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【江戸ことば 33】機関身上(からくりしんしょう)

≪ 2011年、Facebookへの投稿 ≫
講談社学術文庫の『江戸語の辞典』(前田勇編)は1067ページもある大著で、約3万語を収録しています。
私は4年前(注:2006年秋)に「端から端まで読み通してみよう」と一念発起し、4か月半かけて何とか通読しました。今も持ち歩いては、「江戸の暮らしが目に浮かぶ言葉」「現代語の知られざる語源」「色っぽい言葉」を楽しんでいます。
1日に1語程度、ツイッターで紹介してきた江戸語を、Facebookのノートにまとめて採録してみます。
なお、カッコ内は私の感想・コメントで、編者の前田勇さんとは関係がありません。

「機関身上」(からくりしんしょう)

実際は困窮していながら、外面を立派に見せているだけの財政状態。

(…からくり人形は機関人形と書いた。身上は財産や家計の意味。つまり「自転車操業」ですね。語感が面白い。ん?…今の日本か!)

文例・安永3年(1774年)
「この卦(け)に当たる客は、位ばかりにて機関身上なり」
2011年2月22日 Twitter投稿

「からくり」は、「絡繰」「唐繰」「機巧」などとも書き、機械的に同じ動作を繰り返すことを意味しています。水車や機織り機をイメージするとよいでしょう。今に残る言葉は、「からくり人形」です。
同じ動作を繰り返さなければ止まってしまう。「自転車」も、からくりですね。からくり身上が「自転車操業の身の上」となるわけです。
近代の機械文明になってからは、「蒸気機関」と言葉は展開し、「からくり」を載せて同じことをくりかえしながら前に進むから、「機関車」となります。
煙を上げて走る機関車の記憶は、私の世代にはもうありませんが、「機関車」という言葉自体は、幼いころにはよく聴きました。「機関車」「SL」「でごいち」……。田舎の子供には、夢のある言葉だった印象があります。今の子供達にも「機関車トーマス」として知られる言葉です。

「お大尽のように見せちゃいるが、伊勢屋は内実、まったくの機関身上で、取引先の一軒でも『お前のところとはもう付き合わねえ』と言ゃ、もう商売は立ちいかねぇ。すぐに身上をつぶすぜ」

写真は今年4月、自宅の庭で父撮影。

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