008 千円札

 自転車で図書館に向かっていると、前方に何か落ちていた。

 よく見ると、千円札だ。二つ折りにしたお札が、ばら、ばら、ばら、と三枚。いや、ひとつ厚みがあるものがあったから、四枚かも。

 はだかでポケットに突っ込んで、スマホか何か取り出した拍子に落ちたんだろうか。

 道端に落ちている大金に、あっと思ったが、わたしはそのまま通り過ぎた。

 ある出来事から、落ちているお金は、無視することに決めているのだ。

 話は、高校三年のころに遡る。

 ある朝、学校行きのバス停に向かって歩いていると、地面でキラリと何か光った。五百円玉だ。一瞬、迷ったけど、拾って制服のポケットに入れた。

 それから数日後、『ルパン三世officialマガジン』の発売日が来た。

 きっかけは、金曜ロードショーだったと思うが、その当時、ルパンにどハマりしていた。ゲオで映画をレンタルするだけでは飽き足らず、漫画も読み漁っていたのだ。

 漫画雑誌は一冊、五百円。拾ったお金と同じ金額である。
 帰りにコンビニで買おう、と制服のポケットに五百円玉を入れて家を出た。これがいけなかった。

 バスを降りるとき、ポケットから定期を出したはずみで、五百円玉が落ちてしまった。
 ころころ転がって、バスのドアの下に入り込んだ。
 五百円玉を取るには、一度、ドアを閉じる必要がある。朝の忙しい時間で、後ろには列。運転手さんに「すみません、実は……」と言えるはずもなく、泣く泣く、あきらめた。
 やっぱり、因果応報ってあるんだな、と心底思った。

 五百円を拾って、五百円を落としたので、お財布的には、差し引きゼロ。

 だけど、この出来事には、それ以上の意味がある気がした。次、落ちてるお金を盗んだら、この程度じゃ済まさないぞ、という神様からの警告、みたいな。

 以来、落ちているお金は、拾わないことにしている。触らぬ神に祟りなし。

 今回は、千円札だったけど、これが万札だったら……、というのは、考えないことにする。


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