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祭りはローカル 赤坂の話がしたい 27

 赤坂には今、23の町会が残っている。しかし、飲食店が密集する地域では、実際に住んでいる人が「片手で数えられるくらい」しかいない町会もある。
 それぞれの「町神輿」がある。しかし、自分たちだけでは担ぎ手が足りない。赤坂に限らず、お江戸の神輿は実はかなりの部分、「担ぎ屋」と言われる愛好家に依存している。神輿大好きな人は、今週はどこ、来週はどこ、と手伝って回るようなシステムができている。
 「中ノ町・新四」町会は、地元で人手を集められる人数が赤坂でトップクラスに多い町会だ。人口が減ってきても、できるだけ地元の人間で担ぎたい気持ちは変わらない。

 2016年、単身赴任して最初の年。居酒屋「花丸」の玉置さんから、「神戸さん、町会の神輿を担ぐ?」と聞かれ、「いいんですか?! ぜひ!」と即答した。
 「花丸」の店内には、祭りの写真がたくさん張ってある。東京の祭りは、江戸火消しの装束なのだそうだ。「巴」紋の町会半纏は、借りるのではなく、ほしい。余りを安く譲ってもらうことにした。
 「中ノ町・新四」町会だって、もっと人手はほしい。そこで、僕と同じように、JNN(TBS系のネットワーク)の地方ローカル放送局から東京支社に赴任して来ている仕事仲間を誘ってみようと思った。
 地方から東京に赴任してきた人間には、「地域的なつながりが東京でも欲しい」と、内心思っている人がそれなりにいる。それぞれのローカル局は、地元とともに生きているからだ。玉置さんは、「それはありがたい。その人たちの半纏は、神戸さんを窓口に貸し出すからさ」と言われた。
 JNNの仲間に「火消装束を着て、祭りに出ない?」と声をかけると、「ほんと!」「東京でそんなことができるの?」と何人も乗ってきた。

 何にせよ、やるからには、衣装だ。かっこつけと思われようと、見た目だけは江戸火消しになるのだ。
 帯と、股引は最低買わなければならない。みんなで浅草の祭り専門店に買いに行った(そんな店があるとは、さすがお江戸)。
 半纏の下に「腹掛け」を付けると、すごく火消っぽい。そろえると、1万円ちょっと。うーんと考える人もいるが、節約して、鯉口シャツだけ買って腹掛けを諦める人、足首まである長股引ではなく、短い股引で済ます人、いろいろだ。熊本の小林ちゃんは突出してフル装備を購入。江戸火消しになる気満々だった。まさに、かっこから入る男。だが、それも「粋」と呼べるのかもしれない。

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 赤坂氷川神社の秋の大祭は、9月。数十人の担ぎ手の中で、私たちJNNのメンバーは約10人。それなりの勢力である。何より、お江戸の祭りに、JNN地方局の仲間が大挙参加する。それだけで、わくわくするではないか。
 しかし、いざ担ぎ始めると、担ぎ棒はガンガン肩に当たる。前後はぎゅうぎゅう詰め、両隣の棒も同様で、抜け出すこともできない。痛みに耐えていると、体力を喪失してくる。これはきつい。さらに、女性が前後に入ってくると、挟まれた男性は……。女性より肩の位置が高く、重みがぐっと増す。女性と密着していることを意識している余裕はない。
 こんなお祭りに参加したJNNの局は、北海道から沖縄まで、10局。山口の川上さんは、外国人の夫に火消し装束を着せて、夫婦で参加した。この外国男性、背が高い。肩にかかるあまりの重さに、ひざを痛めて離脱した。後で、「人生でこれほど苦しい時間は、なかった」と語っていたという。
 熊本の小林ちゃんは、苦しそうな顔をしていたのに、カメラを向けた時だけは、「いえーい!」と弾けるような笑顔でポーズを取った。

 今年の祭りは、残念ながら中止と決まった。私も福岡に戻る。だが来年、JNNの戦力が参加しないと、赤坂「中ノ町・新四」町会も、なかなか苦しくなる。東京に残る仲間には、ぜひ続けてほしい。

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(2020年6月23日 FB投稿)

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