを覗いてみてください。
「心を伝える文章の書き方講座」

〈本日の小説活動〉
ここに何かを書かねばと思い、『最果てアーケード』小川洋子・著の短編「遺髪レース」を読んだ。小説の文章はいいな。実用的ではない。もちろん物語を伝えるという意味では実用的なのだけど。良質な無駄にあふれている。質感がある。温度がある。

読まなければ、書くことはできない。

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