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【江戸ことば その12】湿っ濃い(しつっこい)

≪ 2011年、Facebookへの投稿 ≫
講談社学術文庫の『江戸語の辞典』(前田勇編)は1067ページもある大著で、約3万語を収録しています。
私は4年前(注:2006年秋)に「端から端まで読み通してみよう」と一念発起し、4か月半かけて何とか通読しました。今も持ち歩いては、「江戸の暮らしが目に浮かぶ言葉」「現代語の知られざる語源」「色っぽい言葉」を楽しんでいます。
1日に1語程度、ツイッターで紹介してきた江戸語を、Facebookのノートにまとめて採録してみます。
なお、カッコ内は私の感想・コメントで、編者の前田勇さんとは関係がありません。

「湿っ濃い」(しつっこい)

濃厚だ。
色情的でいやらしい。
多淫だ。
くどくてうるさい。

(漢字表記に目から鱗が落ちた。「湿」は淫の意。湿が濃いからしつっこい)

文化8年(1811年)
「あんまりべたべたと化粧したのも、助兵衛らしくしつこくて見ッともないよ」
2011年1月23日 Twitter投稿

「しつこいなー」という言葉が、元々は「色」の言葉だったと知って驚きました。
「湿」「濃」という漢字は、当て字に近いのだろうと思いますが、あえてこの漢字を当てていることで、隠微な匂いも漂います。

江戸の言葉遣いでは、語尾の母音「ae」「oi」が、しゃべる時は「ee」に変化します。「お前」(omae)は「おめぇ」、「しつっこい」(situkkoi)は「しつっけぇ」。故郷の群馬でも、普通に「おめぇ、しつっけぇんだよ!」と言っていました。「くどくてうるさい」という意味ですね。ここには「色」の要素は皆無です。

番頭から言われた反物を持って蔵から出ると、母屋の縁に立った手代の長次郎がこちらを見ていた。お市の背におぞ気が走った。いつも、店で働く女衆の二の腕やうなじに、長次郎はねちっこい視線を向ける。
ああ嫌だ、あの湿っこい眼。
客を待たせてはいけない、という素振りで、お市は小走りに店頭の番頭の元へ向かった。

庭の藪ラン。
2007年8月、父の撮影。

12湿っ濃い


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