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俺の「ときメモ」プレイ日記

きっかけ

俺は知的財産の仕事をしている。その中の著作権法の分野に,「ときめきメモリアル事件」という有名な事件があり,最高裁判例もある。「ときめきメモリアル」(略称「ときメモ」)というのは,ご承知のとおり恋愛シミュレーションゲームだが,これを最高裁が説明すると,「本件ゲームソフトは,ゲームを行う主人公(プレイヤー)が架空の高等学校の生徒となって,設定された登場人物の中からあこがれの女生徒を選択し,卒業式の当日,この女生徒から愛の告白を受けることを目指して,3年間の勉学や出来事,行事等を通してあこがれの女生徒から愛の告白を受けるのにふさわしい能力を備えるための努力を積み重ねるという内容の恋愛シミュレーションゲームである。」となる。さすが最高裁というべきか,実は事件のポイントにも絡んだ的確な説明だ。

その「ときメモ」だが,ある日,職場の仲間との会話でゲームの話題になり,「信長の野望」や「三國志」などのシミュレーションゲームの話が出たあと,「ときメモ」の話にもなった。そういえば「ときめきメモリアル事件」というのもあったっけ,ということで仕事柄,小さく盛り上がった。それと同時に,最高裁判例は知ってても,ゲーム自体はやったことがないことに今さら気付き,今度ぜひプレイしてみようということに(自分の中で)なった。もうかなり昔(1994年発売)のゲームで,そもそも入手できるのかとも思ったが,最近もシリーズもののゲームが出ているらしい。調べてみると,今でも初代「ときメモ」はダウンロード販売されていた。

プレイ日記

そこで俺は早速ソフトをダウンロードし,職場の仲間から借りたプレイステーションポータブル(PSP)で,有名な「ときメモ」を四半世紀遅れでようやくはじめた。ソフトは600円くらいでダウンロードできたと思う。古いゲームをやるのは,金のかからないいい趣味だ。ただ,金がかからないのはいいとして,これがなかなか難しいゲームで,結局クリアまでに1年半もかかってしまった。コスパが優秀過ぎて,時間経過としては本当に高校生活を送った気分だ。

ゲームでは,藤崎詩織というヒロインがいて,卒業式の日に伝説の樹の下で,その藤崎詩織から愛の告白を受けるのがプレイヤーの最終目標となる。藤崎詩織以外にも,女子生徒が10人くらい出てくるから,その中からあこがれの女子を選んで告白を受けても,ゲームは一応クリアといえる。ただ,もともと主人公(プレイヤー)は,藤崎詩織にあこがれてる設定だから,藤崎詩織の告白を受けるのが真のクリアだ。

俺の作戦としては,藤崎詩織は優等生だから,ひとまず成績を上げるために勉強を頑張った。ついでにパソコンおたくを目指して,電脳部に入部した。その結果,頭は良くなったが,卒業式の日には誰からも振り向いてもらえず,悲惨なエンディングを迎えた。その後も,ガリ勉おたく路線でしばらく頑張ったが,まったく上手く行かないので,今度は運動を頑張ることにし,バスケ部にも入部した。すると,マッチョな連中には気に入られたようだが,藤崎詩織は冷たいもので,熱血スポーツ路線も上手くは行かなかった。

ということで,バランスよく,勉強もスポーツも満遍なくこなすようにして,最終的にクリアに至ったが,このゲームのポイントは,実はそこにあるのではない。このゲームで最も重要なことは,とにかく登場してくる女子生徒に嫌われてはいけないということだ。ふつう,あこがれの女子がいれば,その女子に一途になろうものだが,そうするとこのゲームでは,プレイヤーに相手にされない他の女子から嫌われることになり(たぶん嫉妬),そこを震源として悪い噂を流され,結果としてあこがれの女子にも嫌われることになる。だから作戦としては,誰からも嫌われないように八方美人的に振る舞うのが正しく,誰かに嫌われたときはその火消しに走り,常に悪い噂が流れないよう注意しなければならない。

誰からも嫌われないようにするには色々な子とデートをし,嫌われたら火消しのためにその子とデートをするから,もしかすると浮気性な人ほどこのゲームは得意かもしれない。その辺を分かったうえで,さらにあこがれの女子に気に入られるように,勉強なり,運動なり,部活なりに精を出す。しばらくプレイしていれば,女子の誰かと結ばれるケースも出てくるが,藤崎詩織は非常に難しい。後から分かったことだが,藤崎詩織はすべての能力を上げておかないと告白してくれず,一方の能力を上げようとすると他方が下がるというような,矛盾した能力を同時に上げなければならないなど,他の女子よりも大分ハードルが高い。俺は試行錯誤の末,たまたまゴールに辿り着けたようだ。

後記

結局クリアまでに1年半もかかったが,今思えばそれなりに楽しいゲームだった。ファミコン第一世代の俺は,攻略本や攻略サイトはゲームクリアの上では邪道だと思っているから,「ときメモ」も何も見ずにクリアした。そして,良いゲームは,当然,攻略系に頼らずにクリアできるものだ。何度も何度も行き詰まり,何度も何度もやめそうになって,いよいよギブアップかという時に攻略の糸口が見つかったり,先へ進めたりするのが良いゲームだ。余談だが,謎解き系では,「ゼルダの伝説」がそのようなゲームだ。俺にとっては,「ときメモ」も良いゲームのひとつで,何度もやめそうになり,実際,放置する期間もあったが,それでも少しずつ進みながらクリアできたという点では,ゲームバランスとしても優れたゲームだったと思う。

ところで,「ときめきメモリアル事件」の方だが,これはプレイヤーの能力値があらかじめ高く設定された,ゲームソフトとは別物のメモリーカードが問題になった事件だ。著作権法で定める権利のひとつに,自分の著作物を意に反して改変されない権利(同一性保持権)というのがある。この権利を侵害するとして,「ときメモ」側が,メモリーカードの販売業者を訴えたのがこの事件だが,ここでのミソは,実際の侵害行為(改変)をおこなうのはプレイヤーであって,メモリーカードの販売業者ではない点だ。ただ,最高裁判決では,プレイヤーの侵害行為を惹起したということで,結果的に販売業者の損害賠償責任が認められた。メモリーカードは作る方も買う方も,興味本位や遊び半分といったところだろうが,ゲームメーカーとしては,思いを込めた作品が傷付けられ,許せなかったということだろう。

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